レキシ|色鮮やかなサウンドで描き上げた「映画クレヨンしんちゃん」主題歌

レキシが4thシングル「ギガアイシテル」を9月23日にリリースした。

表題曲は現在公開中のアニメーション映画「映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者」の主題歌。日本最古のマンガと呼ばれる「鳥獣戯画」をモチーフにしたこの楽曲で、カラフルなサウンドに乗せてレキシが歌いあげるのは「キミのその落書きも いつか誰かの宝物」というポジティブなメッセージだ。紆余曲折を経て完成したという「ギガアイシテル」の制作背景をレキシに聞く。またインタビューの後半ではコロナ禍の自粛期間中に思ったことや、生前に親交があったという“師匠”志村けんとのエピソードも語ってもらった。

取材・文 / 宮内健 手書き文字 / レキシ

文化寄りの日本史の曲は今まであまり作ってなかった

──今回リリースされたニューシングル「ギガアイシテル」は、「映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者」の主題歌として作られたもので、もともと今年4月に発売予定だったものが、諸事情で5カ月延期になったそうで(参照:レキシ、「映画クレヨンしんちゃん」公開延期に伴い新曲の発売延期)。

いやあ、ホントにねえ。コロナがさあ。

──アニメの主題歌を手がけるのは「ゲゲゲの鬼太郎」のエンディング主題歌「GET A NOTE」に続き2作目になります。「クレヨンしんちゃん」にはどんな印象が?

自分はガッツリその世代ってわけでもないし、ましてや地元の福井県は全国的にみんなが知ってるアニメやテレビ番組もやってないことが多いんだよね。だから「クレヨンしんちゃん」をちゃんと観たのは、大人になってから。映画版で、しんちゃんが戦国時代にタイムスリップしちゃうっていうストーリーの作品があったんだけど(2002年公開の「映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦」)、それを大人も感動するからって友達に薦められて、観てみたら「確かに!」と思って。「クレヨンしんちゃん」って子供だけのものじゃないんだなっていうのが最初の印象かな。

──「ギガアイシテル」という曲を作るにあたって、どういうふうにアイデアを膨らませていったんですか?

映画のタイトルに「ラクガキ(落書き)」って入ってるし、今回は絵をテーマにした楽曲を作ろうと思って。言うたら、絵ってアートだし、カルチャーでしょ? そういえば文化寄りの日本史の曲は今まであまり作ってなかったなと思って。

──文化系の曲でいうと、紫式部をモチーフにした「SHIKIBU」や、清少納言について歌った「なごん」のような楽曲がありましたが、どちらも文化というよりは人物に焦点を当てた曲でしたしね。

そうそう。それで絵というテーマで楽曲のモチーフを考え始めて頭に浮かんだのが鳥獣戯画、あとは葛飾北斎、狩野派……それに壁画も考えたね。あとは雪舟の「涙で描いたネズミの落書き」のエピソードとかね。

──レキシワードがどんどん出てくる(笑)。

最初は葛飾北斎をテーマに書いてみようと思ったの。以前、テレビ番組の企画で両国にある「すみだ北斎美術館」を取材したこともあって印象に残っていたし。それで曲を作り始めて、ある程度形になりそうだったけど、アニメの主題歌としてはもうちょっとくだけた感じがいいなと思って、鳥獣戯画を軸に新たに曲を作り始めたんだよ。それと同じくらいのタイミングで、監督さんから映画で伝えたいテーマを教えてもらって。「自分たちが住んでるつまらない街だって大きなキャンバスになる」とか、「走り出せばありえないことだって起こる」とか。これから大人になる人や、新しいことにチャレンジしようとしている人たちの背中を押してくれるような物語にしたいという映画に対する監督の思いも聞かせてもらって。

誰かの落書きが何千年後かに評価を受けることもありえる

──そういったテーマを反映させながら曲を作り始めた、と。

でも、そこからがまた大変で。そもそもレキシの楽曲自体、日本史というテーマで縛られてるわけだけど、そこに今回は落書きという縛りを自ら設定して、さらには映画の根底に流れるテーマも反映させて……もう三つ巴の縛りなわけ。

──いかに縛りがキツいかは、レキシのインタビューで毎回聞くくだりですね(笑)。

それにプラス音楽なのよ。どういうサウンドにするかっていう。4つの縛りでウワーッてなって。その頃、タカシ(ハナレグミの永積崇)と何気なく話してたら、ちょっと不思議な話を聞かせてくれたんだよね。

──ほうほう、気になります。

タカシの友達が事故で記憶が飛んだまま入院することになって、昏睡状態でタイムスリップしたんだって。要は、夢だよね。その夢の中で、昔の京都にタイムスリップして、そこで役職に就いたんだって。でも、寝てるとき「あ、これは夢だ」ってわかるときがあるじゃん?

──夢の中で「今、自分は夢を見ている」って冷静に気付くことってありますよね。

そう。だから「こういう夢を見た」っていう証拠を残そうと思って、その人は夢の中で京都の建物に落書きしたんだって。その人は順調に回復して、無事退院したんだけど、後日京都に行ったら、その建物に自分が残した落書きが残ってたんだって。

──嘘でしょ。怖い怖い(笑)。

まあ、それは夢の話だけど、ご先祖様が残したものが、誰にも気付かれずに何年も経ってから発見されて「これはすごい!」と評価されるようなことって実際あると思うんだよね。そういう設定を想像して思い付いたのが「キミのその落書きも いつか誰かの宝物」っていうフレーズ。鳥獣戯画も、当時のお坊さんが「カエルが相撲取ってるよ、ククク(笑)」くらいの思い付きで描いてたのかもしれないよね。お経を読まないといけないのに、みたいな(笑)。

──現代に例えれば、授業中、教科書に落書きしちゃうぐらいのノリで(笑)。

そう。それが今や、トーハク(東京国立博物館)で4時間待ちみたいなさ。そう考えたら、今、誰かが描いてる落書きが何千年後かにすごい評価を受けることもありえるんじゃないかっていう。そういうことを想像しながら歌詞を書いていったら、監督さんに聞いた「これからチャレンジする人の背中を押す」というテーマにつながったんだよね。

野原しんのすけとレキシ。©臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2020

自宅の立派な巻物を開いてみたら鳥獣戯画だった

──池ちゃん自身、鳥獣戯画にはどういう印象を持っていましたか?

鳥獣戯画は日本最古のマンガと言われてるし、教科書に出てきたら子供は食いつく題材じゃん? 「こんな面白いものがあったんだ?」って。だから昔から興味あったよ。あと、鳥獣戯画には、ちょっとした思い出があって。

──お、なんですか?

子供の頃、実家に立派な巻物があって、なんだろうと思って開いてみたら鳥獣戯画だったのよ。子供だから「これは……まさか!?」って思うじゃん。

──「教科書に載ってる国宝が、どうしてウチに!?」って(笑)。

親に聞いても知らないっていうの。そしたら、もしかしてすげえモンがウチにあるんじゃないかって思うよね。で、おばあちゃんに聞いたら、叔父さんが手に入れたものだっていうわけ。うちの叔父さんって、すごく歴史が好きだったんだよね。池田家の家系をひたすらたどって、ルーツは平家だったらしいって突き止めるような人だったんだけど(笑)。その歴史好きな叔父さんが持ってるんだから、ますます本物なんじゃない!?と思って。そしたら、友達にも言うよね。「これ、ウチにあるぜ」って。

──で、友達も同じく子供だから、純粋に「すげえ!」って思っちゃう。

そう! その巻物はかなり長かったから、いつも途中までしか見てなかったの。で、ある日最後まで全部広げてみようと思って、丁寧に広げてじっくり見てみたんだよ。そしたら教科書で見たことがある絵がどんどん出てきて、「これ、マジで本物かもしれない!」って思ってたら、巻物の最後に「複製」って書いてあった(笑)。

──あはははは(笑)。でも複製とはいえ「鳥獣戯画」に実際触れて、じっくり見ることができたというのはすごくいい経験ですよね。

そうそう。博物館でちゃんと本物を見るのもいいけどね。それ以来、さらに興味を持つようになった。描かれてる動物たちも、見れば見るほど味わい深いしね。

──カエルやウサギを擬人化して、当時の世俗や人々の行いを表現しているという説もあります。

風刺も入ってるだろうしね。まだ個人的にあまり研究できてないんだけど、擬人化というのも昔から文化の1つとしてあったみたいで。妖怪とかもそうだし、あとは大根を人に見立てた昔の絵とか、そういう俗っぽい感じも含めて、今ちょっと擬人化に興味を持ってる。

──こんなこと言ったら元も子もないかもしれないですけど、「ギガアイシテル」はアニメ映画の主題歌として作られたものとはいえ、昨今のレキシの楽曲の中でも随一と言っていいほど、きちんと日本史のモチーフが織り交ぜられていますね。

そうなの! うまいこと歌詞に日本史の要素が入ってるなと自分でも思った。

──さらに、昔の人と現代の人の思いが歌詞の中で織り重なっていて。「落書き」というテーマから、昔の人の日常的な暮らしとか、日々ふと思う心境みたいなところまで想像を膨らますことができます。

何気ない日常ね。それこそ壁画とかさ、何千年後に発見されて、カビを除去したりして、自治体をあげて復元して保存しちゃうみたいなことってあるじゃない。でも、昔の人からしたら「イヤイヤイヤ、そんな大したもんじゃないから! そんなふうに有難がってくれるんだったら、もっとちゃんと描いたわ!」って思ってるかもしれない(笑)。

──確かに(笑)。すみだ北斎美術館に展示してある葛飾北斎の一筆書きで描いたスケッチ(「伝神開手 一筆画譜」)なんかも、北斎の人間味みたいなものがより伝わってくる感じがして。

ちゃんと描いたものよりもラフにスケッチしたもののほうが味が出てよかったりすることってあるよね。音楽もそうだし。1stテイクならではの魅力みたいな。