音楽ナタリー Power Push - パスピエ

“永すぎた春”を経て、次のステップへ

バンドがどれだけバンドっぽくない音楽を作れるか

──先ほど成田さんは「パスピエが存在している意味を定着させたい」と言っていましたが、メジャーデビューした頃から比べると、ものすごくオリジナルな存在感のあるバンドになってきていると思いますよ。

成田 そうですか(笑)。だとしたら、これからも誰にも真似のできないことだけをやっていきたいと思いますね。

──成田さんにとって、今、音楽を作る上での刺激というと、何が一番大きいですか?

成田 うーん。去年までは、わりと自分の中で“和”というのがテーマで、オリエンタルなメロディを意識して曲を作ることもあったんです。でも今はもう何をやってもいいかなって思っていて。最近は、今のところパスピエの音楽にはまったくない要素ですけど、ヒップホップをよく聴いていたり。あと、ずっと敬遠して聴いてなかった、自分の出自であるクラシックをよく聴いてみたり。そういうものから、何かパスピエの音楽にフィードバックしていけたら面白いなって思ってます。

──1人の音楽家として、今のバンド編成を超えたものを作りたいと思ったりすることはないんですか?

成田 それはないです。バンドであるというのが、パスピエの前提なので。僕がいつも考えているのはむしろ、バンドというフォーマットで、どれだけバンドっぽくない音楽を作れるかってことですから。

大胡田なつき(Vo)

──大胡田さんがアートワークや詞を作る上で、一番刺激になっているものはなんですか?

大胡田 相変わらず、マンガをよく読んでます(笑)。ちょっと前までは「グラップラー刃牙」とか「賭博黙示録カイジ」とか、そういう不朽の名作みたいな大長編を夢中で読んでて。

──あ、少女マンガ以外も読むんですね(笑)。

大胡田 読みます。で、最近ハマってよく読んでいるのは、インターネットで連載されているWebマンガ。単行本とかにもなってない、若い方の作品をマメにチェックしています。同じものを作っている人間として、共感したり、勇気付けられたりすることも多いですね。

中堅バンドとして大事にしていること

──音楽では、若いバンドから刺激を受けるようなことはないですか?

成田 これは勝手な想像ですけど、「今この瞬間を楽しもう!」みたいなスタンスの新人バンドが今は多い印象があって。僕らって、その真逆でずっとやってきたんですよ。5年後、10年後にどういう活動をしていて、どういう音楽を作っていたいというビジョンがあって、そこから逆算して、「今はこういう曲を作ろう」みたいにやってきたところがあるから。見てるビジョンの違いに戸惑うことはありますね。僕ら中堅バンドとしては。

──言わないようにしてたんですけど、ついに出ちゃいましたね、「僕ら中堅バンド」というフレーズが(笑)。

左から成田ハネダ(Key)、大胡田なつき(Vo)。

成田 あはは(笑)。僕ら中堅バンドは、そういう新しいバンドたちにどうやって立ち向かっていけばいいのかって、考えることもありますね。今になっても、どんなところでもちゃんと戦えるバンドでありたいという思いがあります。

──マイペースに「良質な音楽をやってるバンド」みたいな感じにはなりたくない?

成田 もちろん良質であることは大前提ですけれど、きっと僕らだけでなく、同世代のバンドも、みんなそれぞれがどんどん個になっている時代だと思うんですよ。そこにはきっと正解もないし、舗装された大きな道もなくて。今はそれぞれのバンドが自分だけの道を作っていかなかなきゃいけない時代だと、僕は思っていて。そうなると狭い道だけがたくさんあって、リスナーはその狭い道のどれかを選ぶしかない、みたいになっていくじゃないですか。でもそれだけじゃ、音楽をやってるほうも聴いてるほうもつまんないなって思うから。そんな中でどう健やかにバンドを成長させていけばいいのかっていうのは、これからもしっかり考えていかなきゃいけないなって。

大胡田 私は、勢いだけに頼らないものを作っていきたいと思っています。今回の「永すぎた春」も、ライブでも盛り上がる曲なんですけど、なんというか、リスナーの内側にあるものを引き出していくような曲だと思うんですよ。身体を動かすのも楽しいことだけど、私は心が動くのが一番楽しいことだと思うから、そういうものを作っていきたいって、今はすごく思ってますね。

ニューシングル「永すぎた春 / ハイパーリアリスト」 / 2016年7月27日発売 / unBORDE
「永すぎた春 / ハイパーリアリスト」
初回限定盤 [CD] 1200円 / WPCL-12400
通常盤 [CD] 1080円 / WPCL-12401
収録曲
  1. 永すぎた春
  2. ハイパーリアリスト
  3. REM
  4. 今日も雨
パスピエ
パスピエ

2009年に成田ハネダ(Key)を中心に結成。メンバーは大胡田なつき(Vo)、成田、三澤勝洸(G)、露崎義邦(B)、やおたくや(Dr)の5名。都内を中心にライブを行い、2010年3月に自主制作盤「ブンシンノジュツ」をライブ会場限定で発表。2011年に1stミニアルバム「わたし開花したわ」、2012年に2ndミニアルバム「ONOMIMONO」をリリースし、卓越した音楽理論とテクニック、ポップセンスで音楽ファンの話題をさらう。2013年3月に初のシングル「フィーバー」、6月にメジャー1stフルアルバム「演出家出演」、2014年6月に「幕の内ISM」と続々と作品を発表し、数々の大型ロックフェスに出演。2015年は9月にアルバム「娑婆ラバ」をリリースしたあと全国ツアーを行い、12月に初の日本武道館単独公演を成功に収めた。2016年4月に初の映像作品DVD「Live at 日本武道館 “GOKURAKU”」を発表。7月発売のシングル「永すぎた春 / ハイパーリアリスト」のタイミングで、これまで隠していた素顔を明らかにした。