音楽ナタリー Power Push - パスピエ

“永すぎた春”を経て、次のステップへ

人生の4分の1を過ぎた心境

──今回の作品は、楽曲ごとにかなり音楽的な方向性に違いがあって、それぞれの曲で、ものすごく焦点の定まった新しいチャレンジをしていると思いました。

成田 はい。今年1年の自分たちの活動にとって今回のシングルがどういう意味を持つのかということよりも、これから5年、10年とバンドを続けていく上で、この作品は絶対に必要なピースになっていくと思うんですよ。今の時代はそのくらいのことまで考えないと、シングルを出す意味ってないと思うし。ここからパスピエの新しい章が始まるくらいの気持ちが今回の作品にはあって。

左から成田ハネダ(Key)、大胡田なつき(Vo)。

大胡田 「永すぎた春」と「ハイパーリアリスト」って、それぞれパスピエのまったく違う面が反映されている曲だから。この2曲をこうして並べてリリースすることができて、すごくよかったなって。アルバムじゃなくてシングルですけど、この1枚を聴いてもらうだけで、パスピエってバンドのよさ、その多面性っていうのが、すごく伝わる作品に仕上がっていると思うんですよね。

──「永すぎた春」では「等身大の自分なんてどこにもいなかった」ってフレーズがとても印象的なんですけど、それは詞を書いた大胡田さんの本音の部分なんでしょうか?

大胡田 「等身大の自分」だとか「等身大の私」だとか、そういう言葉があふれているけれど、そんなの私は感じたことないなって思っていて。言葉だけで実態がないものって世の中にいっぱいあるなっていう、ちょっとそういう皮肉も込めているんです。「永すぎた春よ 四分の一の永遠よ」っていうサビの部分は、自分の人生もだいたい4分の1くらいが過ぎた今、恥ずかしさだったり、カッコ悪さだったりっていうのをここでちょっと振り返って、そこから次のステップにいこうっていう、そういう心境を描いたつもりです。

──なんか、パスピエらしからぬエモさがありますよね(笑)。

成田 これまでパスピエって、そういうエモさみたいなものをちょっと婉曲して表現してみたりとか、スカして表現してみたりとかそういう感じだったと思うんですけど、最近になって変わってきていて。歌詞もよりダイレクトに伝わるものになってきたし、それに合わせて曲や演奏もどんどんダイレクトになってきているんですよね。ただ、そこで自分が重視しているのは、1回でパッとわかることも大切なんですけど、2回3回と聴いて、より味わいが出てくるもの、より深みが伝わるものにしたいってことで。もしかしたらそういう表現って今の時代に向いてない部分があるのかもしれないけれど、自分が魅了されてきた音楽ってそういうものだし、結局のところ、僕らには自分が面白いと思うものを提供することしかできないんですよ。最近、そのことにとても自覚的になってきましたね。

2016年はパスピエの気概を伝える年に

──アルバムを3枚出したことで、ひと回りしての原点確認みたいな感じなんでしょうか?

成田 うーん。というより、メジャーデビューしてから昨年までの活動って、自分たちにとってものすごく大きなインプットの連続だったんですね。いろんなことを試してみて、そのリアクションがあって、その都度またそれをインプットしてっていう。今年に入ってからは、その大きなインプットから得た何かをアウトプットしているような感覚で。なんか、使ってる脳の部分が違う感じなんですよね(笑)。

──もうちょっと具体的にお願いします(笑)。

成田ハネダ(Key)

成田 改めてパスピエってバンドが存在している意味を定着させたいなって思っています。今年の年末に初のホールツアーをすることも、そこにつながっていくんですけど、今年はいわゆる「勝負の年」みたいなものとは違った意味で、パスピエが持っている気概みたいなものをみんなにちゃんと伝えていく年にしたいと思っていて。

──その場のノリや盛り上がりだけじゃなくて、音楽をちゃんと伝えたいっていうこと?

成田 それもあるし、音楽の力によって生まれる新しい景色をみんなにも見てほしいし、僕らも見たいんですよね。

──そうしたバンドの変化は、大胡田さんがパスピエの詞で描く世界にも影響してきていますか?

大胡田 「娑婆ラバ」くらいから、自分の経験みたいなものがより歌詞に入ってくるようになってはいて。実体験をそのまま入れるんじゃなくて、経験からくる例え話やそのときの気持ちみたいなものが増えてきたというか。生々しさが出てきたと思います。

──そういう意味でも、これまでの活動でインプットされたものが生かされているのかもしれませんね。

大胡田 そうですね。ずっと聴いてきている人は「これはバンドのことを歌ってるな」ってわかるような歌詞があったりしますし。1人で妄想やイメージを膨らませて詞を書いていた時期とは明らかに変わってきてますね。

ニューシングル「永すぎた春 / ハイパーリアリスト」 / 2016年7月27日発売 / unBORDE
「永すぎた春 / ハイパーリアリスト」
初回限定盤 [CD] 1200円 / WPCL-12400
通常盤 [CD] 1080円 / WPCL-12401
収録曲
  1. 永すぎた春
  2. ハイパーリアリスト
  3. REM
  4. 今日も雨
パスピエ
パスピエ

2009年に成田ハネダ(Key)を中心に結成。メンバーは大胡田なつき(Vo)、成田、三澤勝洸(G)、露崎義邦(B)、やおたくや(Dr)の5名。都内を中心にライブを行い、2010年3月に自主制作盤「ブンシンノジュツ」をライブ会場限定で発表。2011年に1stミニアルバム「わたし開花したわ」、2012年に2ndミニアルバム「ONOMIMONO」をリリースし、卓越した音楽理論とテクニック、ポップセンスで音楽ファンの話題をさらう。2013年3月に初のシングル「フィーバー」、6月にメジャー1stフルアルバム「演出家出演」、2014年6月に「幕の内ISM」と続々と作品を発表し、数々の大型ロックフェスに出演。2015年は9月にアルバム「娑婆ラバ」をリリースしたあと全国ツアーを行い、12月に初の日本武道館単独公演を成功に収めた。2016年4月に初の映像作品DVD「Live at 日本武道館 “GOKURAKU”」を発表。7月発売のシングル「永すぎた春 / ハイパーリアリスト」のタイミングで、これまで隠していた素顔を明らかにした。