PELICAN FANCLUBが初のシングル「三原色」を11月27日にリリースする。
このシングルの表題曲は、現在放送中のテレビアニメ「Dr.STONE」のオープニングテーマで、バンドにとってはこれが初のアニメタイアップ。音楽ナタリーではバンドのフロントマンであるエンドウアンリ(Vo, G)にインタビューを行い、念願だったというアニメ主題歌にかける意気込みや「三原色」というタイトルに込めた思いなどを掘り下げた。
取材・文 / 秦理絵 ライブ写真撮影 / 高田充
アニメ主題歌への憧れ
──「三原色」というタイトルを聞いたとき、以前エンドウさんが、「ライブの会場ごとにフロアの色が違う」と話していたのを思い出しました。
ああ、話していましたね。インディーズ時代から行っている“ゼロ距離ライブ”(360°オーディエンスに囲まれたフロアライブ)でもフロアの色が変化していくように感じることがあります。
──ほかにも物事に対して、色を感じることは多いですか?
全部に色がありますね。言葉とか数字とか。例えばゼロはピンクだったり。自分の中の記憶も色と結び付いているんですよ。とは言え青春は“青い春”と書くし、みんな同じようにこの感覚はあると思います。うちのメンバーはみんなありますし。いろいろな色を混ぜ合わせながら歩いてきた僕らの軌跡を歌ったのが「三原色」なんです。
──なるほど。楽曲の制作はどういうところから着手したんですか?
“PELICAN FANCLUBらしさとはなんなのか?”ということを考えながら制作に向かっていきました。改めて自分たちの過去の作品を聴き直したんですよ。この時期にはこういう音楽の影響があって、こういう歌詞の書き方をしているな……とか。そういう僕らの変遷をサウンド面に落とし込みたかったから、情報量の多い作品になっていると思います。
──確かにPELICAN FANCLUBの楽曲は、ドリームポップとかシューゲイザー、グランジあたりの海外のオルタナティブなロックバンドの影響を受けて、時期ごとに変化している印象があります。改めてまとめて聴き直したときに、どんなことを思いましたか?
変化する中でもブレないものがあるなと思いました。世間で言う“王道”がフォーマットとして貫かれているというか。ざっくり言うと歌心やポピュラリティみたいなものがある。それはやっぱり、僕がバンドをやるきっかけの1つがアニメの主題歌だったからなんだと思います。小学生のときに観たアニメの主題歌がきっかけでBUMP OF CHICKENやASIAN KUNG-FU GENERATIONなどのバンドに憧れるようになったんですよ。僕らも彼らと同じように、聴いた人の心を動かすきっかけになりたいと思ったんです。だから今回タイアップが決まったときはうれしかったですね。僕、メジャーデビューを発表したときのライブでも言ってたんですよ。
──「いつかアニメの主題歌をやりたい」と言ってましたね。
ニヤニヤしながら言いました(笑)。小さいときからアニメをよく観ていて、自分たちの曲がアニメと一緒に流れるのが本当に夢だったんです。
──歌詞に「想像していたより遥かに超えていた」とありますけど、これは今の心境ですか?
そうです。本当に歌詞そのままなんです。いつかタイアップをやりたいとは思っていたけど、まさかメジャーデビューから1年後にこのタイアップが決まると思ってなかったし。
音にも歌詞にもこだわって自信が持てる曲ができた
──アニメ主題歌に決まったことで、これまで以上に“王道”の部分を意識したんでしょうか?
自分たちが王道と言われるものになりたいという考えはないんですよね。むしろ王道の中に違和感を覚えてもらいたい。具体的に言えば、意図的に浮遊感を表現していて、自分たちがカッコいいと思う曲を作るために最善を尽くしました。ほかにも1番のサビは拍子の頭で入っているけど、最後のサビでは食い気味に入ることで曲に緩急が付くようにしていたり、細かいところにもこだわっていて、自信を持てる曲ができましたね。
──「三原色」は作曲のクレジットが“PELICAN FANCLUB”になっていますが、メンバー全員で曲を作り上げたということですか?
セッションで曲を作り始めていって、そこに僕が歌詞を付けるという流れでした。最近はメンバーの演奏にもゾクッとするような変態的な要素を感じるんですよ。
──期間生産限定盤に収録されているオフボーカルのバージョンを聴くと、それぞれのプレイヤーとしての個性を感じられますね。
ああ、そうですよね。今回はドラムもベースもキメを細かく入れているので、かなり聴きどころはあると思います。ただメンバーの演奏以上に僕のギターを聴いてほしいですね(笑)。
自分たちの作品が前に進む原動力に
──音のこだわりと同じぐらい、歌詞の言葉選びにも一語一句こだわりを感じます。
はい。今回はいつにも増して歌詞を大事にしました。基本的になんとなく伝わればいいというか、「解釈は委ねます」というスタンスなんですけど、この曲は言いたいことを軸に置いて書いたんです。歌詞カードを見ながら聴くと、より伝わると思います。
──歌詞を書くうえで、アニメの原作も読んだんですか?
読みました。でもそこに合わせるというより、そのアイデアをもらう感じでしたね。原作ファンの方も、僕らのファンも楽しめるようにっていう言葉遊びで、歌詞に足し算とか割り算とか四則演算が入っているんですよ。
──「Dr.STONE」の主人公が科学少年ということからインスピレーションが湧いたんですね。
そうです。僕も理系の人間だったので、そういうちょっと懐かしさを感じるような要素も入れつつ、“混ぜる”というテーマを軸にしていて。1番の「青と黄色が混ざり合って できた緑には花を」や2番の「意図と思想が絡み合って できた『意志』には日々を」とか、化学式のような歌詞を書きました。
──なるほど。
そういう要素を入れつつ、この曲で現時点でのバンドの意志を表したんです。スリーピースバンドとして3人の個性を混ぜて、1つのものにしていくということを歌いたかった。そして、ほかの何かから受けた衝動でバンドを始めた僕らが、今は自分たちが作った過去の作品から衝動をもらっているということを最後に歌っています。
──「衝動に変わる驚きを」というところですね。
はい、そこがすごく重要で。これまでは何かと比較することで相対的に自信を持とうとしていたけど、今は自分たちが作ったものに対して絶対的な自信を持てているということを歌いたかったんです。自分たちで自分たちを動かすガソリンを生み出すことができている。
──その原動力でバンドが未来へと進んでいくことを歌っていますよね。
はい。僕は音楽を聴いているときにイヤなことを忘れられることが多いから、自分も聴く人の背中を押したいという気持ちもあるんですよね。でも、ただ前向きなことを言いたいわけじゃなくて。希望にも絶望にも傾いてない楽曲だから、ポジティブに捉える人もいればネガティブに感じる人もいると思うし、むしろそういうふうに受け取ってほしい。気分が沈んだときは、とことん沈ませてあげたいし、楽しいときにはとことん楽しんでもらいたい。そういう歌を歌っています。
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ポップな楽曲に隠した攻撃性