レキシ|色鮮やかなサウンドで描き上げた「映画クレヨンしんちゃん」主題歌

新しいとか古いとか関係ないね

──楽曲面で言えば、みんなでシンガロングできるようなフレーズもあったりと、アンセムになりそうな曲ですよね。音作りの部分で意識したことは?

レキシが楽曲制作の際にインスパイアされたというメインビジュアルが使用された「映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者」のポスター。©臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2020

最初はループを使った、音数が少ない今っぽいシンプルな曲調にしようと思って。ただデモを作って聴いてみたら、なんかシンプルすぎたんだよね。音数を絞ると確かに今っぽくはなるんだけど、自分の感覚ではクールすぎるというか。なので、もうちょっと感情を付けようかなと思ってアレンジを練っていったら、今度はどんどん音数が増えていって。今の流行のサウンドの真逆をいってるなと思うくらい、音の情報が過多になっちゃった。これはよくないかなと思ったんだけど、資料として送ってもらった映画のメインビジュアルを見てみたら、落書きがテーマということもあってすごくカラフルで、そのイメージと音数の多いサウンドがすごく合ってたんだよね。

──なるほど。

そうやって曲を作りながら今回思ったのは、何が新しいかとかは最終的には関係ないなってこと。スネアの音1つ取っても、やっぱり気になりだすとキリがないじゃん。今回もアレンジを試行錯誤したんだけど、さんざんやって行き着いた先が「新しいとか古いとか関係ないね」ということだった。

──池ちゃんが言う、どんどん音を重ねていったり、展開を付けていっちゃう感覚って、なんとなくわかる気がして。いい悪いではなくて、最近のEDM以降のシンガーソングライターの楽曲って、びっくりするくらい展開が少なかったり、あまりにもシンプルすぎて、もうひと盛り上がりするのかなと思ってたら「このまま終わっちゃうの?」って思うことも多くて。池ちゃんと同世代である40半ばの自分は、そこにある種のジェネレーションギャップを感じるというか。

わかる。最初はまさにそれをやろうとしたわけ。だけど、やっぱり物足りないなと思って。結局は自分の気持ちいい音とか、気持ちいい展開に行き着いちゃうんだよね。

──だけど一方で、そういう逡巡を通過しているからこそのサウンドの色調や微妙なタッチみたいなものも楽曲から感じられて。レキシの音楽に新たな色彩が加わっている感じがしました。

それはよかった。最初はホーンとかも入ってなかったし、ループを使ったシンプルな曲にしたいなと思ってたんだけど……まあ、そもそもの動機がヨコシマだったから(笑)。「これがカッコいい!」じゃないんだもん。「このほうがいいんじゃね?」ぐらいの感じだったからダメなんだよ。だって参考にしたのが、飛行機の機内で聴ける最新音楽プログラムだもん。「へー、これが今の音楽なのか」って。情報をキャッチした時点で、すでにちょっと遅いっつうね(笑)。でも、それが面白かったりもするんだけど。俺は今ビリー・アイリッシュって言ってるのが面白いと思っちゃうタイプだから。結局そこなんだよ(笑)。

minanちゃんに参加してもらって、ラッパーってやっぱりすごいなと思った

──「ギガアイシテル」にはMC旧石器ことlyrical schoolのminanさんがラップで参加していますね。

minanちゃんには少しメロディの要素を含んだラップをやってもらったんだけど、入れてみたらすごくエモくなった。曲構成でいうと、Cメロに当たる役割というかね。さっきの音の話と一緒で、奇をてらってやってみたら、回り回って自分っぽい表現にたどり着いた。

──歌詞について今回こだわったところは?

制作を進めていく中で、サウンドだけじゃなくて歌詞もあっさりしてるなと思い始めて、もっと内面にあるエモーショナルな部分を言葉で表現したいなって思ったんだよね。とはいえ、鳥獣戯画から連想するエモーショナルな要素は特になくて(笑)。そこからさらに考えて、ずっと温めていた、雪舟の「泣きながら描いたネズミの落書き」のエピソードを歌詞に入れてみようと。それで「涙のあとは自由なんだ」っていうフレーズを思い付いた。つまり、ここだけ違う歴史の要素が入ってるんだよね。

──なるほど!

時代は行き来するけど、絵を描く人たちの思い……苦しんで描いたその先に何かあるよっていう。そこでさらに映画のテーマとも合致したね。

──minanさんのラッパーとしての印象は?

リリスクは以前から知ってたし共通の知り合いがいるというつながりもあったから今回お願いしたんだけど、minanちゃんに参加してもらって、ラップって誰しもが簡単にできるもんじゃないんだなということが改めてわかって。ラッパーってやっぱりすごいなと思った。

──それはどういう部分で?

瞬時にノリをつかめる感覚というか。自分でやったら全然うまくいかなかったラップパートをminanちゃんはピタッと一発でリズムにはめて。1テイク目からすごくうまかったし、リリックの1文字1文字にノリがあるんだなって。そのノリをつかめる人がラップを上手にできるんだなって思った。やっぱりラッパーはすごい。それがよくわかった。「今かよ!」って感じなんだけど(笑)。

──これまでも足軽先生(いとうせいこう)とラップが入った楽曲をたくさん作ってきたのに(笑)。

だよね(笑)。ただ、先生のラップはやっぱり独特だなとも思った。もともと唯一無二だと思ってたし、他の人には出せないリズムなんだよね。

俺の中では真剣にカッコよくやれたつもりだったけど

──カップリングには、昨年開催されたツアー「アナザーレキシ」のオープニングで披露された「Takeda'」のリアレンジバージョン「Takeda'~アナザーレキシver.~」が収録されています。

もともと「Takeda'」をいろいろなバージョンでやるのは面白いなと思っていて。ライブのオープニングでスクリーンに大きく歌詞を投影して、パフォーマンスとシンクロさせるようなロックっぽい演出をずっとやりたいなと思ってたんだけど、ツアー「アナザーレキシ」のテーマが、まさに“ロック”というコンセプトになったから、いよいよやれるなと(参照:レキシ11月より1年ぶり単独ツアー、新ビジュアルはバンドらしく)。俺の中では真剣にカッコよくやれたつもりだったけど……やっぱり客席から笑いが起きてたよね。

──それはもう、原曲に問題アリですよ(笑)。

いくらエモい感じでやっても、歌詞のくだらなさに勝てないんだなって気付かされた(笑)。スクリーンの後ろで、俺らは演奏しながら拳をあげる感じで「ウオー!」って盛り上がってたんだけどなあ。

俺がただただ俳句を詠むだけのライブ

──ツアー「アナザーレキシ」が行われたのが、去年の秋から年末にかけて。もうすぐ1年経つんですよね。

そうだね。今年の春夏はいくつかフェスに出演する予定があったけど、全部中止や延期になって。だから、今年に入って一度もライブをやってないの。コロナ騒動が起き始めた頃は「まあ、しょうがないな」と思ってたけど、ここまでライブができないと不安になるよね。みんな試行錯誤してライブ配信とかやってて、そういうのを観てると、ありきたりな言い方だけど「普通にライブをやれてた頃はなんて幸せだったんだろう」って思う。

──特にレキシは活動においてライブが占める意味合いも大きいですし。音源を作ってリリースしただけでは作品の世界観が完成し得ないところもありますからね。

そうだね。だからこそ今は現状と向き合って、ちゃんと面白いことを考えてアイデアを貯めておこうと思って。それに今は「ライブをやりたい!」っていう気持ちや衝動を溜められる時期でもあるのかなって。最近そう思えるようになってきた。

──ファンクラブ会員限定で動画コンテンツを配信したり、新しい試みもいくつか実践していますけど、無観客配信ライブを行ったりすることは考えていますか?

ライブ配信をやるなら、それ用に何か面白いアイデアを思いつかないとダメだなって。今までライブでやったことを単に配信でやるっていうんじゃなくて、無観客でやるなら無観客向けの何かを考えるのが大事だと思う。こないだ面白いアイデアが浮かんだんだけど、とてつもなく莫大な費用がかかることがわかって断念したばかりなんだよね(笑)。あと、俺がただただ俳句を詠むだけのライブっていうのも考えた。俳句もしくは短歌。それなら声を出して盛り上がらなくもいいから、ある程度お客さんも呼べるじゃん。そのおまけで1、2曲歌うとか。

──面白い(笑)。

いいよね。だけど、やれて30分だよね(笑)。2時間は無理でしょう。まあ、それはともかく、これだけライブをやってないと普通に人前で演奏したいよね。

──あれだけ嫌がってた「キャッツ!」(※「狩りから稲作へ」の演奏時に恒例となっている観客とのコール&レスポンス)も、早くやりたいって気持ちになってる?

いやあ、それはまた別の話じゃん?(笑)