ありのまま書いている部分もあります
──カップリングの「パインドロップ」は、「夜行」が主題歌になっている長編小説「さよならの空はあの青い花の輝きとよく似ていた」のサイドストーリーをもとに作られた曲です。CDの初回限定盤のブックレットにサイドストーリー「パインアメは溶けきらない」が掲載されますが、サイドストーリーを書くという構想は、小説本編を書き始めた当初からあったんですか?
いや、なかったです。そもそも両A面シングルの表題の2曲が強いから、今回カップリングはなしになるかなとも思っていました。でも、三パシチームのみんなで話し合ったときに、これまでの三パシらしさがある楽曲がカップリングにあってもいいんじゃないかという話になって。今まで歌ってきた片思いの切なさや、“言いたくても言えない気持ち”をより色濃く描いた楽曲があるといいなと思ったんです。せっかく小説も出版させてもらうので、小説の物語と紐付けられたら面白いんじゃないかなと思い、サイドストーリーを軸にカップリング曲を作る形を提案させてもらって。その中で小説に出てくる高校生バンドのキーボディスト・唯ちゃんというキャラクターの気持ちを曲にしてみたいという気持ちがあったので、彼女にスポットを当ててサイドストーリーを書きました。結果的に言うと、楽曲としては、これまた新しいテイストの曲が完成しましたが(笑)。
──小説の本編の中でも、唯ちゃんは明るくてかわいくて、とても印象的な女の子でした。個人的には一番好きなキャラクターです。
幻冬舎の編集担当の方も「唯ちゃんが一番好きです」とおっしゃっていて。これまで1つの小説の中で主人公以外のいろんなキャラクターにガッツリとスポットを当てて書いたことはなかったので、「このキャラが好き」とか、そういう感想をもらえるとうれしいです。
──長編だときっと、主人公だけではなく1人ひとりの物語を描けるところに面白みがありますよね。これだけのボリュームのものを1冊書いた所感としてはいかがですか?
よく書いたなー!と思いますね(笑)。去年の夏ぐらいからプロットを考え始めて、実際に書き始めたのは9月くらいだったので、約10カ月くらいかけて小説を完成させていきました。こんなに長い時間をかけて1つの物語と向き合ったのは初めてで。書いていく中で主人公に感情移入していく部分もあって、主人公の周りの友人たちが、だんだん自分の本当の友人でもあるような感覚になってくるんですよね。
──新しい挑戦でありながら、みあさんが2018年の夏から小説を書いてきた積み重ねが1つ集大成として形になったような感じもあって。
そうですね。早く読んでもらいたいという楽しみな気持ちはありつつ、この本が世に出るということにすごく緊張します。自分の内面をストレートに書いた部分もあるので、それを見せる気恥ずかしさみたいなのもあって。
──主人公に自分の感情を重ねて書いた部分も大きいということですか?
はい。今回は主人公の女の子がバンドでボーカルをやっているということで、自分が音楽活動を始めてばかりの頃を振り返りながら書いたところはあります。慣れない中で必死に歌っていたこと、やりたいことがうまくいかなかったこと、どうしてうまくできないんだろうという葛藤……けっこうありのまま書いている部分もあるんです。
──なるほど。確かにみあさんが過去にインタビューで話していたことと、主人公の心音ちゃんの言葉が重なるところはありました。
そう言われるとすごく恥ずかしいですけど(笑)。意識しなくても、主人公には自分を投影しているところはありますね。
──ちなみに今回小説を書くにあたって、どこかに取材に行ったんでしょうか? 情景が目に浮かんでくるような描写が多かったので、モデルになっている場所があって、実際にみあさんが見たり感じたりしたことが取り入れられているのかなと。
そうなんです。小説では「潮野」という架空の町を描いているんですけど、長崎の海辺の町をモデルにしています。私は長崎ではないんですけど九州出身なので、地元に近しい町を舞台にした物語を書いてみたいなという気持ちが前から漠然とあって。長崎の中でもこのあたりの町が物語に合いそうだなという場所に取材しに行って、「主人公はたぶんこういう海辺でギターの練習をしてるんだろうな」とイメージしていきました。
1つの変化を遂げるような夏
──サイドストーリーの主人公・唯ちゃんがキーボディストということで、カップリングの「パインドロップ」は鍵盤がメインの曲になっていますね。いよわさんが作曲、みあさんが作詞を手がけています。
実はカップリングを作るにあたって、唯ちゃんがいつも持ち歩いている“パインドロップ”をテーマにコンペ形式でいろんな方から楽曲を提案していただいたんです。その中でも、いよわさんが書いてくださった曲は、暴れるような鍵盤が印象的で。私はパインドロップと言うと、「ピンクレモネード」(2018年11月発売のシングル表題曲)のように恋の甘酸っぱさを描いたかわいらしい楽曲になるのかなとイメージしていたんですけど、片思いの切なさから激しい面をすくい取って楽曲にできるんだなという新しい発見がありました。自分の発想にはなかったけど、こういう一面も確かに唯ちゃんだなと思って。
──この曲の歌詞では唯ちゃんの内に秘めた嫉妬や激しい恋心が描かれていますが、いよわさんの曲にインスパイアされて書いた部分が大きいということでしょうか?
そうですね。デモの時点で激しさが前面に出ていたので、唯ちゃんは小説の本編ではいつもニコニコしていて場を盛り上げてくれる明るいキャラクターだけど、実は胸の内では煮えたぎるような嫉妬心を抱いていたりするかもしれないなとか。自分が考えたキャラクターを、楽曲を通じてさらに掘り下げるというのは面白かったです。
──三月のパンタシアは季節感を大切にしながら曲を作っていて、代表曲の1つ「青春なんていらないわ」をはじめ、夏の曲がたくさんありますが、今年は“新しい三パシの夏”という感じがしますね。
確かに! さわやかで切ない夏という印象はあったかもしれないけど、ここまで青い炎が燃えたぎるような熱い夏は三パシ史上初なので。大きなチャレンジをして、1つの変化を遂げるような夏ですね。七月のパンタシアになってしまいそうなくらい(笑)。
──(笑)。
そのくらいいい作品ができたなという手応えを感じているので、このシングルで一緒にこの夏を体感してもらえたらうれしいなと思います。
──2021年、残りの半年はどういうふうに過ごしていきたいですか?
三パシの熱い夏があって、そこから年末までめちゃめちゃ駆け抜けていく予定です。今年は三パシがみんなのことを最後まで絶対楽しませるという自信しかないので、ついてきてもらえたらうれしいです!