Psycho le Cému|メンバーの証言でたどるヴィジュアル系異端児の軌跡

“元祖スーパーコスプレバンド”と言われるPsycho le Cémuが5月9日にニューアルバム「Light and Shadow」をリリースした。

2015年の活動再開後初となる、新曲だけを集めた完全オリジナルフルアルバム「Light and Shadow」の完成を記念して、音楽ナタリーではPsycho le Cémuの特集を展開。DAISHI(Vo)、Lida(G)、seek(B)のインタビューを交えつつ、なぜコスプレの衣装や完成された世界観のミュージックビデオを含め、それまで前例のなかったアプローチをしているのか、彼らにとってヴィジュアル系とはなんなのかなど、これまでの活動を振り返りながらPsycho le Cémuの魅力を徹底的に分析した。

取材・文 / 真貝聡

結成した頃の時代背景

Psycho le Cémuが誕生したのは1999年。黒夢、DIR EN GREY、Janne Da Arcがメジャーデビューを果たした年であり、その一方で2000年にLUNA SEA、SHAZNAが、2001年にMALICE MIZERが活動休止を発表している。このように1990年代末期から2000年代初頭のヴィジュアル系シーンは、一時代を築いたバンドが相次いで終焉を迎えて、現在のヴィジュアル系をリードする新しいバンドが台頭してきた激動の時代であった。

Psycho le CémuはDAISHI、Lidaが「ド派手なバンドを作ろう」とAYA(G)、seek、YURAサマ(Dr)に声をかけたのが始まり。結成当初から彼らはシーンの中で異質な存在であった。それはどういうことなのか、当時のことを教えてもらった。

seek ほかのバンドは美意識が高くて、カッコいい世界観を大事にされている方が多かった。僕らは今まで先輩方が作ってきたイメージを、より面白く見せるためにどういうアプローチをすれば良いんだろう、と模索しました。そこで試みたのがMCでくだけたトークをしたり、ライブにお芝居やダンスを取り入れたり、原色の衣装を身にまとって演奏することでした。今でこそ、そういう見せ方は浸透してますけど、当時はかなり新しかったと思います。

最初の頃は「こんなのはヴィジュアル系じゃない」と批判の声も多かったという。そんな中で、彼らをいち早く評価した人もいた。バンドはその人の言葉に強く背中を押されたそうだ。

seek 初めてのライブは地元の姫路でやったんですけど、その地域のバンドは皆さん演奏がうまくて、曲もしっかりしてる人ばかりがそろってた。ライブハウスの店長は「Psycho le Cémuは演奏も下手くそで、衣装も派手な感じやから、周りからチャラチャラしたやつらだって見られるかもしれない。せやけど多分お前らが一番売れると思うで」と言ってくれて。あの言葉が大きな自信になりました。

ロールプレイングキャラの誕生

2000年になり、インディーズデビューシングル「Kronos」をリリースするにあたって「バンドにしっかりしたコンセプトが必要」という話が挙がり、AYAとYURAサマがゲーム好きだったという理由で、RPGに登場するキャラクターふうのコスプレが生まれた。これを機に誰も見たことのないまったく新しいヴィジュアル系バンドとして、Psycho le Cémuは世間から注目を集めることとなった。

そして、2003年にリリースした「FRONTIERS」はメジャーデビューアルバムにも関わらず、オリコン6位に輝く。この頃のヴィジュアル系といえば、黒い衣装を着て、ダークな雰囲気を醸すバンドが主流。だからこそポップな路線へ振り切ったPsycho le Cémuの演出は革新的で、ヴィジュアル系に興味を示さなかったリスナーを惹きつけた。次第に多くのメディアが彼らを取り上げるようになり、雑誌だけでなく人気音楽番組「HEY! HEY! HEY! MUSIC CHAMP」「ポップジャム」「ミュージックステーション」「うたばん」にも立て続けに出演。一躍、お茶の間でも認知される存在となっていった。

見る人を驚かせる斬新な衣装

彼らのウリはなんと言っても、こだわり抜いた衣装だ。1着の製作費は100万円、これまでにかかった衣装代は総額5000万円以上。徹底した世界観も特徴で、先述のRPGキャラのほかに竜騎士、探偵、怪盗、歌舞伎者、仏様などリリースのたびに新しいキャラクターやコンセプトを打ち出している。

Psycho le Cému

DAISHI 僕らは“コスプレバンド”って言われてるんですけど、実在のアニメとかゲームのコスプレをしたことがないんですよ。全部、自分たちで考えて衣装を作ってます。どうやったらお客さんにパンチを与えられるか、そればっかり考えてますね。

そんな彼らは、2004年にリリースした「想い出歩記」で西遊記のキャラクターを独自の解釈で演出したことがあった。

Psycho le Cému

seek 西遊記の時は、悟空、三蔵法師、沙悟浄、猪八戒……あと誰?っていう。

Lida Psycho le Cémuは5人いるのに、西遊記は有名なキャラクターが4人しかおらんでしょ。だから俺だけ……。

DAISHI (Lidaだけ)あまりもんなんすよね。

seek 中国やから龍って思われがちなんですけど、もうちょっと複雑で。

DAISHI Lidaが扮したのは龍の生まれ変わりの馬っていう……。

Lida こんだけ説明しないとダメなんですよ!

このように、解説を聞かないとわからない緻密な設定も魅力の1つ。そしてキャラクターの世界観を守るため、髪型を変えるときはメンバーに相談しないと変えられない、という鉄則の掟がある。

seek 初物事の決め方に関しては徹底してて。ライブを観に来るお客さんからしたら、アーティスト写真のキャラがそのまま目の前に出てきてほしいわけです。ほかのバンドさんは「ライブ前に髪色変えてきたわ」とか「昨日、髪型変えたわ」みたいなことが多いんですけど、僕らは全員が同じタイミングじゃないと髪型も変えたくなくて。(僕らは)5人で1つだから、1人でもカラーが変わると並んだ時にバランスがおかしくなるんです。

そんなストイックな姿勢を持つ彼らに、率直な疑問をぶつけてみた。

Psycho le Cému

──正直、ヴィジュアル系バンドって“カッコいい存在”という印象があって。Psycho le Cémuは「モテたい」とか「カッコ付けたい」とは違う意識が働いていると思うんです。実際はどうですか?

DAISHI そんなの言ってくれた人は初めてですよ!

──え? どういうことでしょう?

DAISHI そんな核心をついてくれた人は初めてです。確かに「モテたい」とは違うバンドですよね。だってモテるためにはもっと効果的な見せ方がありますから。

Psycho le Cému

──どんな反応を求めているんですか?

DAISHI 昔、僕とLidaはカッコいい路線のバンドを組んでいたんです。それこそ王道のヴィジュアル系バンド。でも、それでは人の心は動かせなかったんですよね。どうやったら人を惹きつけられるか、やっぱりそこが基準になっています。だからこそ個人としてどう見えるかじゃなくて「このバンドって面白いよね」って反応が欲しくてやってます。

彼らの原動力は人を驚かせたい、楽しませたい、その貪欲さという気持ち。だからこそ世間の流れに寄り添うことなく、シーンの中で突出した存在として今日まで支持されてきたのだ。

Psycho le Cemu「Light and Shadow」
2018年5月9日発売 / Warner Music Japan
Psycho le Cemu「Light and Shadow」豪華盤

豪華盤
[CD+DVD+フォトブック+グッズ] 15000円
WPZL-31426~7

Amazon.co.jp

Psycho le Cemu「Light and Shadow」初回限定盤

初回限定盤
[CD+DVD] 5000円
WPZL-31424~5

Amazon.co.jp

Psycho le Cemu「Light and Shadow」通常盤

通常盤
[CD] 3000円
WPCL-12849

Amazon.co.jp

CD収録曲
  1. Revenger - 暗闇の復讐者 -
  2. 妄想グラフィティー
  3. STAR TRAIN
  4. JUNGLE×JUNGLE
  5. 哀しき獣
  6. 絶望のゲルニカ
  7. 命のファンファーレ
  8. SILENT SHADOW
  9. ファイティング!
  10. 大空を目指すあの花のように
豪華盤DVD収録内容
  • Psycho le Cému 15th Anniversary Live<TOKYO PARALLEL WORLD ~はじまりの奇跡~>完全版
  • Psycho le Cému 渋谷公会堂 追加公演 「復活!理想郷旅行」(2002.5.11)秘蔵映像
  • 「妄想グラフィティー」Music Video&Making Video
初回限定盤DVD収録内容
  • Music Video集(2015年の復活後の作品)
  • 「Revenger - 暗闇の復讐者 -」Music Video&Making Video
「『TOUR 2018 Doppelganger』~ゲルニカ団 漆黒の48時間~ / ~PLC学園 最期の48時間~」
  • 2018年5月12日(土)
    東京都 チームスマイル・豊洲PIT

第1部 ゲルニカ団 漆黒の48時間
OPEN 11:30 / START 12:30

第2部 PLC学園 最期の48時間
OPEN 17:00 / START 18:00

Psycho le Cému(サイコルシェイム)
DAISHI(Vo)、Lida(G)、seek(B)、AYA(Dance, G)、YURAサマ(Dance, Vo, Dr)からなるロックバンド。1999年に結成。2002年にシングル「愛の唄」でメジャーデビューを果たし、奇抜な衣装を身にまとったコスプレバンドというスタイルとジャンルにとらわれない自由な音楽性で人気を博す。2006年に無期限の活動休止に突入し、メンバーそれぞれがほかのバンドで活動。結成10周年にあたる2009年に期間限定で活動を再開し、同年再び休止に入る。2014年10月には結成15周年を機に再始動し、2015年2月に5年ぶりのライブを開催。さらに9月に約10年ぶりのシングル「あきらめないDAYS」をリリースした。2016年7月には再録曲を含むアルバム「NOW AND THEN ~THE WORLD~」を発表。2017年4月にはニューシングル「STAR TRAIN」をリリースした。2018年3月より全国ツアー「TOUR 2018 Doppelganger」を開催。5月9日に新曲だけで構成したニューアルバム「Light and Shadow」を発表した。