折坂悠太「朝顔」インタビュー|あらゆる隔たりを越えて、鳴り響く願いの歌

あのときはただただ怒りです

──昨年リリースされたbutajiさんとのコラボ作「トーチ」は自然災害がテーマの曲でした。今までも折坂さんの楽曲にはその時代の社会やその時代に起きていることへのリアクションが多分に含まれていたと思うんですが、社会を描いたり時代のムードを切り取ったりすることは、折坂さんが音楽活動を続けていくうえでどのような意味を持っていますか?

自分としては、社会を描こうという意思はそこまでないんです。でも、抽象的な歌詞だろうが具体的な歌詞だろうが、結局今のムードの中で生きている以上、何を作ってもそのムードが反映されるんじゃないかなと思っていて。なので、その時代のムードを切り取ろうというよりは、その言葉が今の自分の気持ちに合うか合わないかという感覚を大切にしていますね。そうすると、自ずとその時代の社会なりムードなりが反映されていくのかなと。

──昨年SoundCloudで発表された「Wadachi2020」は歌詞、アートワークともにとてもインパクトがありました(参照:折坂悠太がSoundCloudで新曲発表、マスク2枚着用したアートワークと共に)。折坂さんがあそこまで怒りを表に出すというのは、それまでの活動からするとだいぶ踏み込んだ印象があったのですが、そのときはどのような心境だったんですか?

あのときはただただ怒りです(笑)。社会を描こうとは思っていないとか言っておいて、あんな曲を作ってる時点で矛盾してますね(笑)。でも、だからこそSoundCloudでの発表に留めたというのはあります。あれは誰かに向けて作った作品というより、自分のための曲なので。

──ちなみに折坂さん、この曲を発表する2カ月ほど前にJagatara2020のイベントに出られてましたけど(参照:Jagatara2020と多数ゲストの「虹色のファンファーレ」、江戸アケミは「夢の海」を歌う)、「もう我慢できない」という歌詞は、JAGATARAの「もうがまんできない」という曲からインスパイアされたもの?

折坂悠太

そうです。それは完全にJAGATARAからの影響です。でも、僕が「もう我慢できない」とか「お上など辞めろ」と歌うことに対して、「そんな偉そうなこと言える立場か」と思う人もいると思うんです。だけど、こうして社会の一員として生きている以上、1人の人間として言わなきゃいけないことがある。だから「Wadachi2020」では思ったことをストレートに歌うことにしました。ただ、作品としてより多くの人に聴かれたいと思ったときには、もう少し伝え方を考えないといけない。

──普段の作品を作るときには、そういう直接性は極力排除しようと心がけているということでしょうか。

そうですね。まあそれも考えものなんですけどね。そうすることで薄まってしまうものもあるし、なんでそれを作品にしないんだと言われたらそこまでなので。ただ、これは僕の目に映る狭い世界の話ですけど、今の世の中は二極化が進んでいると思うんです。「俺はこっちの人、あなたはあっちの人」という小さな分断がいろんなところで起きている。それって本当につまらないじゃないですか。思想や意見が違っても、例えば春の風が暖かいなと思う気持ちや、身近な人がいなくなって寂しいなと思う気持ちには、共通する部分もあると思うんです。だとしたら、そういう感情に働きかけていくことで、そこにある隔たりを少しでもゆるやかにできるんじゃないかなと思って。ライブでも音源でも、同じ歌を共有することで少しずつ社会が楽しいものになっていくという期待がある。そのためにも、自分の考えていることをストレートに表すだけではなくて、誰もが面白いと思えるような伝え方をしたいんです。

いろんなものを面白がれる世の中を目指して

──最後に今後の活動についてもお伺いしたいです。折坂さんは音楽を積極的に聴くリスナーから強い支持を受けていますが、一方で月9の主題歌を担当されたり1月に「MUSIC FAIR」で地上波初出演を果たしたり、メジャーなシーンにも間口を広げているという印象があります。そのあたりのバランスはどのように考えていますか?

折坂悠太

そこは自分の課題かなと思っています。でも、音楽をめちゃくちゃ聴くリスナーとそうじゃない人というのもある意味1つの隔たりだと思うんですよね。昔の「紅白歌合戦」を観ると、歌謡曲の中にも当時これは最先端だったんだろうなというかなりきわどい表現が入っていたりしていて、個人的にそういうものを面白がれる世の中のほうが楽しいと思うんですよ。だから自分みたいなやつの歌が街やテレビで流れていたら面白いなって(笑)。バランスを取るのは本当に難しいんですけど、いろんな立場の人がいろんなものを面白がれるような世の中になればいいなと思っています。

──今、紅白という言葉が出てきたのでお聞きしますが、「紅白に出たい」とか「国民的な歌手になりたい」という思いってありますか?

そうですね……ありますね。うん、紅白に出たいという思いはあります。音楽活動を始めたときも、紅白に出るまでは続けようと思っていたので。表立って言うと叶わなくなるかなと思ったので、あまり言ってこなかったんですけど、内に秘めた思いとしてはありますね。

──なるほど。では、これからも折坂さんのご活躍を楽しみにしています。

ありがとうございます。フルアルバムは「平成」以来出せていないので、なんとしても出したいです。こんなに長くかかるつもりなかったんですけどね(笑)。

折坂悠太