自問自答と周りに対する違和感
──で、B面がバラードの「疑問符」から始まるという。
これはもう、絵に描いたようなソウルバラードですよね。オーディオを一新して、The Stylisticsの1stアルバムを聴いたら、あまりにも素晴らしくて椅子から転げ落ちるぐらいのショックを受けて。演奏もコーラスも、とにかくすごくて。あとはストリングスのクオリティの高さ。これは山下達郎さんから聞いたんだっけかな、あの頃のフィリーソウルの弦って、日本でいえばNHK交響楽団みたいなエリート楽団の2軍みたいな人たちがやってたみたいなんです。だからものすごくクオリティが高いんですよ。むちゃくちゃうまい。そういう人たちがトム・ベル(フィラデルフィアソウルを支えた名プロデューサー / アレンジャー)のアレンジに従って演奏してるんですよ。
──もう、悪いはずがないですよね。
本当に超絶素晴らしくて。「黒人をなめるなよ?」ってぐらいの凄みを感じたんです。黒人としての美しいポップスを作って白人たちをアッと驚かせてやるぞって、おそらくそういう気持ちがあったんじゃないかな。それぐらい完璧すぎるアルバムで感動しちゃって。自分でもそういう曲を作りたいなと思ったんです。ただ、弦を入れるつもりはなかったんで、シンプルなスウィートソウルをこの曲で追及しようと思って。今までだったら、もっとゴテゴテな感じにしたと思うんだけど、最小限のメロディ展開で“なんかいい曲”っていうのを作りたかったんですよ。
──本当に音数を絞りに絞った“いい曲”ですよね。
そういうふうに作りたかったんです。この曲は真夏に作ったんだけど、真夏っていうのは創作に向かないですね(笑)。冬のほうが圧倒的に曲のイメージが浮かぶ。大変だったけど、パッとイメージが浮かんで急いで書いたんですよ。
──次は「空気-抵抗」。これ、タイトルを見た瞬間、絶対カッコいい曲だろうなと思いました。
はははは。タイトル見ただけで? この曲には渡辺香津美さんがギターで参加してくれてるんですよ。去年初めて香津美さんと一緒に仕事をしたので、「ギターソロを弾いてくれませんか?」ってお願いしたらオッケーが出て。サウンドに関しては、フュージョンっぽいテイストもありつつ、ちゃんとロックになってる。香津美さんのギターも完璧で、4テイクしか録らなかった。全部よかったんですけど、最後の4テイク目で、「もう、これでしょ!」っていうことになって。プレイのレベルが全然違うんですよ。香津美さんの演奏を聴いて、ギターという楽器にはすさまじい深さがあるんだなと改めて思いました。「香津美さんが参加するかもよ?」ってあらかじめ伝えておいたから、メンバーも気合いが入ってたと思うし。サウンド的にもいいテイクが録れたと思います。
──そこに乗ってる歌詞がまた異様で(笑)。
この曲に関しては、どういう歌詞を書いたらいいのかわかんなくなっちゃって。それでずっと悩んでたんだけど、ある種のいら立ちみたいなものをテーマに歌詞を書いていったらハマったんですね。日本人にありがちな、ロックなら“ロック村”とか、政治好きなら“政治好き村”とか、まあ、なんの村でもいいんですけど、1つの方向で急に熱くなって盛り上がってる中で、そこに対して違うことを言うと、めっちゃ叩かれたりするでしょ?
──確かにそうですね。
僕はそういう風潮がすごく嫌で。例えば、学者の人たちは自分が追求してきた学問に対して、世の中の人たちが違うことを言っていたとしても、それが自分の結論ならば意見を貫き通さなければいけない。それはプラトンの時代から同じで。自分の意見を貫き通したことで殺されたりしたことがあったかもしれない。現代社会でも、そういう部分は変わってなくて、それがSNSという非常に見えやすい形で存在していて。「みんなが右を向いてる中で、自分が左を向いていたとすれば、それを堂々と表明できるのか?」っていう。そういう自問自答と、周りに対する違和感みたいなものを表現したのがこの曲で。つまり「空気」に「抵抗」するということですよね。こういう気持ちって、みんな本当は持ってるはずなんです。でも「言ったら叩かれる」とか、そういう空気が今は昔より強まってるから、なかなか言い出せないんですよね。生きてくうえでは、ある程度、そういう空気を受け入れなきゃいけないのかもしれないけど、本当は違うんじゃないかなっていう。
自分の中に芽生えた新しい感覚
──アルバムの表題曲になっている「bless You!」についてはいかがでしょう。
アルバムの中で最後に書いた曲ですね。今回、「人生賛歌」というテーマを掲げて作業を進めていったんですけど、アルバムで言えば「風の歌を聴け」(1994年発表の4thアルバム)ぐらいから、僕はある種、「人生賛歌」みたいなことを歌にしてきたと思うんですよ。今までは無意識的だったんだけど、今作を作るにあたって、そういうことを歌にするのが自分の役割なのかもしれないと明確に思ったんです。ただこの曲も、とにかく歌詞が書けなかった……ちょっと話が前後しますけど、「いつも手をふり」という曲があって、これもレコーディングの後半にできた曲なんですね。去年、自分の母親が亡くなったんですけど、そのときに10分くらいで歌詞を書いて。母親が亡くなったときの気持ちをなんの考えもなしに感覚だけでババッと書いていったんです。あとで考えてこねくり回すより、そのほうが歌としていいんじゃないかと思って。そのあと、「bless You!」のアイデアがすぐに浮かんで。
──歌詞のアイデアはどのようにして膨らませていったんですか?
もともとゴスペルみたいな雰囲気の曲だったんで、歌詞もゴスペルっぽい感じがいいのではないかってアタリを付けてたんです。それで、ゴスペルの歌詞を翻訳したものをいろいろ読んだんですけど、自分の思うゴスペルの歌詞とは違っていたんですね。曲によっては、昔の流行歌みたいな曲を「みんなで歌えば心が安らぐだろう」ということで歌っていたと思われるような曲があったり。だったら自分なりのゴスペルを書こうと思って。うちのオフクロはすべての人類にとって歴史的な偉業とかを残してるわけじゃないんだけど、それでも僕にとっては本当に素晴らしい大切な存在だったし、オフクロが亡くなったことで、自分の中に今後大きな影響が残っていくんだろうなと思うんです。
──心の中でずっと生き続けていくという。
そうですね。実際、今も生きてるような感じがしてるし。オフクロが亡くなるまでは、「死んだらおしまいだから何をしたっていいじゃないか」みたいな感覚がどこかにあったんです。だけど、そうじゃないかもしれないと思うようになって。オフクロが亡くなってから、その存在が自分にとって、ものすごく影響力があることに気付いたんです。そこまで含めたものが「生きる」ってことなんだなという感じがして。人生って、生きてる人たちだけのものじゃないというか。それって自分の中に芽生えた新しい感覚なんです。僕は「風の歌を聴け」ぐらいまでは、元気な人たちだけに向けて音楽を発信していたところがあったかもしれない。でも、「いつも手をふり」とか「bless You!」を作ってるときは、そうじゃなかったんです。
もう少しヒネくれててもいいんじゃないの?
──なるほど、そんな背景があったんですね。そういうエピソードを聞くと、「bless You!」から「いつも手をふり」に続く、終盤の流れも非常に腑に落ちます。ただ、アルバムがそこで終わるわけではなくて(笑)。
そう。大どんでん返しでね(笑)。
──オルタナティブな「逆行」でカオティックに終わっていくという。冒頭でも言いましたけど、大御所にとどまっていていい人が、なんでまだ逆行しなきゃいけないんだと思うんですよ(笑)。そこが田島さんらしいとも言えるんですが。
「逆行」は、「空気-抵抗」とセットになってるような曲で、「どんどん逆を行け」ということを歌ってるんです。僕は少年時代から、全員が右を向いてるときに左を向いていたい、みたいなところがあって。逆を行って、逆を行ってる奴らが集まったら、今度はその逆を行けっていう。そうやって、どんどん逆を行ったら、誰もいない世界にたどり着いたみたいなことを歌った曲なんです。友達が1人もいなくなっちゃった、みたいな(笑)。でも、そういう気持ちって、あってもいいんじゃないかなと思っていて。逆を行くことを認めることによって、救われることもあるだろうし。みんなで力を合わせたり助け合ったりすることは、すごく大事なことですけど、ときには、みんなと逆を行くことも必要なんじゃないかって。
──この曲は、若いアーティストが励まされる部分もあると思うんです。そもそも音楽をやるような人は、みんなの逆を行こうとするようなタイプだと思いますし。今の田島さんみたいな立場の人が、それを提案するのってすごく心強いんじゃないかと思って。
そう思ってくれるとうれしいですね。僕は10代の頃にパンクとかニューウェイブを通過してるんですけど、パンクやニューウェイブも、もともと逆を行くような連中が始めた音楽だから。それこそ、お客さんが喜ぶと怒るみたいな(笑)。自分の中にそういう感覚が残ってるのかもしれないですね。今のロックやパンクのライブで、「みんなで一体になろうぜ!」みたいな光景が頻繁に見られて、それはそれでいいし、好きな部分もあるんだけど、その一方で、「みんな、もう少しヒネくれててもいいんじゃないの?」って思うんですよ。そういう気持ちを持っててもいいんだぞって。そこから新しい価値観やスタイルが生まれてくるはずだし。
──田島さんの根本に流れるオルタナティブな精神が如実に出た曲だし、何よりこの曲でアルバムが終わるのが、めちゃくちゃ痛快ですよね。
「で、結局、結論はなんだったの?」ってね(笑)。混沌とした感じで終わるのが面白いかなと思って、この曲をラストに持ってきたんです。
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カメラを通して開かれた新しいチャンネル