ポップな楽曲に隠した攻撃性
──通常盤の2曲目に収録されている「Dayload_Run_Letter」についても聞かせてください。力強いロックナンバーの「三原色」とは対照的なポップなアプローチですね。
とにかくポップにしたいと思ったんです。今までの曲を聴き直す中で、僕が好きなのはミドルテンポの楽曲だと気付いて。「花束」(アルバム「Home Electronics」収録曲)のような、キュンと切なくなるような。この曲もそういうテイストを目指しました。
──歌詞も「三原色」と違って抽象的ですね。
この曲はポップだけど、実は汚い言葉を使わずに中指を立てるような内容の楽曲なんです。ミニアルバム「PELICAN FANCLUB」(2015年8月発売)でも、“歌詞はネガティブだけど曲調はすごく明るい”とか、音と言葉の温度を真逆にしてみることはよくあったんですが、最近やってなかったなと思って。
──そうなんですか。苦しみの中にいる人を救い出そうとしてる曲なのかなと思っていたんですけど、その話を聞くと少し怖い曲のようにも聴こえます。
中指を立てると言っても他人に対してではなく、自分に宛てた手紙なんですよね。学生の頃に何かあるとノートに言葉を書き殴っていたんですが、それをそのまま歌詞に落としたような曲です。どう捉えるかは皆さんに委ねるんですけど、いろいろ感じてみてほしいし、みんなの感想を聞きたいです。
3人の色で彩られた「記憶について」
──通常盤、期間限定盤に共通して、「OK BALLADE」(2016年6月発売のミニアルバム)の収録曲「記憶について」の新録バージョンが収録されています。
僕らのライブでは毎回と言っていいほど歌ってきた曲で、すごく大事な曲なんですが、もともと赤い色のイメージだったのが、どんどん変わってきていて。今は透明なイメージなんです。たぶんライブで最後に演奏していたから、全部の色が混ざり合ったような感覚になっているんですよね。光の三原色(赤、緑、青)が全部混ざり合うと透明になるじゃないですか。
──なるほど。曲の構成は変わらないですけど、新録バージョンは音の質感がかなりクリアですよね。
使っている音色は変わっていますね。昔と共通しているのは、トレモロアーム奏法です。メジャーデビュー以降の「Telepath Telepath」とか「ベートーヴェンのホワイトノイズ」でも使っているんですけど、My Bloody Valentineのケヴィン・シールズへのリスペクトで。
──あと、ボーカルの力強さも増しているなと。
明らかに僕の技術が上がっているんですよ(笑)。それで全部新録したいなと思っちゃうんですけど、当時のパッケージのほうがいい部分もありますからね。
──「OK BALLADE」 の中で聴くなら当時の音源のほうがいいだろうし、「三原色」の中で聴くなら今回の音源のほうが合っているんじゃないかと思います。
そうですね。前のほうがよかったと思う人もいるだろうけど、今回は「三原色」があっての「記憶について」になっていて、全然別物だから。実はこの曲を収録することによってシングルの中にメッセージを隠していて、通常盤の楽曲を収録順に読むと、「三原色で彩られた『記憶について』」になるんですよ。僕ら3人という“三原色”によって楽曲の色が変わったという意味合いを込めたかったんです。
──そんな仕掛けもあったんですね。エンドウさんは「記憶について」のリリース当時、「この曲の歌詞で初めて裸になれた」という話をしていました。
ああ、覚えています。当時はメンバーに歌詞を見せるとき、ドレスを着せるような、化粧をするような感じで、飾った言葉を見せていたんですよ。でも、それじゃメンバーに刺さらなかったんです。それで困り果てて、原文をそのまま見せたのが「記憶について」だったんですよね。この曲の前に発表した「Dali」という曲は本心を包み隠した二面性のある曲だったから、余計にこんな裸になってもいいのかという違和感があって、当初は「このまま出すのは恥ずかしいからイヤだ」と言っていたんですよ。
──でも、今は「三原色」のように自分の心境を包み隠さずにストレートに書くようにもなっているし、その原点がこの「記憶について」にあったと思うと意義深いなと思います。
心境を包み隠さずに書くかどうかは今も曲によって違いますけどね。当時はそうするしかなかったけど、今は選択肢の1つになっています。こうして考えると、デビューしてからいろいろな変化があったなって思いますね。このインタビューはぜひ読んでほしいので、記事のタイトルは「このインタビューを読んでほしい」にしてください(笑)。
それぞれが思い描く色を混ぜ合わせて
──「三原色」はメジャーデビュー後、初のシングルにもなりますけど、かなり納得のいく1枚になったんじゃないですか?
感慨深いですね。僕らはこれまでコンセプトをしっかり定めて作品を作ってきていて「シングルにコンセプトが必要なのか?」という迷いもあったんですが、今回も一貫性を持たせることができてよかったです。「三原色」の歌詞でも書いたけど、このシングルを作ったことでまた新しい衝動が生まれていて。例えば次のシングルを出すとしたら今度はまったくコンセプトのないものにしてみようとか、頭の中で巡るものがあるんです。
──このシングルを引っさげて来年1月から開催される東名阪ツアー「PELICAN FANCLUB TOUR 2020 “三原色”」もコンセプトがユニークですね。
東名阪で三原色の“レッド”“ブルー”“イエロー”というサブタイトルを付けて、それぞれの色に合わせたセットリストでライブをします。もちろん共通する曲もあるんですけど、レッドの日は僕が思うレッドの曲をやる。でも僕が思うレッドとお客さんが思うレッドは違うと思うので、それが混ざったときに、どういう色に感じるのかが楽しみで。すごく実験的な試みですね。
──今日はいろいろ話を聞かせてもらいましたけど、今のPELICAN FANCLUBは目の前にあることを楽しみながら音楽と向き合っている感じがします。とても充実している。
うん、楽しいです。メジャーデビューしてから見せたいものは、僕らの中で明確な絵として浮かび上がってきていて、それにリンクする楽曲も作っているので、近々その絵を見せられるかなと思います。PELICAN FANCLUBの世界をたくさんの人に伝える方法をこれからも考えていくので、楽しみにしていてほしいです。
ライブ情報
- PELICAN FANCLUB TOUR 2020 “三原色”
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- “イエロー”2020年1月15日(水)愛知県 ell.SIZE
- “レッド”2020年1月16日(木)大阪府 CONPASS
- “ブルー”2020年1月23日(木)東京都 WALL&WALL