三月のパンタシア|大きな一歩を踏み出した“新しい夏”

みあ×ホリエアツシ対談

ものすごく熱いお方でした

──ホリエアツシさんと作った「夜光」、じんさん提供の「101(ワンオーワン)」からなる両A面シングルということで、ものすごく強力な1枚になりましたね。

最強のシングルができました! いいご縁がありまして。

──みあさんはもともと、じんさんの「カゲロウプロジェクト」のファンなんですか?

そうなんです。三月のパンタシアを始める前から、いちファンとして楽曲を聴いてきたので、今回ご一緒することが叶ってすごくうれしかったです。

──じんさんとのご面識はあったんですか?

お会いしたことはなかったです。まずテレビアニメ「魔法科高校の優等生」のオープニングテーマを担当させてもらえることが決まって、このアニメのバトルシーンに映えるカッコいい曲を作りたいなという思いがあって。頭の中でシーンをイメージしたときに、じんさんの音楽がきっとぴったりなんじゃないかなと思って、今回お声がけさせていただきました。

──じんさんと言えば、疾走感のある“ボカロック”のイメージがあると思います。三月のパンタシアにも「ソーダアイス」のような強いロックナンバーはありますが、やっぱりプロジェクトとしては淡くて儚い世界観のイメージがあって。じんさんの提供曲と聞いて、まず「新しい三月のパンタシアが見れそうだな」という期待感があったんですが、みあさん自身もそういったワクワク感はありましたか?

それはありました。楽曲を作ってもらう前に、まずリモートでじんさんと打ち合わせをさせてもらって。その中で「じんさんの持ち味であるギターロックのカッコよさがありつつ、ピアノの印象的なフレーズが入ってるとうれしいです」というお話をしたんです。それを受けてじんさんが「例えばこういう感じのピアノはどうですか?」と参考に聴かせてくださって。そのピアノの感じがカッコよくて、こういうテクニカルで難解なフレーズが楽曲に織り込まれていったらどういう曲になるんだろう?と、デモをもらう前からすごくワクワクしていました。

テレビアニメ「魔法科高校の優等生」キービジュアル ©2021 佐島 勤/森 夕/KADOKAWA/魔法科高校の優等生製作委員会

──実際にデモが上がってきて、印象としてはいかがでしたか?

もう本当にカッコよすぎて! すぐにじんさんに「ものすごくカッコよくて気に入っています!」とお伝えしました(笑)。そして実はイントロの部分、最初はもう少しバキバキで尖ったサウンドだったんですが、アニメサイドから「女の子が主人公のアニメなので、イントロにもうちょっと軽やかさがある方向性のバージョンも聴いてみたい」というご意見もあったので、最終的に少し変化を経て今の形になりました。

──打ち合わせをしてみて、じんさんはどういうお方でしたか?

ものすごく熱いお方でした。楽曲提供にあたって、三パシの過去のいろんな曲を聴いてくださっていて。あと、じんさんに提供してもらう曲はアニメのタイアップで、私の小説が軸になっているわけではないのに、私がこれまで書いてきた小説をほとんど読んでくださっていたんです。小説に対する感想もくださって。ものすごく真摯に三月のパンタシアに向き合って楽曲を制作してくださって、本当にうれしかったですし、ありがたかったです。

燃え上がるような“青さ”

──楽曲の内容的には、「魔法科高校の優等生」の主人公・司波深雪の歌ですよね。

はい。原作のマンガやシリーズに付随する作品を読んだときに、深雪は凛とした佇まいで、胸の内にすごく熱い信念を持っている女の子だなと思って。「お兄様を私が守りたい」「お兄様のそばにいて私が一番支えてあげたい」という強い気持ちを持っていて、その意思がまったくブレないんです。

──そういったことも、じんさんとお話ししたんでしょうか?

「101 / 夜光」初回限定盤ジャケット

そうですね。それとデモが完成するよりも前に、じんさんがまず「お花をモチーフにしたい」とおっしゃっていて。それで、私から具体的な花の名前を挙げたわけではないんですけど、「深雪には空に向かってまっすぐに伸びる凛とした花のようなイメージがあります」ともお伝えさせてもらいました。そのやりとりが面白くて、「楽曲を制作するときに最初にモチーフを決めたりすることが多いんですか?」とお聞きしたら、じんさんは「曲によってさまざまだけど、三月のパンタシアに書き下ろすという前提で曲をイメージしたときに、主人公が逆風の中を駆け抜けて、その中で花びらがバーッと散っているようなイメージがある」というお話をされていて。画が先に浮かぶんだ、とすごく印象に残っています。

──最近はみあさんがご自身で歌詞を書かれることが多いですが、じんさんの歌詞を見て、どういう印象を受けましたか?

サウンドはもちろん、歌詞にもじんさん節があるなと思っていて。例えば1番のBメロの「メイ・シンドローム」と「迷信」というところとか、韻の踏み方や言葉選びが独特ですよね。しかもメロとのハマリもすごくカッコよくて。これはやっぱり、じんさんのセンスだなと思うし、メロディとサウンドと歌詞がすべて一致したときに生まれるカッコよさを体感できる曲だなと思います。

──個人的にはサビの「フレアブルー」という言葉がとても印象的でした。凛とした主人公の中にある熱さをひと言でバチッと言い表しているというのと、前回のキーワードインタビューでも話に出たように、“ブルー”という色はもちろん、三月のパンタシアがこれまで音楽で表現してきた特別な色なわけで(参照:三月のパンタシア メジャーデビュー5周年&「幸福なわがまま」配信記念インタビュー)。

はい。

──ただ、今までの三月のパンタシアの“ブルー”って、青春の青さや憂鬱感の青さが多かったと思うんです。この前みあさんが「青にもいろんな濃度があって、いろんな情感をにじませることができる」とおっしゃっていた通り、こういった燃え上がるような熱い青さも三月のパンタシアの表現としてあるんだなと胸を衝かれました。

確かにこのような青さは自分でも新鮮ですね。しかも、赤い炎よりも青い炎のほうが温度的には熱いので、そういう意味も含めてサビの「フレアブルーに染まっていたんだ」という1行はエモーショナルなフレーズだなと思います。

──じんさんが過去の曲や小説を研究されていたということは、三パシのブルー感も意識して取り入れられた言葉なんですかね?

そうかもしれません。じんさんは、ブルーを意識したアルバム「ブルーポップは鳴りやまない」(2020年9月発売)も小説を含めてチェックしてくださっていたので。三月のパンタシアの芯がしっかりとありつつ、今までにない新しい曲になったんじゃないかなと思います。

──歌詞に「100」という数字がたくさん出てきますが、タイトルが「101」なのはどういう意味が込められてるんですか?

このタイトル、実は私が決めたんです。じんさんがこの曲のモチーフにしてくださったのが、ケンティフォリアという、花びらが100枚あるバラ科のお花なんです。なので「1/100の恋を 100倍して唱えて」というように「100」という数字がサビで繰り返し使われています。じんさんとしては100枚の花びらで途方もない花占いをしているというイメージがあるそうで、「ずっと答えが出なくて、永遠に堂々巡りをしているような感じ」とおっしゃっていて。そこから私が「100枚超えた先の101枚目で答えを出そう」という決意や、「その101枚目を探しに行こう」という意思を込めて、「101」というタイトルを提案させてもらいました。

風を切って走り抜けているような力強さ

──みあさんがこの曲で特に気に入っているポイントはどこでしょう?

いっぱいあるんですけど、私は特に2番のAメロが好きなんです。

──ラップ調のところですね。

はい。歌詞の言葉遊びも好きだし、メロディのラップっぽい感じもすごくカッコいい。でも、あそこが一番歌うのが難しいんです。息継ぎをするところがないくらい怒涛の展開になっているので(笑)。じんさんご本人が歌った仮歌のニュアンスを参考にしながらレコーディングで歌いました。ここはライブでフロアのお客さんが踊り狂えるところでもあると思いますね。アニメで流れるのは1番だけですが、2番もすごく気に入っているので、ぜひこの曲はフルサイズで聴いてほしいと心から思います。

──「101」に関しては、歌うのが今までで一番難しかったとTwitterでもおっしゃっていました。最初から最後まで展開が目まぐるしいですよね。

三パシの歴史の中でも、こんなに展開が目まぐるしくて、言葉が詰まってて、メロディも難しくて、演奏もテクニカルな曲はないと思います!

「101」ミュージックビデオより。

──全体的にはどういうことを意識しながら歌っていったんでしょうか?

「夜光」に関してはテクニックよりもダイナミックに歌うことを重視していたんですけど、「101」はリズムがずれたら全然カッコよくならない曲なので、技術的な部分を大切にしました。Aメロはクールな感じで歌って、Bメロで伸びやかになって、サビでさらに広がりを見せるという歌の展開を考えつつ、音に飲み込まれないように必死で歌いましたね。あとは最初にじんさんから「逆風の中を突っ走っている」というイメージを聞いていたので、風を切って走り抜けているような力強さと疾走感を歌に乗せようと、これまでのどの曲よりも意識していました。

──6月1日にデビュー5周年を迎えて、こういう振り切った新しい挑戦で6年目を踏み出すのは素敵な流れですね。

6月1日に開催したオンラインライブのタイトルが「もう一度、物語ははじまる」だったので、その流れで初の長編小説も含めてこういった新しいチャレンジができたのは、三月のパンタシアの物語として、我ながら美しいなと思います。

──アニメの主人公の深雪をイメージした楽曲というのは前提にありつつ、個人的には「逃げない足を蹴って 晴れない世界を走っていく」というフレーズに、デビュー5周年を経て力強く前に向かって走っていく、みあさんの姿も重なって。そういう意味でも、三月のパンタシアの6年目の幕開けにふさわしい曲なのではないかと。

音楽活動をしていく中で、もちろん楽しいこともたくさんあるけど、何もかも捨てて逃げ出したくなることもなくはないんです。それでも私はやっぱり音楽が好きだから、続けたいと思うし、怖くてもやっぱり走っていたい。この曲はそういう私の音楽活動をするうえでのマインドにどこか重なるところがありますね。