2022年4月の7thアルバム「レキシチ」発表とそれに伴うアリーナライブ以降、しばしの充電期間を経て、2024年5月に大阪・Shangri-Laと東京・新代田FEVERでワンマンライブを開催し、本格的に活動を再開したレキシ。
6月にワンマンライブの追加公演となるライブハウスツアーを愛知、大阪、福岡、東京の4都市で行い、7月24日には小泉今日子をフィーチャリングゲストに迎えた配信シングル「エレキテルミー feat. あんみつ姫(小泉今日子)」をリリースし、あっと驚く大物ゲストの参加と、新機軸ともいえる打ち込み中心のラテンサウンドで大きな話題を呼んだ。その熱気が冷めやらぬ中、さらにレキシはシングル発表翌日の7月25日から8月9日にかけて、5本のアコースティックライブを実施、また9月には全国11都市を回るツアーをスタートさせるなど、復活早々、怒涛の活動を繰り広げている。
音楽ナタリーはレキシの新事務所を訪ねインタビューを実施。新体制での創作活動やシングル「エレキテルミー feat. あんみつ姫(小泉今日子)」の制作秘話、今後のライブ活動などについて話を聞いた。
取材・文 / 宮内健
再始動に向けた「お茶会」の日々
──リリースとしてはアルバム「レキシチ」以来、約2年3カ月ぶりになりますね。今年5月のツアーで本格的に再始動するまで、池ちゃんは何をしてたんですか? 山寺にこもって隠遁してました?
してねーわ(笑)。いやいや、再始動に向けた準備みたいなことをしてたよ。「お茶会」をやったり。
──お茶会ですか?
スタッフと一緒に喫茶店でメシ食って、しゃべって。そうやってアイデアを膨らませていったね。
──リリースやツアーがない期間に、新しいファンクラブ「稀有稀有倶楽部」のティザー動画が公開されましたよね。池ちゃんと元気出せ!遣唐使(渡和久 from 風味堂)が西洋風のドレスを着て、ただただ「ケウケウ……」と言ってるだけの怪しい内容でしたが、それを観て「レキシもついに世界史へ進出か!?」と思いました。
自分としては、そこまで読んではいなかった!(笑) まあでも、あの動画を観たらそう感じるよね。
──かと思いきや、再始動後のライブを観たら、驚くぐらいに何も変わってなくて(笑)。
だって俺、世界史が苦手なんだから(笑)。赤点取ってたし。「稀有稀有倶楽部」っていうファンクラブ名を考えついたとき、なんか夜な夜な貴族が集う秘密クラブみたいだなと思って。それで、ああいうティザー映像を作ったんだけど。まあ、それだけなのよ。単なる思いつき。みんな勘違いするかなとも思ったけど、それはそれで、まあいいかと思って。
──新体制のスタッフと制作の足場を固めていく中で、池ちゃん自身はレキシのニューフェーズをどんなふうにしたいと考えていたんでしょう?
できるだけ変わったと思われずに新体制に移行したいなと考えてた。もちろん関わるスタッフが変わるから、そういう部分で今までとは違う何かが生まれるかもしれないけど、自分自身の意識は特に変わらないし。
──できるだけ変わったと思われないようにしたいというのは、今まで応援してくれたファンの人たちを考えてのこと?
そうね。言い方が難しいけど、「あえて殻を破らない」みたいな感じかな。大事な部分は残したいと思ったし、それは結局ファンの人たちと一緒に培ってきたものだから。
──レキシのライブを例に挙げると、フォーマット自体は池ちゃんが主体になって作ってきたのは間違いないわけだけど、例えば「狩りから稲作へ」で稲穂を振るのも、もともとファンの人たちが会場に本物の稲穂を持ち込んだことがきっかけになって、公式グッズにまで発展したわけで。ファンも一緒になってライブを作ってきたようなところがありますよね。
まさに、そういう部分を大事にしたいなと思ったんだよね。でも、せっかく新しい環境に移ったわけだし、変わるというよりも、新しい何かを付け足すチャンスみたいなのはあるかなと思って。
幻に終わった2人組ユニット化
──そういう意味では、特にビジュアルまわりのクリエイティブを担う人選は面白いですよね。
Webのデザインやさっき話に挙がったティザー映像、あと新曲のミュージックビデオのディレクションも担当してる(アートディレクターの)とんだ林蘭も、もともと知り合いだし。
──ちなみに、とんだ林蘭さんの名付け親は、池ちゃんなんですよね。
そうそう。とんだ林は昔から知ってるからね。ずっと一緒に何かやりたいなと思っていて、それがようやく形になった。ただ、新体制になったタイミングで新しい要素を加えてみる、その一歩を踏み出したぐらいの感覚はあるけど、先々まで具体的に考えていることはないんだよね。
──長期的なビジョンを考えるというよりも、その時々で面白いものを形にしていくという。あと、これは勝手な推測ですけど、元気出せ!遣唐使が、池ちゃんが住んでる東東京エリアに引っ越してきたことも、今後のレキシの活動を占う意味で大きなトピックなんじゃないですか? 2人の関係性が、より密な感じになっているような印象も受けました。
そうだね。実は2人組のユニットになろうかと思ったこともあったんだよ。
──へえ~っ!
「レキシ、新メンバー加入!」みたいなのも面白いなと一瞬思ったけどね。でも、和久が嫌がるだろうなと思って(笑)。
──渡さんも、最近ソロとしての活動も盛んですし。スープの冷めない距離じゃないけど、アイデアの熱が冷めないような距離感にあるんだなというのは、傍から見ていて感じます。とはいえ、レキシが新しい動画をアップするたびに渡さんが出てくるのに、この2人で何をするのかがまったく見えてこなかったという(笑)。
正直、俺も見えてなかった(笑)。まあ、詳細を発表できない部分もあったから、あえて謎めいた感じにしてたんだけど。でも俺としては、今までと変わったようなことをやってるつもりが全然なくて。なんなら「またやってらあ」ぐらいの反応なのかなと思ってたんだけどね。
最終的には「気持ちっしょ」
──再始動ライブの会場は、大阪がShangri-La、東京は新代田FEVERでした。2011年に初めてワンマンライブを行った会場です。前々からライブのMCなどでも「FEVERにいつでも戻りたい」という話はしてましたよね?
そう。前々から言ってたことを実行しただけだから。たまたまその機会が、体制が変わったこのタイミングだったというだけで。
──それまでのレキシのライブは、会場の規模が横浜アリーナまでいって大規模なショーみたいな内容になっていたところがあったけれど、例えばライブの構成であるとか、ちょっとシンプルな方向にリセットしたいみたいな意識はあったんですか?
いや、それも特にないかな。今まで通り大きな会場で凝った構成のライブもやりたいし。むしろ前よりも、大きい会場でライブをやることへの抵抗感はなくなった。前は正直、悩みながら構成を考えたりしてたんだけど、活動休止期間に「こういうやり方がいいかな?」という方法論をいくつか見つけたし、自分の中に余裕が生まれた部分はあるよね。だからShangri-LaとFEVERでやったのは、本当にたまたま節目だったからというだけで。やっぱり、大きな変化みたいなものをみんな求めるよね~。ごめんなさいね(笑)。
──(笑)。6月には4都市でライブハウスツアーも開催しました。ひさびさのライブハウスでのパフォーマンスはどうでしたか?
面白かったよ。お客さんとしゃべれるし。大きな会場でライブをやるときは、前のほうにいるお客さんとしゃべらないように注意してたんだよね。それは、ライブが小さくならないように。でも会場が小さいから、ライブも小さくていいかって(笑)。自分の中では、原点に戻ったとかそういうことではなくて、これも1つのレキシのやり方だなぐらいの感じかな。
──7月下旬~8月上旬にかけては、アコースティック編成でさらに小さいキャパのライブハウスをツアーで回りました。
今回面白かったのは、アコースティックの4人編成で、バンド編成のツアーとまったく同じセットリストでライブをやったんだよね。結果、チャレンジだったなと思って。
──バンド編成とアコースティック編成で形は変われど、見せるものの根幹は変わらないというか。一貫してる部分とスタイルによって異なってくる部分を両方見せられるのは面白いですね。
そうだよね。メンバーからしても違うから。アコースティック編成だと、コーラスもばっちりできるタロちゃん(G / 加藤えろ正[カトウタロウ])がいるので、コーラスに厚みが出るし、歌も際立つし。大規模のライブも、アコースティックのライブも、いまだに何回やっても試行錯誤だね。でも、その試行錯誤の感覚は失っちゃいけないなとも思う。飽きることへの戦いという意味で(笑)。でも本当に、自分の中でもやれることはまだまだあるなと思ってる。むしろそれが幸せっていうか、やれることがあってよかったよ。
──ライブで再始動するまでの期間が1年半ほど空いたじゃないですか。ひさびさにライブをやって再認識したところはありますか?
もちろん楽しかったし、逆に言うといつもと変わらなかったっていうのも正直な気持ち。「やっぱこれだったな!」みたいなところもあるし、その「これだったな!」も常に感じていたことだから。少しの期間、空いたかもしれないけど、変わらなかったなと改めて思ったし、そのためにいつでも歌えるようにしてたからね。
──活動休止中も、ジムで体を鍛えてましたよね?
それは前からずっと。ライブだと、とにかく動くじゃん。動きたくなくても動いちゃうから、そのために体力を付けようと思って。ただ歳は取ったよね(笑)。動けることは動けるけど、段差とかを見誤るようになった。あと止まれなくなった。前は転んでも1、2歩で止まれたけど、今は4、5歩ぐらいまで行かないと止まれない(笑)。年々苦しくなってくるけど、考えたら10年前からずっと苦しかったからね。まあ、最終的には「気持ちっしょ」。那須川天心ね。
──ははは。
でもマジで、本当にそう思う。「会場の規模に関係なく気持ちは変わらないよ」って、ずっと言ってきたことだけど、最近改めて、お客さんは“気持ち”を観にライブに来てるんだなって感じるんだよね。
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曲を「出す」ということの意味