祖堅正慶、今村貴文、石川大樹が解説する「GROWING LIGHT: FINAL FANTASY XIV Original Soundtrack」

スクウェア・エニックスが手がけるMMORPG(大規模多人数同時参加型オンラインRPG)シリーズ「ファイナルファンタジーXIV」(以下「FF14」)の、最新オリジナルサウンドトラックが3月27日にBlu-rayと配信にてリリースされた。

「FF14」は人気RPG「ファイナルファンタジー」シリーズのナンバリングタイトルの第14作目で、サービスインは2010年。2024年4月時点でパッチ6.5まで展開されており、世界中のヒカセン(「FF14」のプレイヤーを表す「光の戦士たち」の愛称)に愛され続けているゲームだ。

音楽ナタリーでは、「FF14」の世界を音で彩るサウンドディレクター / メインコンポーザーの祖堅正慶、そしてコンポーザーの今村貴文と石川大樹にインタビュー。「GROWING LIGHT: FINAL FANTASY XIV Original Soundtrack」(以下、GROWING LIGHT OST)と冠された最新オリジナルサウンドトラックの制作舞台裏や、パッチ7.0となる最新拡張パッケージ「ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー」の展望を音楽視点で語ってもらった。

取材・文 / 倉嶌孝彦撮影 / 山崎玲士

サウンドチームの仕事には谷間がない

──皆さんには昨年「ファイナルファンタジーXVI」(以下「FF16」)のサントラ特集にご参加いただきましたが(参照:「FINAL FANTASY XVI」サウンドトラック特集)、今回は「FF 14」のサウンドチームとしてのご登場となります。今作「GROWING LIGHT OST」には、2022年4月リリースのパッチ以降(パッチタイトル「新たなる冒険」~「光明の起点」まで)の音楽が収録されていますので、ちょうど「FF16」と開発時期が被っていますよね。

今村貴文 「FF16」の音楽と同時並行で作る、みたいな状態が続いていたのがちょうど今作ですね。なので、2022年は本当に記憶がない。

祖堅正慶 2人はそういう経験なかったかもしれないけど、そもそも「FF14」は“旧FF14”と“新生FF14”をどっちも作る、みたいなことをやってた時期もあったから、そのときと似てるかもしれません(笑)。僕からしたらずっと谷間がない。

石川大樹 ここ5年くらい祖堅から「来年は楽になる」と聞いていますが、今のところそういう兆候はまったくないですね。言い方を変えれば充実していると言えるかもしれませんが……。

左から石川大樹、祖堅正慶、今村貴文。

左から石川大樹、祖堅正慶、今村貴文。

──実際に2つのタイトルの音楽制作はどう切り分けて作業を?

祖堅 「FF14」と「FF16」でゲームの世界観がまるで違うから、やっぱり混じってしまうとよくない。なので、けっこう制作時期をキッパリ分けてました。ここからここまでは「FF14」の作業に集中して、以降は「FF16」の作業、みたいな。

──推測するに、今作「GROWING LIGHT OST」の制作は“祖堅-今村-石川”の3名体制がだいぶ軌道に乗ってから作られた楽曲が多いですよね。

祖堅 そうですね。実はここにいる3人以外にも矢崎(早彩)とジャスティン(Justin Frieden)という2人にも新たに加わってもらい、人員補強もできたのがパッチ6.1からの制作体制でした。さすがに3人だけで2タイトル同時に作るわけにはいかなかったからね。

──5人で曲作りをする場合、役割分担はあるんですか?

祖堅 それはね、あえて決めないようにしています。それぞれに得意なことはあるんだけど、「これ、君が得意なのだからやってよ」みたいなことはあまりやらないようにしていて。基本的なポリシーとして、ゲームのサウンドクリエイターはなんでも作れなきゃいけないんですよ。でも得意なことばかりやらせてしまうと「これしかできません」というクリエイターになってしまう。だからわりとなんでもランダムに振るようにしています。

左から石川大樹、祖堅正慶、今村貴文。

左から石川大樹、祖堅正慶、今村貴文。

左から石川大樹、祖堅正慶、今村貴文。

左から石川大樹、祖堅正慶、今村貴文。

深夜2時に高らかに鳴り響く「赤い翼」

──パッチ6.1からはメインクエストにゴルベーザなど「FF4」をオマージュしたキャラクターが登場することもあり、タイトルのサウンドをアレンジした音源が数多く収録されています。「FF」ファンおなじみの楽曲をアレンジする難しさはありましたか?

石川 僕は「ゴルベーザ四天王とのバトル」というキャッチーで知名度の高い曲を担当(「ゴルベーザ四天王とのバトル ~禁断の記憶~」)させてもらうことになり、作業中はすごくプレッシャーを感じていました。僕も「FF4」をプレイしているので原曲の持つ雰囲気はわかります。それを大事にしなければならないという思いと、「FF14」の戦闘BGMとしてちゃんとハマるか、プレイしたときに爽快感があるか、それらのバランスはめちゃくちゃ検討しました。

「ファイナルファンタジーXIV」より。

「ファイナルファンタジーXIV」より。

祖堅 植松(伸夫)さんが作った音楽がすでにあるから、それをちゃんと今風の音にアレンジすれば、形になっちゃうんですよ。でも僕らはあくまで「FF14」のゲームサウンドとして適切なものを作らなきゃいけない。そこを石川が忘れてないのは心強いですね。

石川 祖堅さんは「バトル2」という鉄板曲のアレンジ「バトル2(FINAL FANTASY IV) ~暁月~」を担当されていましたよね。

祖堅 「バトル2」、俺だっけ?(音源を再生して確認する)ああ、そうだったそうだった。この曲はそこまでひねらずに、子供の頃の記憶に残っていた「バトル2」をそのまま派手にした感じかな。あの頃頭の中で鳴らしていた音楽はこれだよね、というのを再現しました。

──今村さんは「FF4」のラスボスでもあるゼロムス戦のBGMを担当しています。

「ファイナルファンタジーXIV」より。

「ファイナルファンタジーXIV」より。

今村 ゼロムス戦の前半「最後の闘い(FINAL FANTASY IV)~暁月~」ですね。この曲の発注をもらったとき、スケジュールが押しに押していて、4日ぐらいしか制作時間がなかったんですよ。僕にとっても“最後の戦い”になりそうな作業でした。

石川 かなり切羽詰まったタイミングでしたよね。

今村 本当に時間がないときでした。でもちょっと面白かったのが、リファレンスとしてもらったアレンジの方向性が原曲とはかけ離れたハードコア的なサウンドだったので「つまりこの曲はゴリゴリに変えていいんだな」ということだけは把握できて。こういうハードコアっぽい方向性は得意だし、ゴリゴリにやっていいんだったらできるなと思い、4日くらいで制作が終わりました。

──今のお話を聞いて「FF16」のサントラのときに話していたティフォン戦(「FF16」に登場するボスキャラクター)の音楽「Catacecaumene」を思い出しました。「Catacecaumene」も「FF16」の世界観とは少し離れた空気感の曲を“今村節”に仕上げた曲ですよね。

今村 まさにそうですね。「Catacecaumene」と同じで、「この曲はやっちゃってください」というオーダーだと受け止めたので、好き勝手にやらせてもらいました。

祖堅 最初に「これどうですか」って聴かせてもらったときはけっこうびっくりしたよ。めちゃくちゃやってきたなと思ったけど、そこに今村の成長を感じたし、ベースラインの動き方とかは僕も勉強になったな。

──ゼロムス戦は前半が「最後の戦い」で、後半に「赤い翼」が流れます。後半の「赤い翼」は祖堅さんのアレンジ(アレンジ曲名「赤い翼 ~暁月~」)です。

祖堅 「赤い翼」は「FF4」をプレイしてれば誰もが知っている象徴的な音楽だから、今村とは逆でそんなに脚色せずにシンプルに仕上げたかな。特に迷いもなく作業したから、それこそ2、3日で完成させた気がする。

祖堅正慶

祖堅正慶

──「赤い翼」のメロディの音はトランペットですよね?

祖堅 そうそう。このメロディ、最初は打ち込みで作ってたんだけど、バリっとした音がどうしても出せなくて、最終的には自分でトランペット吹いたんですよ。しかも家で。

今村 祖堅さんの家、トランペット吹けるんですね。

祖堅 防音とかされてないから、全然そんなことないです! トランペットって音がデカいから、さすがに近所迷惑なんじゃないかと思ってヒヤヒヤした。まだまろやかなラッパならいいけど、この曲はわりと堂々と吹くメロディだから、ちゃんと力を入れて吹かなきゃいけなくて。家での作業ってことは深夜2時くらいの話だし、全編吹かないと理想の音にはならなかったから2時間くらい吹きっぱなしだったんじゃないかな。ご近所の方には多分かなり迷惑をおかけしました。

ミソロジー・オブ・エオルゼアとパンデモニウムの音楽的コントラスト

──パッチ6.1から6.5では「ミソロジー・オブ・エオルゼア」と「万魔殿パンデモニウム」という対照的な空気感のレイド(ミッション)が交互に追加される仕様となっており、音楽面でもかなり対照的に作られている印象があります。

石川 そうですね。僕らチーム全体も2つのコントラストは共通認識として持っていました。簡単に言うと「ミソロジー・オブ・エオルゼア」はけっこう明るめで、「パンデモニウム」はダークでしっかり重ため。

今村 「パンデモニウム」の最初のレイドは6.0で実装されているから、基本的にはそこからの派生として当初のイメージを大事にして作っていたんですが……それも第3弾くらいになると、発注自体もだんだんはっちゃけてきて。

今村貴文

今村貴文

──それこそ「パンデモニウム零式:天獄編1層」のコキュートス戦のBGMはロック寄りで、これまでの「パンデモニウム」のBGMとは一線を画すアレンジですよね。

今村 はい。さっきの「最後の戦い」に似てますが、ちょっと原型がわからなくなるくらい方向性を変えたのが「One Amongst the Weary ~万魔殿パンデモニウム:天獄編~」でした。こういう発注は好きなので、個人的には楽しんで作れました。

祖堅 同じく今村が手がけた「Scream ~万魔殿パンデモニウム:煉獄編~」(以下「Scream」)はめっちゃロックで全然方向性違うもんね。「Scream」はバンドサウンドが映えるから、THE PRIMALS(祖堅を中心に2014年に結成された「FF14」オフィシャルバンド)でもやらせていただいて(笑)。

今村 ありがとうございます(笑)。「パンデモニウム」のBGMはシリーズを通して制作が楽しかったイメージがあります。

祖堅 2人に発注した曲のことは覚えているんだけど、自分が手がけた曲のことに関してはすっぽり記憶がなくなっちゃってるんですよね。俺、何やってたっけ?

石川 「零式4層(万魔殿パンデモニウム零式:煉獄編4層)」の「White Stone Black ~万魔殿パンデモニウム:煉獄編~」(以下「White Stone Black」)は東京ドームでも演奏していたじゃないですか(参照:THE PRIMALS、東京ドームに立つ!「FF14」ファンフェスで圧巻のライブ)。

「ファイナルファンタジーXIV」より。

「ファイナルファンタジーXIV」より。

祖堅 そっかそっか。THE PRIMALSが担当する曲はだいたい高難度のダンジョンで流れるから、コアなコンテンツプレイヤーじゃないと聴けなくて。あまり多用しちゃいけないなと思いつつ、この曲はTHE PRIMALSでやっちゃいました(笑)。「White Stone Black」にはアシエン(ゲーム内に登場する敵勢力)が登場するときに流れる「忍び寄る闇」のメロディを使っているんですよ。もちろん雰囲気はガラッと変えてますが、ちょっとサウンド方面でも匂わせたい要素が「パンデモニウム」にはあったので。

──第2弾の「零式4層(「万魔殿パンデモニウム零式:煉獄編4層」)」で流れる曲が「White Stone Black」で、第3弾の「零式4層(万魔殿パンデモニウム零式:天獄編4層)」では石川さんが編曲を担当した「Ultema The Perfect Body! ~暁月~」が流れます。

石川 原曲が大きな意味を持つ曲なので(原曲は「ファイナルファンタジータクティクス」のボス曲「Ultema The Perfect Body!」)、これをどうアレンジするかはなかなか大変でした。先ほど話したように、「パンデモニウム」というシリーズの“重さ”をかなり意識しつつ、今回は自分の経験を生かせるオーケストラ調のアレンジで仕上げました。

石川大樹

石川大樹

──「ミソロジー・オブ・エオルゼア」のほうで1曲触れるなら、タレイヤ戦の楽曲「熱情の奔流 ~華めく神域 タレイア~」かなと思いました。石川さんが作曲を担当した、ラテン調の中ボス曲です。

祖堅 この曲はすごくいいよね。

石川 発注の段階で「ラテン調のものを」というオーダーがあったんですが、ラテン系の音楽をそのまま小編成の楽器で構成してしまうと、中ボスとはいえボス曲として迫力が足りないかなという懸念点がありまして。そこはかなり祖堅さんと相談しながら詰めていきました。

「ファイナルファンタジーXIV」より。

「ファイナルファンタジーXIV」より。

祖堅 最初はちょっと盛りすぎちゃったんだよね。

石川 はい。オーケストラで壮大な感じにしてみたら、「もうちょっとライトに寄せたほうがいいんじゃない?」と助言をいただきまして。

祖堅 ボスもたくさんいるから、ずっと重くしていくと重さのインフレが止まらないのよ(笑)。ここは中ボスの曲だったから、もうちょっとみんなでワイワイやって楽しくなる、リズミカルな曲にしてみたらどうかなと思ったら、すごくいい具合に仕上げてくれました。