フィクションを歌い続けてきた斉藤壮馬が今のモードで描く3rdフルアルバム「Fictions」 (2/2)

斉藤壮馬が歌うことは想定していない

──「曲がそういう歌い方を必要としていた」というのはちょっと不思議なお話ですね。すべて同じ人が書いた曲で、同じ人が歌っているんだから、普通に考えたら“曲の求める歌い方”が全部同じになってもおかしくないと言いますか。

確かに……。

──これだけのバリエーションが生まれる要因は、ご自身ではなぜだと思いますか?

それはたぶん、僕が声優だからだと思います。作品やキャラクターによって演じ方は当然変わってくるので、そのアプローチの仕方が自然と歌にも反映されている、ということだと思っていますね。

──ソングライターとしての意識はどうですか? 例えば、曲作りの際に“シンガー・斉藤壮馬”が歌うことは想定しますか?

あんまりしてないかもしれないですね。だから歌いづらいメロディも多いですし。

──「誰だよこれ作ったの!」みたいな?

本当にそうなんですよ(笑)。キーにもよるんですけど、「女性ボーカルの方に歌ってほしいな」と感じる曲もよくあるんです。それくらい、僕はあくまで“その曲にとって最も望ましい形になること”を優先して作るので……例えば「このコード進行にはこのキーが一番いい」というのが自分の中で決まってしまったら、もうそれに従わざるを得ないというか。

──斉藤さん自身の適正キーに合わせて作るのではなく、楽曲そのものが求める適正キーを優先するわけですね。

だからレコーディングが大変なんです(笑)。そんなふうに歌う側の都合を考えずに作った結果として、いろんな表情を見せられる楽曲ができあがるのかなという気はします。

──なるほど、めちゃくちゃ興味深いお話です。普通のシンガーソングライターは「自分で歌うからこういうメロディになる」「こういう歌詞になる」という方がほとんどだと思うので。

あんまりその、自分がシンガーソングライターだとは思っていないところがあるんですよね。

──たまたま歌を歌うし、たまたま曲も作るというだけであって。

本当におっしゃる通りで。そこに整合性がなくてもいいかな、という気持ちはあるかもしれないです。だから制作を進めていく中で、「この曲のこの部分は、なんでこうなってるんだろう?」と自分でもよくわからない部分がけっこうあって(笑)。それを自分1人ではなく、手練れのミュージシャンの皆さんと一緒に形にしていく作業がとても楽しいんですよ。

斉藤壮馬「Fictions」完全生産限定盤ジャケット

斉藤壮馬「Fictions」完全生産限定盤ジャケット

あ、ここはシャウトいるな

──「(Fake)Flowers」も非常に鮮烈でした。簡単に言うとシティポップ系の音で、今作の中では飛び抜けてポップス濃度の高い1曲ですね。

今作の制作にあたってバンドチームで合宿を行ったんですけど、「(Fake)Flowers」はそこで大まかなアレンジを詰めた楽曲です。もともと打ち込みを交えた音にしたいと思ってはいたんですが、ベーシックをDTMベースで作ってしまうと無機質なグルーヴになってしまうんじゃないかという懸念があったので、セッションを軸に詰めていこうと。それによって有機的なグルーヴを生み出して、そのうえで打ち込みサウンドを乗せたいなと思ってできあがった曲ですね。

──いわゆるBメロに相当するセクションがなかったりして、オールディーズのようなムードも感じ取れるシンプルな楽曲構造が特徴です。

発想的には、同じコード進行が繰り返される中でメロディや展開が変わっていく流れにしたいというのはありました。その意味でも、リズム隊のグルーヴ感がとても大事になるなと思ったんですよ。たぶん合宿を挟まなくてもこれに近い形にはなっていたと思うんですけど、バンドでのセッションを経たからこそ、これだけフィジカルな音楽になったというのは間違いないですね。

──やはり“バンドの音楽であることの喜び”はかなり大事にされているんですね。

そうですね。「絶対にバンドじゃなきゃ嫌だ」ということではないんですけど、バンドでしか表現できないものがやっぱり好きではあります。この「(Fake)Flowers」や9曲目の「Puppet Mood」は特にプレイヤーの皆さんの自由な発想が生かされた楽曲になっていて、アルバム全体のムードにかなり影響したなと感じています。

──そしてラストナンバーの「ベントラー」ですが、フィクションそのものを描くというよりは視点に少し距離感がありますよね。

もしかしたら、あまりフィクショナルな歌詞ではないかもしれないですね。

──アルバムを通していろんなフィクションの世界を描いてきて、最後の最後で“フィクションとの向き合い方”みたいな視点に切り替わるのが面白いなと個人的には感じました。

音楽的には90年代っぽい感じにしたいなと思っていたので、歌詞の発想もその延長線上ではありますね。ノストラダムスの大予言だったり、宇宙人を呼ぶ呪文だったりがモチーフになっていて……この曲はもともと、とある作品イベントの合間にふとワンコーラスが生まれたんです。今作で唯一、曲と歌詞がほぼ同時にできたんですよ。最終的にちょっと書き換えはしましたけど、ほかの曲以上に作為的なものが入っていない歌詞だと思います。

──楽曲的には、間奏に入るところのシャウトが特に印象的でした。それこそ「なんでここにこんなものが?」の最たるものというか。

「ただキレイなだけの曲で終わっちゃうとあまりグッと来ないな」と思っていたときに、間奏のUSラウドっぽい展開を思いついたんです。ラスサビだけコード進行が違うんですけど、そこへの橋渡しとしてラウドパートを配置してみたときに「あ、ここはシャウトいるな」という気持ちになって。この叫びさえ聴いてもらえたらほかの歌詞を一切聴かなくても全部伝わるんじゃないかな、というくらいの叫びができたと思っています。

──なんだかお芝居のお話みたいに聞こえますね。

あははは、ホントですね(笑)。

斉藤壮馬「Fictions」通常盤ジャケット

斉藤壮馬「Fictions」通常盤ジャケット

女性シンガーに楽曲提供したい

──今作の楽曲群がライブでどのように演奏されるのかも楽しみです。

曲ありきで作っていることもあって、ライブでやるのが難しそうな楽曲も多くてですね。だから意外と、そんなにライブではやらないかもしれない(笑)。

──(笑)。

とはいえちょっと試してみたいこともあったりするので、ライブならではのアレンジなどもお見せできればと思ってはいますね。

──例えば「Puppet Mood」のギターソロを延々やったりするのも楽しそうです。

そうですね。前回のライブでもバンドのセッションパートを設けたんですけど、それがもうものすごくカッコよかったので。バンドメンバーとお客さんと一緒に、その日にしかできない音楽ができたらいいなと思っています。まだまだすべてが未定ではありますが、ライブもがんばりますのでよろしくお願いします!

──ちなみに先ほど「女性ボーカルに歌ってもらいたくなる曲ができがち」というお話がありましたが、実際に女性シンガーに楽曲提供をされたことはないですよね?

ないですね。ぜひやってみたいです。オファーお待ちしております(笑)。

──ボーカロイドで作ったりしてみるのも面白いのでは?

あ、確かにそうですね! 実は今回、最終的には使わなかったんですけど「ヒラエス」の高音ハモをSynthesizer Vで作ってみたりもしたんですよ。僕のファルセットと合成音声の女声コーラスを合わせたら面白いんじゃないかと思って試してみたんですけど……あんまり自分で歌うのと変わらなくて(笑)。

──それだと意味ないですね(笑)。

いやでも、女性シンガーさんへの楽曲提供は本当にやってみたいです。あと今回、「ノクチルカ」という楽曲を作曲がSakuさん、作詞が僕という座組で作らせてもらったんですけど、そんなふうに複数人で1つの曲を作るやり方ももっとやっていきたいなと。いろんな意味で“次にやりたいこと”が見えたアルバムだったなと思っています。

──バンドメンバーとのセッションで作ったりするのもいいでしょうね。インスト曲だったり。

いいですね! めちゃくちゃやりたいです。インストはそれこそフルアルバムでないとなかなか入れられないかもしれないですけど(笑)。

──今後もいろいろと楽しみにしております。

ありがとうございます!

公演情報

斉藤壮馬 Live Tour 2024 "(Non)Fictions"

  • 2024年10月27日(日)大阪府 グランキューブ大阪(大阪府立国際会議場)
  • 2024年11月3日(日・祝)愛知県 愛知県芸術劇場
  • 2024年11月9日(土)宮城県 仙台サンプラザホール
  • 2024年11月16日(土)福岡県 北九州ソレイユホール
  • 2024年12月7日(土)千葉県 森のホール21

プロフィール

⻫藤壮馬(サイトウソウマ)

4月22日生まれ。山梨県出身。2013年より81プロデュースに所属。2014年に放送されたテレビアニメ「ハイキュー!!」の山口忠役で注目を浴びた。これまでの出演作は「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-」(緋村剣心役)、「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-」(夢野幻太郎役)、「ピアノの森」(一ノ瀬海役)など。2017年6月にはSACRA MUSICから1stシングル「フィッシュストーリー」でアーティストデビュー。2018年12月には1stアルバム「quantum stranger」をリリースした。2020年12月に2ndアルバム「in bloom」を発売。2022年2月に2nd EP「my beautiful valentine」、12月 3rd EP「陰/陽」をリリースした。2023年5月にはデビュー5周年イヤーの締めくくりとして千葉・幕張メッセ国際展示場1~3ホールで2日間ライブを開催した。2024年9月には3rd アルバム「Fictions」を発表。同年10月から12月にかけてツアー「⻫藤壮馬 Live Tour 2024 "(Non)Fictions"」を開催する。