TRIGGERが制作する完全オリジナル劇場アニメーション「プロメア」が5月24日に公開された。「天元突破グレンラガン」や「キルラキル」を手がけた今石洋之監督と脚本家の中島かずきがタッグを組んで生み出した本作は、燃える火消し魂を持つバーニングレスキューと突然変異で誕生した炎を操る人種・バーニッシュたちが繰り広げる、熱さ全開のバトルエンタテインメント。声優として松山ケンイチ(ガロ役)、早乙女太一(リオ役)、堺雅人(クレイ役)といった豪華な俳優陣が参加、大きな話題を集めている。
音楽ナタリーでは「キルラキル」に引き続き「プロメア」でも音楽を担当し、映画公開と同日にオリジナルサウンドトラックもリリースした澤野弘之にインタビューを実施。熱量の高いバトルエンタテインメントとなる本作の世界観をどう音楽へと落とし込んでいったのかをじっくりと聞いていく。また音楽ナタリーでは「プロメア」の主題歌「覚醒」「氷に閉じこめて」を担当したSuperflyへのインタビューも後日公開する。
取材・文 / もりひでゆき インタビュー撮影 / 関口佳代
歌の曲があってもいいですか?
──澤野さんが今石洋之監督作品で音楽を手がけられるのは、2013年のテレビアニメシリーズ「キルラキル」に続いて2作目になりますね。今回、お話をいただいたときはどんなお気持ちでしたか?
常々言ってることではありますけど、一度ご一緒させていただいたからといって次もオファーがあるとは限らないじゃないですか。自分としてはそのときの全力を尽くして音楽を作ってはいるけど、それをどう受け取ってもらえたのかは実際わからなかったりもするし、作品によって違う方が音楽を手がけることがあって当たり前なので。だから今回、今石監督から再びお話をいただけたときは、驚きとうれしさがありましたね。「あ、『キルラキル』の音楽を面白がっていただけてたのかもな」っていう気持ちになれたというか。
──劇伴の制作はどんな流れで進んでいったのでしょう?
今回は僕のスケジュールの兼ね合いもあって、早い段階……一昨年くらいに一度打ち合わせをさせていただいたんです。その時点ではまだ音楽メニューはできあがっていなかったので、監督や制作プロデューサーの方と一緒に「主人公のテーマ曲は必要ですよね」「バトルがあるから、そこにふさわしい曲も作りましょう」みたいな話をしながら、大まかに10曲分くらいのイメージを固めて。で、そこから僕が実際に曲を作り、それを改めて聴いていただくタイミングで、今度は音楽メニューに沿ってさらに必要な曲を提示していただいた感じでしたね。
──「プロメア」の世界観を音楽に落とし込む作業はスムーズに進みましたか?
そうですね。台本や絵をつなげた動画のような資料も事前にいただいていたので、そこから自分なりにヒントを得て作っていくことができました。あとは、「キルラキル」でやったような音楽でのエンタテインメント的なアプローチは今石監督も面白がっていただいていたようで。「あれくらいはっちゃけたことをやっていただいて大丈夫です」とおっしゃってくださったんですよ。なので、「じゃあ歌の曲があってもいいですか?」みたいなことを僕からも提案させてもらって。単純に「キルラキル」の延長線上のものを作る、みたいな感覚はまったくなかったですけど、でも「キルラキル」と同じくらいの熱量を音楽で表現してもいいんだなって感覚にはなれたので、非常に作りやすくはありましたね。
これは絶対やりたい!
──今石監督の作品に対してはどんな印象を持っていますか?
中島(かずき)さんの脚本によるところも大きいとは思うんですけど、「キルラキル」も、今回の「プロメア」もとにかくド派手なエンタテインメントですよね。物語の中にはちょっとダークな要素も出てくるけど、それを単純に悲しく描くというよりは、ギャグを交えつつ明るい方向に持っていくところがいいなって思います。海外のカートゥーンなんかも裏にはけっこう重いテーマが隠れているけど、主人公たちがわりと明るいから子供たちは純粋に楽しく観られてしまう感じがあるじゃないですか。そういうポジティブさ、爽快さみたいな部分が今石監督の作品にも感じられるから、僕はすごく好きなんですよね。
──今、カートゥーンというワードが出てきましたが、今回の「プロメア」の絵柄はまさにそういったテイストでもありますよね。
そうそう。最初に見せていただいた資料からしてホントにカートゥーンっぽい明るい絵柄、色合いだったからそこにすごく惹かれて。「これは絶対やりたい!」ってすごく思ったんです。
──絵柄はもちろん、明確に振り分けられた登場人物たちの個性も魅力的ですよね。
ホントにそうだと思います。主人公の1人であるガロはとにかくアホみたいに元気なキャラじゃないですか(笑)。ピンチのときでもすっとぼけてるし。でも心にはちゃんと信念を持っているからすごく魅力的で、観ている側は好きになっちゃうと思うんです。で、もう一方のリオはわりとダークな部分が見えるキャラで、ガロとは対称的。2人の個性のコントラストがはっきりしているのもいいところですよね。あとクレイのキャラクター性も面白かったなあ。
──そういった今石監督作品だからこそ音楽的に引き出される部分があったりもするんですかね。
そうした部分もあると思います。ただ、作品に寄り添うことは考えますけど、だからといってその明るい雰囲気に合わせて自分もそういうテイストの曲を作らなきゃいけないって気持ちになることはあまりなくて。むしろダークな曲を作ったとしても、今石監督のカラーが出た作品世界によって、気持ちが前向きになるようなサウンドに聞こえてくる感覚があると僕は感じているので、個人的にはそこを大事にしていたりはしますね。明るさがあるとはいえ、作品自体の熱量やスピード感、迫力がとにかくすごいので、今回も僕はそこに同じくらいの熱量でぶつかっていった感じだったと思います。そういう意味では今石監督の作品だからこそ湧いてくるエネルギーやモチベーションだったと思いますし、「これ以上ないくらい『プロメア』の世界に突っ込んで行っちゃおう」みたいな感覚でした。
今石洋之監督が求めた音楽
──劇中、ガロにまつわる音楽に関しては和のテイストを感じさせる部分がありました。キャラにもマッチしていますし、全体のアクセントにもなっていますよね。
ガロはちょっと「和」をイメージさせる格好をしているので、そこは監督に確認させてもらったんですよ。「和に寄せた音楽は必要ですか?」って。そうしたら「全面的には必要ないけど、ガロの曲にだけはそういったテイストが入っていても面白いかも」と言われて。なので、ヨナ抜き音階を使ったメロディで和っぽさを出したりとか、あとはその匂いを強くするためにフルートとかティンホイッスルとかを尺八っぽい雰囲気で吹いてもらったりはしてます。
──ほかにも楽曲に対して先方から具体的なリクエストはありましたか?
あとは「ちょっとオールディーズみたいな曲を」という話はありましたね。そこで僕は、映画の「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」で使われていたような1980年代の海外ポップスのイメージが膨らんで。そういうアプローチを自分なりに意識して作ったのが、バトル曲になった「NEXUS」という歌モノの曲だったりするんですけどね。エレクトロニカな雰囲気で80'sっぽさを出しつつ、歌に関しては「甲鉄城のカバネリ 海門決戦」や「『進撃の巨人』Season3」の劇伴に参加してもらってるLacoさんという女性ボーカリストにお願いして。彼女の歌が入ったことで、曲の持つ勢いや力強さがより広がった気がしましたし、すごく気に入ってます。
──その「NEXUS」も含め、今回は数曲の歌モノがストーリーの重要なシーンで使用されています。劇伴に歌モノを盛り込んでくるのは澤野さんらしいところですよね。
最初の打ち合わせのあとに作った10曲の中でアクセントになるものとして、まずはこの「NEXUS」と、結果としてメインテーマとして使っていただけることになった「Inferno」の2曲を作ったんですよ。
──「Inferno」はもともと、メインテーマとしては作っていなかったということですか?
そうなんです。オーケストラのインスト曲をメインテーマとして別で作ってはいたんですけど、監督が「Inferno」を気に入ってくださって。なので、この「Inferno」をオーケストラバージョンにアレンジしたりもしつつ、全編で流してもらえることになったんですよね。僕自身、けっこう力入れて作った推しの曲だったから、それはよかったなって(笑)。で、もともとメインテーマとして作ってた曲はサブテーマとして使ってもらってます。
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