SAKANAMONインタビュー|結成15周年、バンドの“今”を詰め込んだニューアルバム (2/2)

音楽を通して早くみんなとひとつになりたい

──そう言えば「ふれあい」や「MAD BALLER」には、ライブでシンガロングしたくなるようなコーラスパートがありますよね。そういうところもライブでお客さんと触れ合いたいというか、「ひとつになりたい」という気持ちが表れているのかなと思いました。

藤森 今はまだ声出しも、密になることも難しい状況で、だからこそそれを強く求めているのかもしれないですね。おっしゃるように音楽を通して早くみんなとひとつになりたいと思っています。僕、どちらかというと人と一緒にいることが苦手なんですよ。極度の人見知りだし、1人が大好きでコミュニケーションも取りたくない。そんなことを考えている人間が、こういうアルバムを作っているのはものすごく不思議ですし、大人になったなと我ながら思います(笑)。

──「つつうららか」の歌詞には、「異文化交流 素敵な出会い 受け入れ合うんだ 家族の様に」というラインがあります。これはどんな思いから出てきたのでしょうか?

藤森 この曲は、僕の地元である宮崎市のPRのために作ったんです。宮崎って、言っちゃなんだけど見るべき観光スポットとかそんなにないんですよ(笑)。ただ自然がきれいで、飲み物や食い物がうまいだけっていう。あえてほかに魅力を語るとしたら“人”なんだよなって。酒を飲むならみんなと楽しんだほうがいいと思うし、地元の人たちとの交流が一番の魅力じゃないかと。

──上京してきたばかりの頃から、地元への愛着はずっと変わらないんですね。

藤森 18歳で上京しているので、まだまだ行ったことのない場所が宮崎にはたくさんあるんですけど。それでもそこでの生活が糧になって曲が生まれているので、こういう形で何かしら恩返しのようなことができてよかったなと思っています。

SAKANAMON

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コロナ禍で気付いた「幸せな生活」

──リーガルリリーのたかはしほのかさんが参加した「1988」は、アルバム唯一の英語詞です。

藤森 何か新しいことがやりたくて、「落ち着いた曲を作ろう」と思って取りかかったらいつの間にかデュエットソングになっていて。ほのかちゃんの歌っている声が頭の中で鳴り始めたので、ぜひとも歌ってほしいと思ってお願いしました。「とにかく削ぎ落としていく曲にしよう」と思ってメロディもめちゃくちゃシンプルにしたんですよ。音でいうと、例えばAメロは4つの音だけで成立している。ただ、そうなると日本語の歌詞がうまく乗らないんです。たった4文字だけだと伝えられることも本当に限られてしまう。それだと困るなあと思っていろいろ考えていたら、「英語だ!」とひらめいて。

──英語なら、1音の中に単語を1つ入れることができる。情報量が格段に増えますよね。

藤森 そうなんです。ただ英語は得意じゃないので(笑)、基本的には英単語を羅列するような散文的な歌詞にしてみました。ほのかちゃんのボーカルも最高でしたね。素敵な声を入れてもらって僕の直感に狂いはないなと。

──「幸せな生活」も、コロナ禍で失われてしまった当たり前と思っていた「生活」のかけがえのなさに気付かせてくれる、とても素敵な楽曲だと思いました。

藤森 おっしゃる通り、コロナ禍で気付いたことを歌った曲でもありますね。酒飲みなので、よく二日酔いになるのですが、コロナ禍ではさらに深酒になって、体調の悪い日が続いて「これはもう死ぬんじゃないか?」と思うくらいの日々を過ごしていたんです。「健康でいるってめちゃくちゃ大事なんだな」と思って「もっと小さな幸せに気付ける人間であろう」と。そこからは、おいしいごはんを食べられることのありがたさ、毎朝ちゃんと起きられることの幸せを噛み締めるようになりました。それをみんなにも伝えたくて作った曲でもあるんです。幸せは追い求めるだけではなく、今あるものの中に感じることなんだって。

木村 この曲、去年のライブで初披露したんだよね。僕らメンバーにも内緒で、サプライズという形でいきなり弾き語りし始めたから、僕らもお客さんと同じタイミングで聴いたという(笑)。びっくりしたけど、とても貴重な体験でした。

木村浩大(Dr)

木村浩大(Dr)

藤森 この曲は、メンバーにもまっさらな状態で聴いてもらいたかったんだよね。それだけ自信作だった。

森野 本当にいい曲だし、突然だったし、二重でびっくりしました(笑)。僕はどちらかというと幸せを追い求めてしまうタイプで、幸せのハードルを高くしてしまいがちだったんですけど、この曲を聴いていろいろ気付かされましたね。

今の演奏力、表現力で再録した代表曲

──今回、デビュー曲「妄想DRIVER」を新録バージョンで入れようと思った理由は?

藤森 「妄想DRIVER」は、僕がSAKANAMONというバンドを結成するにあたって最初に書いた曲なんですよ。「こんな感じの曲をやるバンド」ということをイメージして作った曲だし、事務所に入って初めてレコーディングしたのも「妄想DRIVER」で。

森野 元生からバンドに誘われて、「こんな曲がやりたいんだ」と言われて送られてきたのが「妄想DRIVER」だったんです。この曲を聴いて一緒にやることを決めたわけだから、思い入れの強さは一番ある曲かもしれないです。

SAKANAMON

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木村 僕らの代表曲といっても過言ではないよね。

藤森 そう、だからこそすごく未練もあって。

──未練、ですか。

藤森 はい。当時、まったく思い通りの演奏ができなかったんです。だからこの曲を今の演奏力、表現力で録り直したいという気持ちがずっとあって。今回ようやくそれを叶えることもできました。

木村 僕は、結成から1年ほど経って遅れてSAKANAMONに加入したんですけど、この曲を演奏している姿を見て本当に衝撃を受けたんですよ。とにかくうるさいし、展開はめちゃくちゃだし(笑)。

藤森 「妄想DRIVER」ほど構成が複雑な曲ってこの世にあるのかな?と思います。何ひとつ繰り返すパターンはないし。この曲の新しさ、斬新さでみんなにショックを与えたい、その一心で当時イキって演奏していました(笑)。

──そして、今やそれがSAKANAMONのスタンダードにもなっている。

木村 この曲を聴いたときは本当にすごいバンドだなと思ったし、そこで自分がドラムを叩くことになるとは思ってもみなかったですね。だから思い入れはたくさんあるし、たまにライブでやると楽しくて仕方ないです。

森野 次は30周年バージョンをレコーディングしたいよね(笑)。

SAKANAMON

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Billboard Liveで一味違うパフォーマンスを

藤森 とにかく今は、充実感でいっぱいですね。アルバムが完成してよかったなとここまで強く思ったことはないくらい。今後どうなっていくかはおそらく、このアルバムを引っさげたツアーを回りながら少しずつ見えてくるんじゃないかなと思います。いつもそんな、行き当たりばったりのバンドですけど。

──先述のクラウドファンディングで集まった資金をもとに、来年はBillboard Liveでストリングス編成のライブを行う予定なんですよね。最後にその意気込みを聞かせてもらえますか?

木村 なんと言っても、「大人のSAKANAMON」がテーマだからね。

藤森 楽しみですね。ストリングスに入ってもらうのは決まっているし、今までのSAKANAMONとはひと味違うライブになるというだけでワクワクしてくる。Billboard Liveに出演するのも初めてなんですよ。

木村 みんなお酒を楽しんだりしながら聴くんだよね。

藤森 いいなあ。俺たちはどうしようか。全員正装してオールバックで出る?

森野 なんか、見た目から固めようとしてない?(笑)

木村 あんまそういうこと言わないほうがいいよ。あとに引けなくなるから。

一同 (笑)。

SAKANAMON

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ライブ情報

SAKANAMON 15th ANNIVERSARY LIVE TOUR “発光”

  • 2022年11月11日(金)東京都 LIQUIDROOM
  • 2022年11月18日(金)福岡県 INSA
  • 2022年11月19日(土)広島県 HIROSHIMA 4.14
  • 2022年11月26日(土)京都府 KYOTO MUSE
  • 2022年11月27日(日)香川県 高松TOONICE
  • 2022年12月1日(木)宮城県 仙台MACANA
  • 2022年12月2日(金)北海道 SPiCE
  • 2022年12月9日(金)大阪府 Music Club JANUS
  • 2022年12月10日(土)愛知県 CLUB UPSET

SAKANAMON 15th ANNIVERSARY“発酵”

  • 2023年2月17日(金)神奈川県 Billboard Live YOKOHAMA
  • 2023年2月22日(水)大阪府 Billboard Live OSAKA

プロフィール

SAKANAMON(サカナモン)

専門学校の同級生だった藤森元生(Vo, G)と森野光晴(B)によって2007年12月に結成。バンド名には「聴く人の生活の肴になるような音楽を作りたい」という思いが込められている。2009年に木村浩大(Dr)が加入し現在の編成に。2010年9月に1stミニアルバム「浮遊ギミック」を発表し、同年12月にビクターエンタテインメントより1stアルバム「na」でメジャーデビューした。2015年4月に3rdアルバム「あくたもくた」を発売。2017年5月には東京・Shibuya eggmanのレーベルであるmurffin discs内のロックレーベルTALTOに移籍し、ミニアルバム「cue」を発表する。バンド結成10周年を迎えた2018年には、フェイクドキュメンタリー映画「SAKANAMON THE MOVIE ~サカナモンは、なぜ売れないのか~」が製作され、全国ツアーも行われた。結成15周年イヤーとなる2022年10月に通算7作目となるオリジナルアルバム「HAKKOH」を発表。11月から12月にかけては15周年ツアー「SAKANAMON 15th ANNIVERSARY LIVE TOUR “発光”」、2023年2月には初のBillboard Live公演「SAKANAMON 15th ANNIVERSARY“発酵”」を神奈川と大阪で開催する。