一発録りが生み出すサウンドの普遍性
──ここからはアルバム収録曲について順番にお話を聞かせてください。まずは「アクロバットたちよ」。最初に聴いたとき、一体どういう展開で進んでいくんだろうと思ったんです。ある種、組曲的というか。
この曲はケニー・バレルみたいなジャズギターと、ツェッペリンみたいなギターのリフ、あとはTelevisonみたいなニューヨークパンクが自分の中で合わさっちゃってるような感じですね。なんでこの曲を作ったのか、自分でもよくわからない(笑)。今回のアルバムで掲げている「人生賛歌」というテーマにリンクするような“命の歌”を作りたかったのかも。イントロのギターの感じとか、ロープの上で綱渡りをしてる人のイメージが頭の中にあったんです。生きてることの危うさや命の揺らぎというか。みんな、そういうふうに綱渡りしながら生きてるんじゃないかということを表現したくて。あと、この曲の重要なポイントは一発録りってところですね。歌も演奏と一緒に録ってて。
──へえー。
僕は毎回完璧なデモテープを作るんですけど、この曲に関しては、ギター1本と簡単なリズムだけでデモを作って。それを元にライブのリハーサルで、メンバーにいろいろ指示しながら作っていった曲なんです。
──だから編曲クレジットに、ライブメンバーの名前が列記されてるんですね。
そう。僕はこの曲をツアーで固めて、レコーディングで一発録りをしたくて。なんでかと言うと、70年代のレコードみたいなサウンドにしたかったから。僕は70年代の音が圧倒的に好きなんです。当時はレコーディングシステムが今ほど複雑化してなかったから録り直しができなかったし、ミュージシャンの演奏技術も高かったんで一発録りが当たり前だったんですよ。当然、ミュージシャンが演奏に臨む気持ちも今とは全然違っていただろうし。
──きっと、すごい緊張感だったでしょうね。
そういう感覚をアルバムに持ち込みたくて。「アクロバットたちよ」はギターのリフも難しくて、そもそもあのギターリフを弾きながら歌うのは不可能だと思ってたんです。だけど絶対にクリアするぞと思って直前までずっと練習してレコーディングに臨んで。あの曲では頭から最後まで歌も演奏も一切直してないんですよ。歪んでるギターの音も全部エフェクターを使ってその場で操作して。一聴すると、そんなふうには聴こえないですけど。
──すごく複雑な構成の曲なので、まさか一発録りだとは思わなかったです。
そうですよね。だけどレコーディングは数時間で完パケて。やっぱり人間のインスピレーションとか気合いって、すごく大事だなと思いました。「これ直さないよ」ってメンバーに言うと、みんな全力で演奏するんです(笑)。オリンピックの競技に参加する選手みたいなもんで、一発勝負だからプレッシャーが全然違う。で、そうやって録音したサウンドって何年経っても古くならないんです。何度聴いても飽きない。確実に何かが違うんですよ。どういう理由かはわからないんだけど。ちなみに3曲目の「AIジョーのブルース」も一発録りです。
ポップな曲を作るのが一番難しい
──「ゼロセット」は、ORIGINAL LOVEのキャッチーな曲を聴きたい人のニーズにきっちり答えてる曲ですね。
この曲ができたときはガッツポーズでしたね。ポップな曲を作るのって一番難しいんですよ。そういう曲ができたら、もうアルバムは半分完成したようなもので。「ゼロセット」は3年前ぐらいに大体できてたんですけど、しばらく寝かせてあった曲なんです。シングルとして出そうと思って歌詞も書いたんですけど、歌詞がイマイチだったんですね。小手先で書いてたのかもしれないし、今思えばソウルが足りなかった。で、どういう歌詞がぴったりくるかわからないまま1年ぐらいほったらかしにしてたんだけど、去年のツアーを始めるとき、この曲を絶対にやるぞと決めて。それで何も隠さない自分のまっさらな気持ちをストレートに書いたら、うまく曲にハマったんです。この曲はすごくいいので、やれることは全部やろうと思って。それで生のストリングスを入れたんです。
──3曲目の「AIジョーのブルース」は冒頭の2曲から一転してエディットを駆使した曲になっています。
曲のテーマがAIの時代におけるブルースということだったので、エレクトロニクスやSNSとか、そういうものに制御される人間というイメージを曲に落とし込んだんです。なので、アルバム中この曲だけ歌も含めて一発録りした演奏を極端にエディットしました。無機質なビートの中に、生身の人間が演奏したリズムをエディットして入れて。非常に変な感じのリズムになりましたね。
──頭の中が混沌としていく感じがします(笑)。
ヒップホップの人がこういうリズムで曲を作ったりしてますよね。
──その手法でブルースをやるという。
そう。そこは誰もやってないんで。今回のアルバムは、自分が今感じてることが要所要所で歌とか曲になってるんですよね。「空気-抵抗」とか「逆行」って曲もそうなんですけど、今自分が感じてる苛立ちや歪み、不気味さとか、それをストレートに書いているんです。
一筋縄ではいかないPUNPEE
──次はPUNPEEをフィーチャーした「グッディガール」。PUNPEEとは1月に行われた「LOVE JAM」でも競演されていますね。
PUNPEEくんは、「LOVE JAM」への出演オファーがきっかけになって参加してもらえることになったんです。で、せっかく一緒に作るんだったら、その曲を「LOVE JAM」で披露しようということになって。最初、僕はほかの曲をPUNPEEくんに提案したんですよ。だけど、違う曲も聴いてみたいと言われて、それで「グッディガール」という曲を彼が選んで。この曲、もともとはラップが入ることを想定してなかったんですよ。
──そうだったんですね。
PUNPEEくんとイチから一緒に歌詞を作っていったんですけど、まさに、がっぷり四つの共作でね。LINEで毎日のようにやり取りして、とにかく面白かったです。歌詞のアイデアはいくつかあった中から、2人で歌うんだから女の取り合いみたいな形にしようって話して。複雑な展開の箇所にラップを入れたのは僕のアイデア。PUNPEEくんは避けたかったみたいだけど(笑)、僕があそこでラップしてほしいと言ったんです。今回PUNPEEくんと組めて本当によかった。彼はすごいですね。アイデアがブッ飛んでるっていうか、ヒップホップのアーティストなんで、バンドマンと発想が全然違うんですよ。ヤンチャな部分もあるけど、すごく頭がよくて一筋縄ではいかない。素晴らしいクリエイターだなと思いました。
──「ハッピーバースデイソング」は打ち込み中心の楽曲で。この曲は、田島さんがほぼ1人で制作した感じになるのでしょうか?
そうですね。ギターソロだけ僕のジャズギターの先生である岡安芳明さんに弾いてもらって。岡安さんに付いてジャズギターを習うようになってから、スティーヴィー・ワンダーが1970年代初頭に発表した「Innervisions」とかで、すでにジャズのテクニックを巧みに使って曲を作っていたということがよくわかって。僕も同じようにジャズのアプローチを用いて、ヒップホップ時代のジャジーなソウルみたいな曲を作ろうと思ったんです。さっき思い出したんですけど、僕は高校2年生のときに、初めてスティーヴィー・ワンダーのライブを先輩に連れられて観に行ったんですよ。
──当時、ブラックミュージックに興味はあったんですか?
まったくなかったです(笑)。僕はパンク / ニューウェイブ少年だったので、むしろ「ダセーな」ぐらいに思ってて。でも生でスティーヴィーのライブを観て、「なんだこれ、最高!」って衝撃を受けたんです。で、3曲目ぐらいで踊りまくってて(笑)。そのとき最後にやったのが「ハッピーバースデイ」という曲だったんです。自分の人生のベスト3に入るぐらいショックを受けたライブで。それをさっき思い出した。だからこの曲は、スティーヴィーに捧げる曲かもしれないですね。
──無意識に捧ぐ曲(笑)。
あと今回は「人生賛歌」というテーマもあったので、「誕生」を歌うという意味でも作品にマッチしてるんじゃないかな。
──ここでアルバムとしてはA面終了という感じですね。
そう。その通りです。
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自問自答と周りに対する違和感