THE PRIMALS結成10周年記念インタビュー|「ファイナルファンタジーXIV」公式バンドが掲げる矜持

スクウェア・エニックスの人気オンラインRPG「ファイナルファンタジーXIV(以下、FF14)」の公式バンド・THE PRIMALSが結成10周年を迎えた。

THE PRIMALSは「FF14」サウンドディレクターの祖堅正慶(G, Vo)を中心に、2014年にマイケル・クリストファー・コージ・フォックス(Vo)、GUNN(G)、イワイエイキチ(B)、たちばなテツヤ(Dr)の5人で始動。ゲーム音楽の制作だけでなく、不定期ながらも国内外でライブを行い、光の戦士たち(「FF14」プレイヤーの愛称)を熱狂させてきた。

そんな彼らが10周年を記念して、アニバーサリーアイテム「THE PRIMALS - Riding Home」を発表した。本作の発売を記念して、音楽ナタリーではメンバーにインタビューを行い、近況やこの10年で得たもの、これからのTHE PRIMALSの展望について聞いた。なお、スケジュールの都合で取材に立ち会えなかったフォックスには別途メールインタビューに答えてもらった。

取材・文 / 倉嶌孝彦撮影 / 曽我美芽

念願のフェスで“戦えるライブ”を

──過去のインタビューで「フェスに出たい」と話していましたが(参照:THE PRIMALSインタビュー|光の戦士との再会を果たした約4年ぶりワンマンを振り返る)、7月に開催された「LuckyFes 2024」に出演されていて驚きました。

祖堅正慶(G, Vo) 初フェスはめちゃめちゃ楽しかったですね。そもそも僕らみたいなバンドが野外でライブするというシチュエーションが珍しいですから。

たちばなテツヤ(Dr) 確かにそうだね。

祖堅 みんなで汗だくになって演奏して、お客さんと一緒に盛り上がれるのはやっぱり楽しいですね。いつものイベントと違って音しか武器がない状態だったのも面白かった。

祖堅正慶(G, Vo)

祖堅正慶(G, Vo)

──これまでのTHE PRIMALSのインタビューでは「ライブにおいての主役はバンドではなくてプレイヤーのゲーム体験」という話が何度か出てきましたが、フェスの現場では“ゲーム体験のないお客さん”もいるわけですよね。その場合、どういう戦い方をするのでしょうか?

祖堅 そこに関してはみんなでかなり話し合いました。確かに僕らは「みんなのゲーム体験に火を点けるバンド」なんだけど、今回はそうじゃない。いつもだったら僕発信でセトリや演出を考えるんだけど、今回はフェスの現場慣れしている先輩たちの意見を聞いて、全員でライブを作りにいく感覚でした。

たちばな ファンフェス(「ファイナルファンタジーXIV ファンフェスティバル」)のような大きなイベントだったら、いろんなゲストボーカルを呼んで華々しくできるけど、今回はそういう武器もない。もっと言えば、大きなモニターでゲームの映像をずっと大映しにすることもできない。だから今回はコージを含めたこの5人で戦うことに専念しました。

GUNN(G) コージには「君はミック・ジャガーの位置だからな」「このバンドのスティーヴン・タイラーなんだ」って何度も言いました。逆にプレッシャーをかけちゃったかもしれないけど(笑)。

たちばな 感覚的にはTHE PRIMALS結成時のライブに近かったかも。ゲームの流れは一旦置いといて、集まってくれた人がどう盛り上がってくれるかを考えてセットリストを組む。その結果、ゲームのことやバンドのことを知らない人相手でも十分戦えるライブができた。

イワイエイキチ(B) 僕はずっと前からTHE PRIMALSでフェスに出たかったし、絶対に出られると思っていたから「ほらね」って感じ。やっぱりああいう場でライブするのは気持ちいいし、楽しかったなあ。

イワイエイキチ(B)

イワイエイキチ(B)

──僕も実際に現地で楽しませてもらいましたが、ステージには光の戦士たち(「FF14」プレイヤーの愛称)だけじゃなくて、ゲームのことは知らずに聴きにきた人たちが集まっていたのが印象的でした。

祖堅 いつもの顔ぶれとは違うお客さんがじわじわ盛り上がって、最後にはピョンピョン跳ねて楽しんでくれたのはうれしかったですね。自分たちの曲がちゃんと通用する、音楽だけでも成立するんだということが証明できたわけですから。

──逆にゲームプレイヤーが“音楽フェスという異文化”を知る、いいきっかけにもなったと思います。

GUNN おっしゃる通りで、音楽の祭典として光の戦士たちに僕らのステージ以外も楽しんでもらいたいとも考えていました。ありがたいことに、「THE PRIMALSがフェスに出るなら、俺たちが応援に行かなきゃ」みたいな光の戦士たちとあの場で会えたこともうれしかったし、僕らきっかけで野外フェスを体験して「楽しいな」と感じて家に帰ってくれていたら万々歳ですね。

GUNN(G)

GUNN(G)

チャラいまま仕上がったらどうしよう?

──ちょっと前のトピックスですが、「FF14」の最新拡張パッケージ「黄金のレガシー」の主題歌「Dawntrail」をTHE PRIMALSが担当したことについても聞かせてください。基本的にTHE PRIMALSはゲーム内のボス曲を担当するバンドではありましたが、最近ではパッケージの主題歌を担当することも増えてきました。

祖堅 ボス曲が多いからか、THE PRIMALSってマイナー調の曲が多いんですよ。でも「Dawntrail」は、オーダーの段階でメジャー調の“ちょっと浮き足だった夏休み”みたいな明るいテイストを求められて。それがTHE PRIMALSのカラーに合うかどうか、作りながらけっこうモヤモヤしていました。

GUNN デモの段階で何度か聞かれたんですよ。「こんな軽い曲で大丈夫かな?」「チャラいまま仕上がったらどうしよう」って。デモの段階ではそうかもしれないけど、このメンツで演奏したら絶対にゴツくなる、という確信があったので、僕はあまり気にしてなかったかな。結果としてかなりゴツくなったし。

イワイ 今回のベースラインは祖堅くんが作ったデモをほぼそのまま演奏したくらい。メロディに関しては直していないけど、レコーディングのときに「軽い感じにしないでください」と言われたのは意外だったかな。「じゃあこうですか?」という感じで、けっこうドスを効かせて弾いています。

祖堅 1年ぐらい前に出したティザートレイラーの段階ではまだTHE PRIMALSでレコーディングをしてなかったので、僕の打ち込み音源が採用されたんですが、そのときは“夏休み感”を出すのに苦労して。具体的には、いろんなパーカッションを入れてグルーヴ感を出そうと四苦八苦していました。リリースに向けてこのメンバーでレコーディングしてみたら、グルーヴ感を出すのにパーカッションの音はいらなくて。テツさんが叩いてイワイさんが弾けば、楽器2つで表現したかったグルーヴが表現できてしまう。

たちばな 僕はパーカッションを入れるつもりだったんですけどね。祖堅氏がいきなり「いらない」って言うから。

たちばなテツヤ(Dr)

たちばなテツヤ(Dr)

祖堅 僕は「やっぱこのバンドすげえな」と思ったんですよ。曲を作っている段階ではモヤモヤしていたけど、この曲をTHE PRIMALSでやって大正解でした。

──ミュージックビデオのテイストもこれまでのTHE PRIMALSの映像とは一線を画した、さわやかな仕上がりになっていますね。

祖堅 これが大変だったんですよ。「黄金のレガシー」のテーマが夏休みだから「海岸でMVを撮ります」という話になったんですが、それが真冬で。気温0℃の浜辺で、夏っぽい映像を撮るのはめちゃくちゃ大変でした。

GUNN スタッフさんはみんなダウンジャケット着ていたからね。

祖堅 こっちは寒い中シャツ1枚しか着ていないのに「暑そうな顔をしてください」みたいなことを言われるんですよ(笑)。天気も晴れちゃって、見た目的には夏っぽくて僕らもヘラヘラ演奏していますが、実際は凍えてました。風邪引かなくてよかったよね。

THE PRIMALS

THE PRIMALS

──「Endwalker」のMV撮影もロケが大変だった、という話をしていた気がしますが……。

祖堅 アレも大変だった。山の斜面での撮影で「もうちょっと前!」とか言われて「え、崖から落ちちゃうよ」みたいな。

たちばな THE PRIMALSはけっこう外ロケでMV撮るよね。天気にも左右されるから大変なのに。

祖堅 僕らももう若くないから、過酷なロケものは避けてくれないかな(笑)。