ナタリー PowerPush - SCOOBIE DO
奇跡のエバーグリーンミュージック CHAMP RECORDS勝負の1枚
ブルースはみんなが抱えているもの
──ここ最近の作品はドラム、ベース、ギターのみのアンサンブルをひたすら極めていくような傾向にあったと思うんですけど、今作ではひさしぶりにキーボードやBLACK BOTTOM BRASS BANDによるホーンも入っていますよね。これは曲作りの段階であらかじめそういうサウンドを狙っていたんでしょうか。
マツキ そうです。今回はいわゆるモータウン的な完成されたポップスみたいな、サウンドの質感や世界観はそういうところを目指していて。それをやるには、ザラついたバンドサウンドだけではなくて、曲をきらびやかにしてくれる音が絶対に必要だった。だから鍵盤やホーンは絶対に入れてもらおうと思っていました。鍵盤は誰か上手な人を呼べばよかったんですけど、僕がどうしても自分でやりたくて。元々弾けるわけじゃないんですけど、今年に入ってから小さなシンセを買って、それを自分のデモにあわせて3カ月くらい練習しましたね。人に任せるよりは、自分で弾いたほうが自分の思っている音世界を表現できるはずだと思って。
──サウンドの変化に伴い、メロディもかなりポップになったように感じます。先程の「エバーグリーン」感が非常によくわかるグッドミュージックというか。
マツキ 僕の中のエバーグリーンというのは、CARPENTERSとかバート・バカラックのような、メロディが古くならない音楽。サウンドには懐かしさがあっても決して古く感じないメロディにグッときてしまうので、自分なりのエバーグリーンを突きつめるとどうなるんだろう、というのは考えました。
──自分の中のエバーグリーンに重点を置いて曲を作るのは、やはりいつもの曲作りとは違う感覚でしたか?
マツキ 僕の中にはそもそもいろいろなモードがあって。CHAMP RECORDSを立ち上げてすぐの頃は「曲で人を感動させるなんておこがましい」という気持ちで曲を作っていたんですね。バンドという武器で、聴いている人をブッ叩くような、衝撃のあるものを作らないと意味がないと思いながら曲を作っていたんです。でも、だんだんと自分の中の毒やトゲが薄れてきて。今回はとにかくメロディを一生懸命作りましたね。iPhoneのボイスレコーダーに思いついたメロディラインをどんどん吹き込んで。この前ひさびさにリストを見返したら、ものすごい数録音されてて驚きましたけど(笑)。
──アルバムとしてかたちにしていく中で見えてきた、新たな発見はありましたか?
マツキ 僕らがSCOOBIE DOでやっていることは、突き詰めるとブルースなんですね。どんな幸せに暮らしている人でも、100%満足している人って少ないと思うんです。そんな中で、自分たちもバンドマンという不安定な仕事をやりながら、進んでいかなければいけない。そこには自然とブルースが生まれるんです。そのブルース感というのはみんなが抱えているもので、ブルースって言葉を使わないだけ。「何度も恋をする」も僕にとってはブルースで。あれは「ひと夏の恋愛」というテーマを使って男心に宿るブルース感を表現したアルバムですけど、今回は舞台設定を作らずに、普遍的な言葉だけで表現したかったんです。
「もっとワクワクするものを一緒に作りましょうよ」
──レコーディングに入ったのはいつ頃?
コヤマ 6月の半ばくらいからですかね。そこから1カ月ぐらいで。
──レコーディングスタジオは2008年の「パラサイティック・ガール」から4作続けてPEACE MUSICですが、今回のレコーディングでこれまでと違った点はありますか?
ナガイケ より良い音で、もうちょっと深めていけたらいいなというのは考えてました。前回「甘かったな」と思ったところを、より詰めていく感じですね。機材をどうこうではなく。
MOBY 最近はもう自分たちで「こういう音にしたい」というのはあまりなくて。中村さん(PEACE MUSICのエンジニア・中村宗一郎)がスタジオで「この音がいいんじゃない?」と言ってくれる音に委ねてます。中村さんはあのスタジオを使いこなしている方ですし、餅は餅屋というか、僕らはプレイに徹したほうが絶対いい音になる。ここ最近はそう思っています。
マツキ うん。「自分たちの今やっていることを録ってください」というよりも「もっとワクワクするものを一緒に作りましょうよ」みたいな。中村さんはもともとそんなふうに接してくれてたんだけど、僕らは「ライブ感を! 勢いを!」ってガツガツしてたんじゃないかな。ライブは何回もできるけど、レコーディングは1回しかできないから、毎回のレコーディングがただの通過儀礼になってしまわないように心がけてます。
自分たちを崖っぷちの状況に置いた勝負作
──今作はこれまでのアルバムのどれよりも、より広く伝わる1枚なんじゃないかなと思います。予備知識なく聴いても、タイトルと歌詞とメロディがストレートに入ってきて、スッと腑に落ちるアルバムというか。
マツキ その「腑に落ちる」っていうのは非常に重要ですね。やっぱりいい音楽っていうのは、腑に落ちるんですよ。余計な知識はいらないと思うし、最短距離で聴いている人の心に響く。それは究極形ですけど、その究極の音楽をいかに作るかっていうことをやっているわけです。完全に自画自賛ですけどね。自分で言わないと誰も言ってくれないから(笑)。
──ジャケットを眺めて、タイトルを目にして、イントロが鳴ると……欲しい音がどんどん流れてくるというか。それってベタってことではなくて、漠然とした言い方ですが、必要なものがくるんですよ。
ナガイケ 「必要なものがくる」ってイイですね。
マツキ わかるわかる。ポール・マッカートニーだとアルバムの中に2曲ぐらい、くる曲があるんですよね。
MOBY これが10曲あると、ポールを超えるわけだ(笑)。
コヤマ 超えたんだ(笑)。
──みなさんにとっても充実度の高いアルバムになったんじゃないかと思うんですが、どうでしょう。ぶっちゃけ自信作ですか?
マツキ 自信作ですよ。今回はお金もかけていますから(笑)。僕らはロックバンドだから、常に危険にさらされていないとダメだと思うんですよ。徐々に安定してきて、このままやり続けることもできると思うんだけど、やっぱりダイナミックに危険にさらされないと本能が眠ってしまう。今回は完全に赤字覚悟で、自分たちを崖っぷちの状況に置いた勝負作でもあるんです。この後でバンドがどう成長していけるのかは、自分たちとしても楽しみ。
──アーティストかつ運営チームでもあるから、予算の流れも100%見えているわけですもんね。プレッシャーもダイレクトに返ってくるという。
マツキ 実際いいものができたという手応えがあるので、ここで行かないと、ほかのタイミングはないんじゃないかなって。ライオンの親の気持ちって言うんですか。
ナガイケ こっちが叩き落とされる(笑)。
マツキ いや、俺らは親であり、子でもあるからね(笑)。でもなんとなく、このアルバムだったら、何年経っても誰かが見つけてくれるんじゃないかなっていう期待はありますね。
SCOOBIE DO(すくーびーどぅー)
1995年にマツキタイジロウ(G)とコヤマシュウ(Vo)を中心に結成。1996年に現ドラマーのオカモト“MOBY”タクヤ(Dr)が加入し、自主制作カセットなどを販売する。1999年にK.O.G.A. RECORDSから初のシングル「夕焼けのメロディー」をリリース。続いて発表された1stアルバム「Doin’ OurScoobie」で圧倒的な存在感を放つロックバンドとしてその人気を確かなものとする。2001年にナガイケジョー(B)が加入し、現在の編成で活動開始。2007年には自主レーベル「CHAMP RECORDS」を立ち上げ、ライブのブッキングからCD制作、プロモーションまですべてメンバー自ら行っている。2011年10月5日、CHAMP RECORDS通算5枚目となるオリジナルアルバム「MIRACLES」を発表した。