谷口鮪(KANA-BOON)×エンドウアンリ(PELICAN FANCLUB)×南川達馬(アニメ「炎炎ノ消防隊 弐ノ章」監督)|「炎炎ノ消防隊」への愛が炸裂する“解放”と“爆発”の主題歌

テレビアニメ「炎炎ノ消防隊 弐ノ章」第2クールの主題歌を手がけているKANA-BOONとPELICAN FANCLUB。KANA-BOONのオープニング主題歌「Torch of Liberty」は、“解放”をテーマにしたアッパーなロックチューン。ポップなメロディ、そして「黙って痛みに耐えるなんて時代はもう 僕らで最後さ 君は自由になれるから」という現代社会ともリンクするような歌詞が印象的な楽曲になっている。一方PELICAN FANCLUBのエンディング主題歌「ディザイア」は“爆発”をテーマに作られた楽曲。この曲は、PELICAN FANCLUBのレーベルの先輩であり、プライベートでも親交のあるKANA-BOONの谷口鮪(Vo, G)が初めてプロデュースを手がけている。

音楽ナタリーではKANA-BOONの谷口、PELICAN FANCLUBのエンドウアンリ(Vo, G)、「炎炎ノ消防隊 弐ノ章」の監督・南川達馬の鼎談をセッティング。もともと「炎炎ノ消防隊」のファンだったという谷口とエンドウが、南川監督を前にアニメの魅力や楽曲に込めた思いを熱弁している。音楽、アニメと異なるジャンルで活動しながらも、クリエイターとして重なる部分がある3人のクロストークを楽しんでほしい。

取材・文 / 森朋之 撮影 / 草場雄介

“社会の縮図”みたいなところはあります

──谷口さんとエンドウアンリさんはもともと「炎炎ノ消防隊」のファンだったとか。

テレビアニメ「炎炎ノ消防隊 弐ノ章」キービジュアル

谷口鮪(Vo, G / KANA-BOON) はい。原作も読んでいたんですけど、消防官を主人公にしたバトルファンタジーという形がまず新しいし、今までになかった作品だなと。普通の人が“焔ビト”(人体が発火し、火災を起こす現象)になって、火事を起こしたり、人を傷付けたりする……つまり悪になってしまうわけですけど、消防官たちは単に悪を成敗するわけではなくて、焔ビトを救おうとする。人間だったときの魂を解放するという設定も素敵ですよね。勧善懲悪ではなく、自分たちが生きている世界にも通じているし、学ぶことが多い作品だと思います。

エンドウアンリ(Vo, G / PELICAN FANCLUB) 僕自身が目を背けていた部分が詰め込まれている作品で、のめり込みました。町の人たちは、いつ自分が焔ビトになるかわからなくて、怯えながら暮らしていて。それは「自分がいつ死ぬかわからない」という恐怖と同じだと思うんですよね。普段の生活の中で感じる恐怖を作品に昇華しているというか。

──「いつ自分の身に降りかかってくるかわからない」というのは、新型コロナウイルスが世界に広がっていった2020年の現実にもつながっていますよね。

南川達馬 社会の縮図みたいなところは少しありますね。どんなファンタジーでもそうですが、「もしかしたら起こり得るかもしれない」というところが含まれているんですよ。例えば人体が発火するという現象は「X-ファイル」などでも扱われているし、「本当かもしれない」という刷り込みを突いていくのも物語を描く1つの方法なので。本当にありそうなことと、「これは完全にファンタジーだな」という部分を組み合わせているというか。“人間を描く”という根本は変わらないんですけどね。

エンドウ 他人事だと思えないからこそ、怖くて面白いんでしょうね。アニメの映像のことで言えば、「炎炎ノ消防隊」は戦闘シーンの演出やエフェクトがすごくキャッチーで。僕が好きな特撮ヒーローものと重なるところも多くて、僕のツボなんですよ。自分の感情のメーターを120%くらいまでブーストしてくれる。弐ノ章の1話のオープニングは鳥肌モノでしたね。

南川 ありがとうございます。こうやって直接褒めてもらえることってほとんどないので、うれしいです。「炎炎ノ消防隊」は原作がすごく面白いし、読者からのアニメへの期待値が高かったんですよ。それを損なう可能性もあったし、相当ハードルが高くて。褒めていただけるとホッとしますね(笑)。

左から谷口鮪(Vo, G / KANA-BOON)、エンドウアンリ(Vo, G / PELICAN FANCLUB)、南川達馬。

──「炎炎ノ消防隊」は作画のクオリティに対する評価も高いですよね。

テレビアニメ「炎炎ノ消防隊 弐ノ章」オープニング映像より。

南川 それはもうスタッフのおかげですね。アニメーターもすごく優秀で、「交響詩篇エウレカセブン」など作画に定評がある作品でメインを張っていた方も参加してくれていて。もちろん僕からも作画に関する提案はするんですけど、それを高いクオリティで上げてくれることが多いんです。例えば弐ノ章の1話には原作にはないオリジナルのストーリーが含まれているんですけど、自由にやれる幅が広い分、こちらの提案に対して「これはどう?」という感じで戻ってきて。そのやり取りの中で、どんどんよくなっているというか。

谷口 かなり自由さがあるんですね。

南川 そうですね。「ここでキックして、このタイミングで倒れる」というシークエンスがあったとして、“キック”と“倒れる”の間はわりと自由にやれる。そこに考える余地があるんです。演出に関してもアニメーターのイマジネーションによって、「こういうシーンを入れたらどうでしょう?」というアイデアが出てくることもあるし、それによってどんどん表現が変化して。「炎炎ノ消防隊」には「ここは任せてください」と言える現場の強さがあるし、スタッフがこちらのプランを上回ってくれることによって、あの映像ができているんです。もちろん時間やコストの制限があるから、どこまでやるかという判断は必要なんですけどね。

──南川さんが用意したプランがあって、スタッフワークによってさらに発展して……そのプロセスはちょっとバンドに似てますね。

谷口 セッションしてる感じですかね。僕とエンドウはそれぞれのバンドで監督的な立場だと思うんですけど、メンバーに任せることで、イレギュラーなフレーズが出てくることもあって。自分だけで決めるんじゃなくて、そういうやり方のほうがいい瞬間もありますからね。

エンドウ うん。僕もデモ音源は作りますけど、「自由に変えていい」ってメンバーに渡すんです。そこで予想以上のものが出てくれば、それを採用するので。

そろそろスカッとしたい

──KANA-BOONのオープニング主題歌「Torch of Liberty」もPELICAN FANCLUBのエンディング主題歌「ディザイア」も、熱量の高いロックチューンになっていますね。

南川 素晴らしい曲を作っていただいて、本当にうれしいです。オープニング、エンディングはアニメの最初と最後を飾るので、当然すごく重要なんですよ。オープニングとエンディングの映像の中で作品全体のイメージや先の展開を表現しているし、観てくださる人も主題歌と一緒に作品を覚えていると思うので。

谷口鮪(Vo, G / KANA-BOON)

谷口 そうですよね。特に「炎炎ノ消防隊」は主題歌の映像にすごく気合いを入れている印象があったので、音楽を作る側としてもうれしくて。アニメに対して失礼のないように、スタッフの皆さんにも喜んでもらえるような曲にしたいと思ってました。「ロック色強めで」というオーダーがあったんですけど、僕ら自身のタイミングとしても、そろそろスカッとしたい気分だったんですよ。前作の「スターマーカー」がポップ性の高い曲だったから、次はギターがギャンギャン鳴ってて、フレーズがはっちゃけているような、ハイテンションな曲をやりたくて。

南川 そうだったんですね!

谷口 あと、「Torch of Liberty」の制作に入った3月頃は、ツアーの準備も進めていたんです。メンバー全員がライブモードだったから、そのテンションを持ち込めるような曲にしたかったんですよね。

──その後、ツアーがやれない状況になってしまって……。

谷口 はい。「Torch of Liberty」の歌詞のテーマは“解放”なんです。もちろん「炎炎ノ消防隊」から着想を得たんですけど、歌詞を書いている時期にコロナ禍になって、全然外出できなくて。ツアーも延期になったし、すごく過酷な状況だったんです。僕らだけではなくて、普段ライブに来てくれていた人たちの心情も心配でした。そういう人たちにとって、ライブは必要不可欠なものだと思うので。“抑圧からの解放”という「Torch of Liberty」のテーマは、すごくリアルだったんですよね。

──現実の社会の雰囲気ともつながっていると。

谷口 そうですね。歌詞の中には「Black Lives Matter」に対して感じていたこと、SNS社会に対して思うことも含まれていて。いろんなテーマを反映した曲になったと思います。

南川 なのに、すごくキャッチーな曲ですよね。

谷口 キャッチーでアッパーな曲になったと思います。その中で言いたいことをちゃんと言っている感じが、今までとは違うところかなと。しっかりと信念を込められたことで、バンドとしてもさらにたくましくなれたと思いますね。オープニングの映像もめちゃくちゃカッコよかったです。

南川 オープニング映像を作ったスタッフも、「映像のイメージが浮かびやすい」と言ってましたね。細かく打ち合わせていたわけではないんだけど、自然と同じ方向を向いていたというか。

谷口 曲を作っていたときに、「こういう映像が観たいな」とイメージしていたんですよ。オープニング映像の後半にそういうシーンが入っていて、すごくうれしかったです。視聴者の皆さんにも「このシーンのことかな?」って想像してもらいたいですね。