渋谷すばるがトイズファクトリーとレーベル契約。その第1弾作品となるニューアルバム「Lov U」を10月16日にリリースすることを発表した。
2019年にソロ活動を本格始動させ、これまで3枚のアルバムをリリースし精力的なライブ活動も展開してきた渋谷。その方向性は非常にストイックで、自身のやりたいこと、好きな音楽のみに向けて邁進する姿が多くの人々にとって印象的だったはずだ。しかし今回公開された新ビジュアルは、目を輝かせた渋谷の自然な笑顔をとらえたもの。雑誌や広告、CDジャケット、さまざまなアーティストのアートワークなどを手がけてきたアートディレクターの丸井元子を迎えて制作されたこのビジュアルは、アルバムに込められた「ファンの方々に楽しんでもらいたい」という渋谷の思いをインパクト十分に伝えている。なおアルバム「Lov U」はラブソングばかり12曲を収録した作品で、自作曲を大事に歌い続けてきた彼が多数のクリエイターからの楽曲提供を受けていることも、ファンにとっては大きな驚きをもって迎えられている。
音楽ナタリーでは今回のリリース発表にあたり、渋谷と丸井へのインタビューを実施。今回のタッグに至った経緯や渋谷の心境、お互いのクリエイションに対する思い、アルバムから先行配信される新曲「人間讃歌」「君らしくね」などについて、たっぷり語ってもらった。
取材・文 / 森朋之撮影 / はぎひさこ
自分にしかなれない、ありのままでやるだけ
──渋谷すばるさんのトイズファクトリー第1弾作品となるアルバム「Lov U」は“ラブソング”がテーマです。アートディレクターとして丸井元子さんが参加していますが、まずはこのタッグが実現した経緯を教えていただけますか?
渋谷すばる 「ファンの方々に楽しんでもらいたい」というのがアルバムの大きなテーマなんですが、「アートワークでも喜んでもらいたい」という思いがあって。その中で「丸井さんにやっていただけたら」という話が出てきて、ダメ元で聞いてみたら受けてくれることになりました。楽曲もそうですけど、ここから新しいことが始まるという状況の中で、アートワークは大事になってくるので。
丸井元子 最初にいただいたのは「渋谷すばるさんをストレートに表現してほしい」というお話だったと思います。楽しそうだなと思いながらも「これはかなり覚悟がいるな」とも感じて。少し悩んだりもしたんですけど、自分にとっても学びがありそうな気がしたし、「がんばらせてください」とお引き受けしました。
──「覚悟がいる」と感じたのは、どうしてなんですか?
丸井 すばるさんは長くこの世界にいらっしゃいますが、今回は「またここから何かが始まる」という新鮮さがあると思うんですよ。ご本人とお話ししたときも「こんな大きい動きはもう最後かもしれない」とおっしゃっていたし、私自身もその大きさを感じていて。
渋谷 自分もびっくりしてます(笑)。長くやってきた中で“新たに動き出す”というか、自分たちがやろうとしていることが伝わればいいなと。実際に何をやるかと言うと、頭で考えてもしょうがないところはあるんですけどね。変われないというか、自分にしかなれないし、ありのままでやるだけなので。
新ビジュアルのキーワードは「初恋を思い出す」「天性」「危うさ」
──8月20日に新しいアーティスト写真が公開されました。この写真の撮影に至ったプロセスを教えてもらえますか?
丸井 レコード会社の皆さんとお話しさせていただく中で、「初恋を思い出す」みたいなワードが出ていたんですよ。ありましたよね?
渋谷 言ってましたね(笑)。
丸井 ニュアンスとしては「もう1回好きになる」と言いますか。初恋の人とひさしぶりに再会したときの、変わらない目の輝きだったり。月日が経っているからお互いに年齢は重ねているけれど、写真を見たとき、直感的に「私、この人のこと好きだな」と思わせたいというのもありました。そのほかにもいくつかキーワードがあったんですよ。すばるさんが持っているカリスマ性を表す“天性”とか、何をするかわらかないヤンチャさを表す“危うさ”とか。もちろん大人な部分も見せたいし、いろいろな要素があったと思います。
──それらを踏まえて、撮影のプランを作った?
丸井 そうなんですが、実際の撮影は“一本勝負”という感じでした。すばるさんの存在自体が強いですし、何かセットを入れるとかではなくて、自然体でいてほしかった。ファッションシュート的な緊張感ではなく、そのままでいてもらえる撮影を目指してました。用意したのは椅子だけです(笑)。
渋谷 そうでした。撮影はすごく楽しかったです。「自然な感じで撮りたいです」という話はなんとなく聞いていたんですけど、あとは現場に行って、その場にいる人たちとどんなことができるか、という。
──素晴らしい写真だと思います。すばるさんらしい笑顔だし、同時に「こういうすばるさんは見たことない」という新鮮さもあって。
渋谷 うれしいです。本当に自然に笑っていたと思うし、そこはうまく引き出してもらえたのかなと。
丸井 自分としては、「すばるさんに“笑ってください”って言っちゃダメだ」というルールみたいなものがあったんですよ。自分がすばるさんの立場だったら、そんなこと言われても困るだろうなと思って。
渋谷 楽しければ笑いますけどね(笑)。
丸井 そうですよね。緊張してたら笑えないだろうし、リラックスしてその場にいてもらえたらなって。困っている顔をされていることもありましたけど。
渋谷 長年いろんなことをやってきましたけど、この現場では「こんなこと初めて言われたな」ということがいっぱいあったんですよ。「顔の両側から猫が来ている感じで」って言われたときは「え、何それ? どういうこと?」って(笑)。そんなことを言われて写真を撮ったことは1回もないし、めちゃくちゃ楽しくなって、プロってすげえなと思いました。
丸井 なんでそんなこと言ったんですかね?(笑) 私もテンションが上がってて、ずっとしゃべってたんですよ。
渋谷 “両側から猫”はずっと覚えていると思います(笑)。
人前が苦手ですもん
──そもそも写真を撮られるのはお好きなんですか?
渋谷 好きではないです。別に嫌いとかではないんですけど、苦手です。人前が苦手ですもん。カメラの前に立つのも緊張するし、なんでこんなことやってるのかわからない(笑)。
丸井 毎回緊張されるんですか?
渋谷 はい。ずっと緊張してます。
丸井 そういうところも素敵ですよね。撮影のときも思いましたけど、いつも新鮮な感じで臨まれているんだなって。写真のセレクトも悩みました。いい写真がいっぱいあったから。
渋谷 僕も意見を言わせてもらったんですが、最終的には丸井さんにお任せしました。この写真を選んだ理由も聞かせてもらって。そこまで強い思いを持ってやってくれてることがうれしかったし、それはきっと見てくれる人にも伝わるだろうなと。
──丸井さんがこの写真を選んだ理由は?
丸井 そうですね……言葉にできないですよね(笑)。
渋谷 (笑)。
丸井 表情がすごくナチュラルだし、やっぱり目が印象的じゃないですか。目線は外しているけど、距離感は近いというのかな。現場では「プロポーズしたあと、照れてる表情みたい」という意見も出てましたね。ヘアのバランスもいいし、やっぱりこの写真なのかなと。
──丸井さんがアーティストと仕事をするときは、どんなことを意識しているんですか?
丸井 「その人らしさが出ている」ということですね。ご本人の中にあるものを取り出して可視化するのが私の役割なのかなと。
渋谷 僕も取り出されたいタイプです。今回の写真の表情も皆さんに引き出してもらったし、いつ笑ったか覚えてないくらい自然な感じだったんで。
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「人間讃歌」はすごい“スルメ曲”