「トロイメライ」っていう言葉を使ってみたかった

──では、「トロイメライ」のことに戻って。大胡田さんがこの曲を聴いたときの印象は？

大胡田　最初はCDに収録されているバージョンとはちょっと違ってたんですけど、「私が歌う感じじゃないな」って思いましたね。当時は、もっと激しい歌が歌いたかったので。

成田　大胡田はパスピエの前にもバンドをやってたんですけど、歌い方はかなり違ってたんですよね。今の感じにエモが加わっていたというか……。

大胡田　その頃はロックといえば、メタルとへヴィロックだと思ってたんですよ。あと、NUMBER GIRLが好きだったので、ああいう方向にも憧れていて。ちょっとムリがあったんですけど。

──大胡田さんの声質はすごくガーリーだし、ポップソングのほうが似合うような気もします。「トロイメライ」もそうですけど。

成田　大胡田の声に合わせたわけではないんですけどね。僕自身、ポップソングが好きなので。

──ちなみに「トロイメライ」というと、同じタイトルでシューマンの有名な曲もありますよね。

大胡田　そうですね。「トロイメライ」っていう言葉を使ってみたかったんですよ。あと「子供の情景」（※「トロイメライ」は組曲「子供の情景」の中の1曲）について調べていたら、「子供の心を描いた大人の作品」という説明があって。そこから「髪を切って生まれ変わる」という言葉が浮かんできたりしたんです。

音楽は時間芸術、“その瞬間”を表現するもの

──今作の歌詞に関してはどうですか？

大胡田　「ONOMIMONO」の楽曲の歌詞は、タイトルとか（歌詞の中にある）ひとつの言葉から膨らませていって、それをつぎ合わせていくことが多かったんですよ。「トロイメライ」も、まさにそうですね。

成田　前作のときはデモの段階で僕がサブタイトルを付けたりしたし、「電波ジャック」とかは僕も作詞に参加してたんです。でも今回は、歌詞とタイトルについては全部大胡田に任せたんですよ。

──特に「最終電車」の歌詞が印象的でした。「彼が最終電車に飛び乗る」という一瞬の出来事を鮮やかに切り取ってますよね。女の子の心の動きもいきいきと描かれていて、すごくステキなラブソングだと思います。

大胡田　ありがとうございます。景色っぽい感じで書いてみたんですけど、これは自分の経験がちょっと入ってるかな。

成田　この曲の歌詞には、僕も思い入れがあるんですよね。同じような体験をしたというわけではないんですけど、音楽は時間芸術というか、“その瞬間”を表現するものだと思うんですよ。「あの瞬間がすごく良かったんだよな」っていう経験をパッケージして届けるというか。「最終電車」はまさにそういう曲ですよね。

──そうですね、確かに。

成田　この曲は最初、イントロだけがあったんです。イントロのメロディが浮かんできた瞬間、「これはきっと面白い曲になる」って思って。そのあと、メンバーと一緒にアレンジして、歌詞がハマって。いい曲になってうれしいですね。

──そういえば成田さんは以前、「嫌な思い出がフラッシュバックしたときにいい曲ができることが多い」って言ってましたよね。

成田　はい（笑）。

大胡田　（下を向いて笑っている）

成田　曲を書くっていうのは、僕にとって生活の一部なんですよ。朝起きて、歯を磨いて、メシ食って、「じゃあ作るか」みたいなこともあるし、普通に歩いてるときにフレーズを思い付いて、ケータイにメモったりすることもあって。そういう中で「どういう瞬間にいい曲ができるのか？」を自分なりに分析するんですよね。例えば長風呂しているときにいい曲を思い付いたら、それから1週間くらい、ずっと長風呂してみたり（笑）。嫌なことを思い出したときに曲ができるっていうのも、そのひとつなんですよね。多分、自分への戒めみたいなものかもしれないけど。