渋谷すばる「Lov U」インタビュー|ファンに向けた愛、自らに向けられた愛 12曲が表す「まったく新しい今の渋谷すばる」

渋谷すばるのニューアルバム「Lov U」が10月16日にリリースされた。

今年8月にトイズファクトリーとの契約やニューアルバムのリリースといった新情報、さらにアートディレクターの丸井元子とタッグを組んだビジュアルを公開し、その活動が新たなフェーズに入ったことを印象付けた渋谷。9月にはTBS系「CDTVライブ!ライブ!」でひさびさに地上波音楽番組に出演し、Prime Videoオリジナルドラマ「龍が如く ~Beyond the Game~」への出演も発表されるなど、多彩な活躍でも話題を呼んでいる。

そんな渋谷がリリースした「Lov U」は、カナダ在住の作詞・作曲家のmicca、THE CHARM PARKやフジイケンジ(The Birthday)といったクリエイターが多数参加し、渋谷が作詞作曲を手がけた楽曲「First Song」も含めてラブソングばかり12曲が収められたアルバム。さまざまな“愛”の形を渋谷はのびのびと歌い上げ、これまでの作品とはまた異なる世界をリスナーに提示している。

渋谷が制作環境を変えるに至った心境はどんなものだったのか、ニューアルバムを通じてファンに伝えたい思いは、これからの活動は──。音楽ナタリーでは渋谷にインタビューを行い、現在の心境を語ってもらった。

取材・文 / 真貝聡撮影 / 笹原清明

「こっちに来なさいよ」と言われていたのかな

──前回はアートディレクターの丸井元子さんをお招きして、トイズファクトリーからの第1弾アルバム「Lov U」のジャケットやアーティスト写真に込めた思いをお話しいただきました(参照:渋谷すばる、アートディレクター丸井元子と語る新たな表現の世界)。その後、アートワークに対する反響はどうですか?

ファンの方には喜んでいただけてると思います。今までの作品ではまずやってこなかった表現ですけど、ちゃんと思った通りに伝わってるなと感じられてうれしいです。

──具体的にどんな声が?

どうやろう? こういう意見が多いというよりは、みんなが「いい」と言ってくれてる感じがします。あと、アー写の笑っている感じも珍しいから喜んでもらえてるのかなと思いますね。

渋谷すばるのアーティスト写真。

渋谷すばるのアーティスト写真。

──このアー写が「顔の両側から猫が来ている感じで」と言われたカットですか?

ハハハ、それは別のカットですね。最初に丸井さんから言われたときは、ちょっと意味がわからなかったですけど。

──「長年いろんなことをやってきましたけど、この現場では『こんなこと初めて言われたな』ということがいっぱいあったんですよ」とおっしゃってましたよね。

はい(笑)。いろいろとポーズを指示していただいて。面白半分、恥ずかし半分みたいな気持ちではあったんですけど。アルバムのブックレットにはそんな瞬間がどこかに収められてると思います。

──改めて、今回トイズファクトリーと契約して環境を変えられた理由はなんだったのでしょう?

理由は人との出会いで、これは偶然やったんですよね。僕がライブのリハーサルをしていたら、隣のスタジオにJUN SKY WALKER(S)の皆さんがいらっしゃって。そこにトイズファクトリーの今村さんもいらっしゃった。ちょうどそこに前一緒にお仕事をしたスタッフさんがいたので、その方を介して「どうもはじめまして」と挨拶したのが最初。そこから一度会ってお話しをすることになったんです。「最近はどんな活動をしてるの?」と話を聞いてもらって、「アーティストってこうでこうでこうだよね」と言われたときに、なんか涙が止まらなくなって。

渋谷すばる

──え、それはどうして?

独立してずっと1人でやっていたから、自分の中で相当孤独な状況に陥ってしまってて。しんどいこともあったので、理解してもらえたのがうれしかったんです。そのときの僕はどこかのレコード会社と一緒にやってるわけではなかったし「ああ、こういう出会いがあるということは、そういう定めなのかな」みたいな気がして。お話しさせていただくうちに、どんどん展開していって今に至る感じですね。

──運命に導かれたような話ですね。

うん。いろんなものが進めば進むほど「こっちに来なさいよ」と言われていたのかな、という気がしますね。

──トイズファクトリーからの第1弾作品となるアルバム「Lov U」は、制作されるうえで何かコンセプトや思い描いている構想はありました?

とにかくファンの皆さんに楽しんでいただきたい、喜んでもらいたいというのがあって。それは常々変わらないことなんですけど、この出会いによって今までやってこなかった“新しい表現”という、いい意味でのサプライズというか。そういうところを楽しんでもらうのが大前提としてありましたね。

──作品全体のカラーとしてイメージされていたことは?

これまでの作品は自分ですべてを作っていて、楽曲もそうですけど、自分自身と向き合うような表現がほとんどだったので。そことは真逆というか、ガラッと変えたいなと思っていたんです。だから、たくさんのクリエイターの方に楽曲提供をお願いして。そういう作り方も含めて、新しい渋谷すばるを表現して楽しんでほしかったのはありますね。

──どなたに楽曲提供をお願いするかは、渋谷さんが発案されて?

いや、僕からは何も。トイズファクトリーさんにご紹介いただいた方とご一緒した形ですね。

渋谷すばる

作ってる側全員の愛がたくさん詰まったアルバム

──ラブソングを詰め込んだアルバムにすることは、最初から決めていたのでしょうか。

「ラブソングにしましょう」ということではなかったんですが、とにかくファンの方に向けたアルバムにしたいという気持ちがあって。それと、いろんなクリエイターの方やトイズファクトリーさんとも出会ったばかりだったので、まずは今までの自分のストーリーもいろいろと話しながら、1曲1曲大事に作っていきました。チームの1人ひとり、作ってる側全員の愛がたくさん詰まったラブソング、という感じがしてますね。

──クリエイターやスタッフの皆さんに事前にご自身のストーリーを共有されたとのことですが、アルバムに先駆けて配信リリースされた「人間讃歌」「君らしくね」からも渋谷すばるに対するクリエイターさんの理解と愛を強く感じました。

どちらもmiccaさんとTHE CHARM PARKさんに書いていただいた曲ですね。miccaさんとは今回初めてお会いしたんですが、事前にたくさん会話をさせてもらいましたし、今でもしょっちゅうやりとりしていて。他愛のない日常会話がほとんどですけど、今や友達のような感覚にもなっている。それぐらい、お互いの人となりを知ったうえで作っていただいた曲なんです。深い話もたくさんしたし、自分のストーリーとmiccaさん自身が今まで経験されてきたことがリンクする部分も多かった。本当に渋谷すばるに入り込んで曲を作ってくださったのが伝わったので、自分で歌っていても「人からいただいた曲」という感じがしなくて。それぐらい寄り添ってくださったんだな、と感じましたね。

──「君らしくね」は個の存在を肯定するメッセージを感じました。そもそも「ありのままの自分でいればいい」ってとても身近な言葉にも感じるけど、学校とか社会の中にいると、それが遠い言葉に思える瞬間がありますよね。そんな中で「誰かと比べたりはしなくていい 君は君のままで」と肯定してもらえたことによって、僕自身が自分を好きになれた感覚になりました。

この曲は初めてデモを聴かせてもらったときから、すごく前向きな力を感じましたね。なんか、普通に生活していたらあまり考えないですもんね、“自分らしく”って。学校や会社の中にいたら、基本的にはみんなと同じようにしますし。でも、はみ出そうが何をしようが「自分でいられたらそれでいいんじゃない?」って僕は思うんです。それをこうやって音楽で言うことの重要さというか、大きさというのを改めて感じましたね。当たり前のことなんだけど、だからこそ音楽で伝えることは、とても大きな意味を持つなと。

渋谷すばる

──渋谷さんが書かれた「ないしょダンス」(2023年1月リリースのシングル)と通じるものを感じました。「ないしょダンス」は歌詞の主人公の目線で歌っていて、「君らしくね」は“君”という第三者に向けて歌っている。そういう視点の違いはありますけど、「自分らしく生きるべきだ」という根本のメッセージは共通しているなって。

うん、ありがとうございます。そこが自分以外の人と作ることのよさですよね。自分で曲を作ると、どうしても自分自身と向き合うしかないんですけど、自分じゃない人に僕を見て曲を作ってもらうのは、ファンの方が僕を見ている目線に近いのかなと思う。それは今回初めてクリエイターさんとやってみて勉強になったし、「あ、こういうふうに見てもらえてんのかな」というのを楽曲から感じたし、自分に対して「これでいいんだ」とも思えた。制作期間は、すごく意味のある非常に濃い時間でしたね。

──「人間讃歌」「君らしくね」を配信リリースされて、リスナーからはどんな反応が届いていますか?

僕も言葉で説明しきれないくらい深い曲ですけど、こちらの思いが聴いてくださった方にもそのまま伝わってると思います。1回パッと聴いて「え、何これ?」となった人も何回も繰り返し聴いてしまうのは、その曲が持ってる力とか情報量が豊富だからなんだろうなと感じましたね。

──「君らしくね」は9月23日に放送された「CDTVライブ!ライブ!」(TBS系)でも披露されましたね。

音楽番組に出ることがひさびさなのもあったと思いますし、皆さんが僕の出演を喜んでくださってるのが伝わってきてすごくうれしかった。それに歌っていて純粋に楽しかったですね。

リード曲「Lov U」はハッピーなだけではないところがすごい

──アルバムのリード曲「Lov U」のデモを初めて聴かれたときは、どんな印象を受けましたか?

うーん、難しそうやなって(笑)。メロディラインの複雑さもあるけど、アルバムのタイトル曲でもあるし、歌詞の内容も含めて自分に歌えるのかなと思って。表現しきれるのかな?というのが最初の印象ですかね。アルバム名が「Lov U」でありながらも「人間讃歌」とか、さまざまな愛を表現した曲がある。そんな中で、どストレートなタイトル曲がドーンときて。そりゃあ当然だよね、とは思ったんですけど、同時に「これはちょっと挑戦だな」と。

──聴いてみて感じたのが、1曲通して柔らかい歌い方なんだけど、その中にレイヤーがあるということで。頭サビは優しく柔らかい歌い方で、Aメロは状況説明の歌詞なのもあって淡々とした歌い方、そして2度目のサビは強く言葉を発して歌われている。

細かく聴き込んでもらえてうれしいです、ありがとうございます! ストーリー性のある歌詞の内容もそうですけど「そういう曲だな」と思ったので、自然とレイヤーのある歌い方になりましたね。そこをうまく表現しきれないと思いを伝えきれない曲だなということは感じたので、事前にかなり聴き込んで何回も歌い込んでレコーディングに臨みました。

──歌詞については、どのように解釈されましたか?

2番のAメロで突然“君”がいなくなるフレーズが入ってくるんですけど、そこが大きいポイントな気がしていて。「Lov U」という曲だけど、明るくハッピーなだけではない要素が一瞬入ることによって、スイカに塩をかけるじゃないけど、後半の幸せ度がさらに増してる気がする。とにかく「miccaさんすごいな」と思いましたね。

──僕は「Lov U」を聴いて「人生ってこれかもな」と思いました。渋谷さんがおっしゃったように、2番Aメロで大好きな人が突然いなくなってしまう場面がありますけど、大事なのは自分がその事実をどう受け止めるかということで。悲しい出来事をそのまま引きずるのか、それとも人生の糧にして新しく一歩を踏み出すのか。どんな出来事でも、自分次第で暗転も好転もする。そこが人生を表していると思いました。

うんうん、そうですよ。そこが物語の深さを生んでいるなと思います。miccaさんがすごいのはそこですよね。単純にハッピーなストーリーだけにしないところが自分も本当に好きな部分ですね。いや、素晴らしいですよ。