2020年に結成20周年&メジャーデビュー15周年を迎えたPerfume。彼女たちは昨年発売のベストアルバム「Perfume The Best "P Cubed"」を携えて今年2月に初の4大ドームツアーを行ったが、折しも新型コロナウイルスが猛威をふるい始めた時期と重なり、ツアーファイナルになるはずだった東京・東京ドーム公演2日目は、政府に要請された方針に従って開場直前に急遽中止となってしまった。ライブ活動にストップがかかってしまった彼女たちは、アニバーサリーイヤーにも関わらず先の見えない日々を過ごすことに。しかしそんな状況においても3人の中には、長いキャリアに裏打ちされた強い自信があったという。
そんなアニバーサリーイヤーの締めくくりとなる9月にPerfumeは、東京ドーム公演初日の映像を収めたBlu-ray / DVD「Perfume 8th Tour 2020 "P Cubed" in Dome」と、ニューシングル「Time Warp」をリリースした。今回のインタビューでは「Time Warp」の制作についての話を聞きつつ、ドームツアー開催中からステイホーム期間中にかけてのそれぞれの心境を振り返ってもらった。
取材・文 / 橋本尚平
それはDVDの売り文句になりますね!
──2月に開催したドームツアー、選曲も演出もいたるところにアニバーサリー感があってとても楽しかったです。各会場を回ってみて、手応えは感じましたか?
のっち 私たちは“ベストアルバムのリリースライブ”というものが初めてだったし、アルバムの収録曲が多すぎるので、何からどうセットリストを組んでいいのかすごく迷って。全然決まらないから「ドームライブで聴きたい曲は?」っていうアンケートを取ったりしたんです。
──あ、決められないからアンケートを取ったんですか。
のっち みんなが何を聴きたいのか単純に気になったのもありますけどね。その結果を見て、やろうかどうか迷ってた曲が上位だったから「ああ、やっぱやろう」って覚悟を決めたりもして。かなり皆さんの声に助けられてできたライブでした。
──「上位に入って意外だな」という曲はありました?
のっち なんだっけ?
あ~ちゃん めっちゃあったじゃん(笑)。
かしゆか 「Hurly Burly」とか「edge」とか。
あ~ちゃん 「『edge』こんなにやってるのにまだ聴きたい?」「『エレクトロ・ワールド』ずっと歌ってるのにまだ上位なの?」「『シークレットシークレット』が今でもこんなに上位に来るんだ!」って。
──でも「edge」に関しては、反響を見る限り「これをやるんだったら絶対に観に行きたい」という人も少なからずいるような曲だと思いますよ。
かしゆか 生で聴いたことがないってことなのかな……?
あ~ちゃん 2014年の「SAYONARA 国立競技場FINAL WEEK『JAPAN NIGHT』」のときくらいまでは、「edge」の存在感ってそういう感じだったなって私たちも思ってたんですよ。パフォーマンスをするための設備や用意が必要で、なかなかやれない曲だったから。でも今はもう、LEDカーが入る会場であれば「edge」はできるから、前と比べたらフットワーク軽く、やりたいときにやれてるんですよね。だから私たちからすれば「もう観てるよね……? まだまだ観たいと思ってくれてるってこと……?」って意外に感じて。あのランキングはホントに驚きました。
──これまであまりライブでやってこなかった曲も入ってましたよね。例えば「Sweet Refrain」とか。
かしゆか あの子、セットリストに入れようとしてもいつも行き場がないから、“メドレーの主”みたいな存在になってるんです(笑)。今までもリクエストしてもらってたんですけど、ほかの曲とうまくハマらないのか、なかなか1曲フルでやる機会がなくて「前もメドレーの曲だったじゃん」みたいな(笑)。だから今回はもっとたっぷり歌いたいねってことで、メドレーの中のほかの曲よりは長めにやりました。「でもゴメン、メドレーなんだわ」って思いつつ(笑)。
──このライブの中で、特に印象深かったのはどこですか?
かしゆか 1個だけ挙げるなら、オープニングですね。
──2008年の初ツアー「Perfume First Tour 『GAME』」のオープニングを再現した演出ですね。
かしゆか 足音を鳴らして出てきて、ひと呼吸してから羽織っていた上着を脱ぎ捨てて……という過去のライブのオープニングをまったく同じように再現したのは、もし自分がファンだとしても胸アツな始まり方だったなと思いましたね。「GAME」はこれまでも何度もライブでやってきたけど、ああいう演出って周年のライブでないとできないと思うんです。2008年当時から応援してくれてる人は懐かしかったと思うし、それ以降にPerfumeを知って「GAME」ツアーを生で観られなかった人は「本物キター!」みたいな興奮があったんじゃないかなって思ってます(笑)。
あ~ちゃん 親たちは最初「GAME」ツアーの再現だって気付かなかったらしくて「嘘でしょ?」って言ったんですけど、よく考えたら10年以上前のライブの演出って普通覚えてないですよね。むしろわかった人はすごいなと思う。あのときとは会場の広さも、見えている景色も、空気すらも全然違うので、今回のオープニングを見てすぐ当時の思い出と重ねられたのは熱烈なファンの人だろうなって思います。もちろん私は3人で歩数を合わせてステージに出て行ったあのときのことは思い出に残ってますけど、それは私たちが踊ってた側だからで。
──まあ、こういうのは初見ではわからなくていいんだと思いますよ。例えば「『ポリリズム』の間奏で花火が打ち上がるのは初の東京ドーム公演と同じ」とかもそうですけど、「実はこの演出には元ネタがあるんですよ」ということを豆知識的に聞いて、「へー!」と思って楽しめるファンもいると思うし。
あ~ちゃん あーそうか、確かに。それはDVDの売り文句になりますね!
のっち わはは(笑)。いいね! それいただいた!
今、Perfumeは変わるときなのかなと思ってます
──このドームツアーが開催されたのは、ちょうど新型コロナウイルスによって世界が変わっていく狭間の時期でした。ツアーファイナルになる予定だった東京ドーム2DAYSの2日目は残念ながら開場直前に中止になってしまったわけですが、それ以前の大阪や名古屋、福岡での公演では、皆さんはどんな思いを抱えていたんでしょうか。
のっち 感染が拡大する様子はずっと気にしてましたね。1日ごとに刻々と状況が変化して、どうやって対策すればいいのかという情報も次々に新しくなっていたけど、それが正しいか正しくないかはまだわからなかったので、1週間経って次のライブ会場に行くたびにまた新しい対策を練っていました。でも、中止するかしないかの話をしたのは東京ドームからですね。東京ドームの前日に会社に偉い人たちと集まって、1人ひとりどんな考えで、どんな気持ちでいるのかたくさん話し合いました。本当にいろんな意見がありましたが、長い話し合いの結果、私たちは開催を決断しました。
かしゆか 中止が決まったのは2日目のリハーサルの真っ只中でした。あとちょっとで開場で、もうこのままライブができると思ってたのに、いつもなら絶対にステージに上がらないマネージャーさんがものすごく焦って上がってきたので、「あ、これはただごとじゃない。何か状況が変わったんだな」というのを察しました。
──中止と聞いたときはやっぱりショックでしたよね。
あ~ちゃん めちゃくちゃショックでした。思い出すとなんかこう、いろんな感情があふれてこみ上げてきちゃうんですけど……誰も悪くないし、その悔しさはどこにもぶつけることができない。ぶつける必要もない。それがわかってるからこそ「この気持ちをどうしたらいいんだろう?」って苦しくて。ここまでのやりきれない思いをしたのは初めてでしたね。やっぱりすっごく楽しみにしてたし、今でもとても心残りがあります。
──僕は東京ドーム公演の初日を観ることができたんですが、2日目が中止になったというニュースを見たときに、初日がとてもよかっただけにすごく残念だなって感じたんですよね。もちろん仕方ないことではあったにしろ、非常にもったいないなと。
あ~ちゃん そう言ってもらえるのはありがたいです。
──だから今回こうやってBlu-rayやDVDになって、2日目に参加する予定だった人を含めて多くの人たちに観てもらえるようになったのは、本当によかったなと思っていて。初日の様子をしっかり撮影していたようで安心しました。
あ~ちゃん 初日はもともと撮影をするつもりではなかったので、予備用のカメラしか回してないんです。だからいつもと比べてカメラの台数がすごく少なくて、少ししかない映像の中で一生懸命作ってくれたんですけど、でもそれによって、今までにないくらい素直な作品になったと思っていて。私たちも長くやってるのに、「撮影しますよ」と言われると緊張して必要以上の力が入ってしまったり、普段は考えないようなことをついつい考えてしまうものなんです。「普段通りのライブができなくなるって、プロとしてどうなの?」という自覚はあるので、収録日のライブではそういう自分と常に向き合って努力してるんですけど、この日は撮られてると思わずにライブをやってるから、「これが普段のPerfumeのライブ」っていう映像になったなと思います。
──確かにそうかもしれません。
あ~ちゃん ライブ終わりのMCにしても、いつもそのとき思った素直な気持ちを話してるんですけど、この日も、かしゆかものっちもスピーチが素晴らしくて。「これがPerfumeだ」と自信を持って言える映像が撮れたから、この日をDVDにしてもOKにできたんです。やっぱり、自分たちがこれまで経験を重ねてきたことの自信がものを言ったなと思いますね。
──ちなみにMCって、あらかじめ「この日はこういうことをしゃべろう」というのをある程度考えておくものなんですか?
かしゆか 考えてないですね。ライブ後半の曲の終わりかけで「今日はどんなだったかなー?」って振り返って、そのことを話してます。でもさすがに「東京ドームの2日目は収録が入るから」っていうのはちょっと頭にありました。ツアーの最後の最後でもあるので、初日よりも2日目に、より思いを伝えたいなって。同じことをまったく同じように2回は言えないし、初日にツアー全体を総括しちゃうと話すことなくなりますからね(笑)。
──MCと言えば、今回のDVD / Blu-rayにも収録されていますが、東京ドーム公演の初日にあ~ちゃんさんは「2020年はPerfumeが目指していた年」と言っていましたよね。これは「結成20周年を迎えることがPerfumeにとって目標だった」ということですか?
あ~ちゃん そうですね……自分たちが長く活動を続ける中で、その時々の流行とは違う場所に行くことになれば、人気はもちろん下火になっていくでしょうし、それが目に見えるいろんな数字に表れてくるだろうと思うんです。そういうことが、応援してくれるファンの人たちを悲しませることになってしまうかもしれないという不安があって。自分たちはどんなことでも乗り越えられる自信があるし、求めてくれるならやり続けたいって思いがありますけど、ファンの人を悲しませるのにつながることは選択したくない。そういう意味でも、いつまでやれるかわからないというのは本当に思っていて。
──なるほど。
あ~ちゃん だけど2020年になって、母国でオリンピックが開催されるという、自分が生きてる中で今後もうないかもしれない年に、まだ歌手を続けていて、自分が一番誇らしい状態でいられているのが、本当に奇跡みたいなことだなと思ったんです。だから……目指してました。東京オリンピックに関わることを。でもそれは「立候補したい」というのとはちょっと違って「常に自分たちがカッコいいと思えるものをやり続けてきた私たちを、果たして選んでいただけるんだろうか?」って試してる感覚でした。
──オリンピックが延期になってしまったのは残念でしたね。
あ~ちゃん だから今、Perfumeは変わるときなのかなと思ってます。次の夢や目標を新しく持って、それに向けてチャレンジし始めるときなんじゃないかって。
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キャリア20年は伊達じゃない