「プロメア」澤野弘之インタビュー|ド派手な熱血ファイヤーバトルを盛り上げる “歌モノ”サントラの制作舞台裏

ボーカリスト選びの基準は

──「Inferno」は男性のダブルボーカルになっていますね。

この曲は男性1人ではなく2人で力強く歌ってもらおうというイメージがあったので、「キルラキル」のときにも参加してもらったBenjamin & mpiの2人にお願いしました。映画の冒頭でも流れますし、終わりのほうでも続けて使われていて、ずっと流れてる印象があるかもしれないです(笑)。ちなみにmpiとBenjaminにはもう1曲、「Gallant Ones」でも歌ってもらっていて。制作の後半で「ミディアムテンポのデジロック的な曲が欲しいです」というリクエストがあったので、急遽作りました。この曲も全体のいいアクセントにはなったかなと思っています。

──歌モノとしてはもう1曲、「ΛSHES」もそうですね。

この曲はリオのテーマとして、彼の悲しい心情に合わせて作りました。ほかの歌モノ曲とはちょっと違ったコントラストを意識したところはありましたね。歌はGemieさんです。

──歌モノを作る際、ボーカルのチョイスはどんな基準なんですか?

今回に関しては全体的なイメージを見据えてのバランスで考えていきました。単純に「男性ボーカルのアップテンポな曲があったほうがいいな」とか、「80’sっぽいアプローチの曲は逆に女性にお願いしたいな」とか、そういう感じで。そのうえで、曲にマッチするボーカリストの方を選ばせていただいたっていう。

──男性だけ、女性だけに統一しなかったのもバランスですか?

澤野弘之

そうですね。要は「Inferno」も「NEXUS」もバトルシーンをイメージして作った曲ではあったから、例えば両方とも男性に歌ってもらうよりは、一方に女性のアプローチが入ってきてほしいなと僕は思ったんですよ。全面的に男性で行くよりは、広がりにもなりますからね。そういう違いは必要かなって。

──歌詞はすべて英詞になっていますね。作品の世界観に寄り添った内容になっているので、意味を紐解いていくとより没入度が高まる気がしました。

「ΛSHES」の歌詞はcAnON.さんにお願いして、残りの曲はmpiさんとBenjaminに書いてもらってます。基本的に作詞をお願いする方々にも台本や資料をお渡ししているので、そこは作品に寄り添ったものになっていますね。そのうえで、作詞してくれた方々なりに世界観を膨らませている部分もあるので、いろいろ想像を膨らませられる歌詞になっていると思います。

「キルラキル」に続きいろんなことを試せた「プロメア」

──「プロメア」の劇伴は、澤野さんのカラーをしっかり感じさせてくれる内容になっていますし、同時に作品と共鳴し合うことでさまざまな表情も見えているように感じました。

「プロメア」より、松山ケンイチ演じるガロ・ティモス。

そうですね。「キルラキル」のときもそうでしたけど、今回も「いろんなことができたなあ」ってすごく思えました。ボーカルをフィーチャーして激しい曲や悲しい曲を作ることもできましたし、和のテイストやオーケストラの曲、ハリウッド映画のようにパーカッションを強く打ち出すようなものも自分なりにアプローチすることができたので、ホントに楽しかったですね。

──ちなみに今回作った曲数は「キルラキル」と比べてどうでしたか? 映画ナタリーで公開されている松山ケンイチさんと早乙女太一さんの対談の中に、「今石監督は『天元突破グレンラガン』シリーズを超えるために「キルラキル」では使う曲数が増えたとおっしゃっていた」という発言があって(参照:「プロメア」松山ケンイチ×早乙女太一インタビュー)。

曲の数に関しては、今回は2時間弱の劇場作品だったので、テレビシリーズとして2クールあった「キルラキル」よりは多くはなかったですよ。最終的に作った曲のトータル分数的にはテレビアニメの1クール分、いくかいかないかくらいだと思います。

──映画公開と同日にリリースされる「プロメア」のサウンドトラックには全21トラックが収録されていますね。

そうですね。だから実際作った曲も、それよりちょっと多いくらいだったと思いますけど。

──ただ、このサントラを聴かせていただくと、1トラックの中でガラッと景色が変わる曲が多いじゃないですか。言っちゃえば2曲分を1トラックとしてカウントしているところもあるので、実質もっと作られた曲は多かったんじゃないかなと思ったんですよね。

あー、そうですね。2曲を合体させて1曲にする手法は別の作品でもけっこうやってるんですけど、そういう部分で言えば全体の曲数はもうちょっと多かったりはするとは思います。

ハリウッドのエンタテインメント映画のような音楽の使い方

──2曲を合体させるのには何か理由があるんですか?

これはもう僕の都合と言いますか(笑)。例えば全部で40曲くらいあったときに、レコーディングでセッションデータを1曲ずつ開くと時間がかかっちゃうんですよ。だったら2曲同時に立ち上げたほうがいいから、じゃあつなげてしまえっていう(笑)。

──なるほど。作業の効率的な理由で(笑)。でも1曲の中で異なる景色が混在していることで聴き手のイメージはより膨らむ感覚もあるんですよ。そこが面白いなと。

そうですね。そういう効果もあるとは思うんですよ。2曲を分けて収録するのか、くっつけて1曲として収録するのかで、聴き方が変わるところは確かにありますよね。実際、聴いてくれた人の感想でそういう感覚があることを実感したので、2曲くっつけるスタイルを続けるようになったところもあったと思います。サントラはサントラとして、音楽作品として面白く感じてもらえるものを作れればと思って取り組んではいるので。もちろん映像と合わさったときの相乗効果こそが映画音楽の面白さだとも思うので、ぜひ劇場でも楽しんでほしいですけどね。

──劇中では全編にわたって澤野さん楽曲がガンガン流れますからね。

「本編ずっと鳴ってんじゃないかってくらい音楽を当ててますので」と今石監督たちもおっしゃっていて。実際ダビング作業に立ち合ったらホントにそうでしたからね(笑)。わりと音量的にも大きく流していただけているのでうれしかったです。僕自身、そういうアプローチの音楽の使い方が好きなんですよ。ハリウッドのエンタテインメント映画なんかまさにそうじゃないですか。こないだ観た「アベンジャーズ/エンドゲーム」でもひっきりなしに音楽が流れてて、音量もめっちゃデカい瞬間があったりして。それがいいなとすごく思ったんですよね。もちろん、なんでもかんでも音楽や効果音で押していけばいいわけではないとは思うけど、「プロメア」はそのへんのバランスがうまく取れているので、観ていて気持ちが本当に盛り上がりますよ。僕も改めて完成版を劇場で観るのが楽しみです。

澤野弘之

──では最後に、これから「プロメア」を楽しむお客さんたちにひと言。

登場するキャラクターのテンションが高くて、ストーリーにはスピード感があって、画面はすごくカラフル。シンプルな言い方になっちゃうのが申し訳ないですけど、「プロメア」はとにかく明るく楽しめる作品になっていると思います。そこに音楽で参加できたのがホントにうれしいですね。自分的には今回もバラエティに富んだ曲たちを作れたと思うので、それが劇中で映像とどう混ざり合うか、そこもまた皆さんに楽しんでいただきたいです。で、公開日にはサウンドトラックもリリースされるので、映画のあとには音単体でその世界を自由に楽しんでいただければ幸いです。