ORIGINAL LOVE|逆行し続ける男がたどり着いた新境地

ORIGINAL LOVEが2月13日に通算18枚目のアルバム「bless You!」をリリースした。

自主企画によるライブイベント「LOVE JAM」を2015年にスタートさせて以降、さまざまなアーティストと対バンを繰り広げてきたORIGINAL LOVE。ジャンルや世代を超えた面々との交流を通じて新たな音楽的刺激を受ける一方で、田島貴男は40代半ばにしてギタリスト岡安芳明に師事してイチからジャズギターを学ぶなど、演奏者ならびに作曲家としてもたゆまぬ研鑽を積んできた。そんなここ数年のモードを反映するかのように、今作「bless You!」にはライブでおなじみの面々に加え、渡辺香津美、長岡亮介(ペトロールズ)、PUNPEE、角銅真実といった多彩なゲストが参加。田島いわく「ジャズからの影響を強く受けた」という作品に個性豊かなプレイで彩りを加えている。

音楽ナタリーでは田島にインタビューを行い、新作の制作背景はもちろん、最近ハマっているというカメラについても語ってもらい、彼のソウルフルな創作活動の源泉に迫った。また特集の後半には田島の撮影による写真も掲載している。

取材 / 臼杵成晃 文 / 望月哲 撮影 / 相澤心也

再び訪れたレコードバカ買いの日々

──よく考えたら前のアルバムのインタビューって、もう4年前なんですよ。

え、そんなに経ってるんだ。

──とは言え、田島さんは精力的に活動されていたので、そんなに期間が空いてた気がしなかったんですよね。

うん。自分でもそんなに空いてる気はしなかったですね。

──その間に音楽ナタリーのオーディオ企画で取材させていただいて(参照:いい音で音楽を:田島貴男(ORIGINAL LOVE) meets ネットワークプレイヤー)。当時、田島さんは「今は、そんなにオーディオにはこだわっていない」と言っていたんですけど、その直後にオーディオ機器をガッツリ買い替えてましたよね。

はははは!

──そして時を同じくしてカメラにもハマって(笑)。

そうそう。

田島貴男

──あのタイミングでオーディオへの興味を取り戻し、さらにカメラの沼にハマったのは、田島さんの中で何か大きな変化があったのかなと思ったんです。

ああ、なるほど。オーディオに関して言うと、確かにあの取材のときはあまり興味がなかったんです。昔ほど家で音楽を聴かなくなってしまって。あの頃はパソコンに小さなスピーカーを付けて音楽を聴くような環境で、自宅で聴く分には、もうこれでいいやと思ってたんです。普段作業してるアトリエに行けば、ちゃんとしたオーディオ機材があるので。ただあるとき、仕事と関係なく、楽しく気持ちよく音楽を聴きたいなと思ったことがあって。それでオーディオ機器をひと通り買い直して、自宅でレコードを聴くようになったら、あまりの音のよさにハマってしまったんです(笑)。

──そういう経緯があったんですね。

僕は高校生の頃にジャズ喫茶やロック喫茶に通って音楽を聴いてたんですけど、当時聴いてたのと同じ音がするんですよ。もう感動しちゃって。マイルス・デイヴィスとか、バツグンによく聴こえるんです。そこからまたレコードをバカ買いするようになって。Led Zeppelinとか何十年も聴いてなかったんだけど、iPhoneで聴く5億倍ぐらいカッコいいんですよ。

──5億倍ですか(笑)。

うん。それぐらい衝撃的でした。

──そこで昔聴いてたものも含めて音楽的な再発見があったわけですね。

自宅のオーディオ環境を整えたことで再び音楽に目覚めて。毎日音楽をずっと聴いてるような状態だったので、いろいろアルバムのアイデアも浮かびましたね。

田島貴男

ORIGINAL LOVEっぽい音をやりやすくなった

──カメラに突然ハマったこともそうですけど、以前のボクシングしかり、田島さんってスイッチが入った瞬間に一気に求道モードに入るところがありますよね。

田島貴男
田島貴男

そうですね。例えばギターも同じで。今、アトリエにギターがいっぱいありますけど、これって全部ここ数年で買い集めたものなんですよ。僕は8年ぐらい前に“ひとりソウルショウ”というスタイルでギターの弾き語りライブを始めたんですけど、いざ始めてみたらバンドで演奏するのとは全然違う芸なんだということがわかって。要するに、僕は1人で演奏するギターのテクニックを持ってなかったんです。それでイチからギターを勉強するようになって、最終的にたどり着いたのがブルースだった。伴奏しながらボトルネックを使ってスライドギターを弾いたり、ソロを弾いたり、ブルースの演奏っていろいろ融通が利くシステムになってるんですよ。

──1人ですべて完結できるという。

そう。勉強してるうちに、いろんなことがわかってきて。で、どんどんギターに興味が出てきて、結局20本ぐらい買っちゃったんです。ここにもありますけどワイゼンボーンとかリゾネーターギターとか、いろんなタイプのギターを。オーディオやカメラもそうだけど、結局やってることはいつも一緒なんですよね。

──自分の中で新たなテーマを見つけて一気にのめり込んでいくというのが、ORIGINAL LOVEの活動であり、きっと田島さんの生き様なんでしょうね。でも、そうやって勉強して王道を押さえつつ、物事を求道していくけど決してご本人は王道にならないというか。

ああ、うんうん。確かにそうかもしれない(笑)。

──言ってみたら田島さんは誰もが知ってるヒット曲を持つ大御所アーティストじゃないですか。そんな田島さんが今作みたいな好奇心に満ちたアルバムを作ったことがすごく興味深くて。僕はORIGINAL LOVEの歴史を知っているので、いろいろ経てこの音にたどりついたんだと解釈しますけど、例えばORIGINAL LOVEのことをまったく知らない若いリスナーがなんの情報もなくこの作品を聴いたら、何歳の人がいつの時代に作ったのかわからないと思うんです。もしかしたら20代の人がやってるバンドだと思うかもしれないし。

それは非常にうれしいことですね。今回のアルバムは新しいサウンドを心がけて作ったところもあるんだけど、その一方で、自分がやってきたことをそのままやってるだけみたいなところもあるんです。1つ言えるのは、ORIGINAL LOVEっぽい音を最近すごくやりやすくなったんですよ。

──それは、どういうところから感じるんですか?

みんなが聴いてくれるような状況になったっていう。前作の「ラヴァーマン」を出した頃とは明らかに状況が変わっていて。今は音楽的なクオリティを追及している若いバンドがいっぱい出てきて、自分のやってきた音楽がすごくやりやすくなった気がするんです。そういう状況だからこそ今回は、「ORIGINAL LOVEがやらなきゃ誰がやる?」というようなサウンドを突き詰めていこうと思って。それが結果的に今の時代のムードとシンクロして若々しく響いているのであれば、自分にとってすごくラッキーなことだと思いますね。

「LOVE JAM」が新作にもたらした影響

──今回アルバムを作っていく中で、最終的な着地点みたいなところは、ある程度見えていたんですか?

田島貴男

アレンジやサウンドのバランスとか、全体の音の景色の配合と言ったらいいのかな。それはけっこう考えましたね。今回のアルバムはジャズからの影響が非常に強いですけど、僕はジャズマンじゃなくて、ロックとかポップスの人間だから。そういう人間が作る、ジャズの影響を受けた音楽みたいなものは意識しました。先生に付いてジャズギターを習うようになって、ここ数年でコードのことがようやくわかってきたんです。だから今回ジャズ的なコード理論を取り入れて作った曲もあるし、その一方でロックのパワーコードだけで作った曲もあって。今の時代の音楽を僕なりに意識しながら、サウンドの配合を整えていったんです。あとは「LOVE JAM」という対バンイベントを4年前から始めたこともやっぱり大きくて。

──「LOVE JAM」ではceroやnever young beachといった下の世代のバンドとも積極的に共演していますね。

僕はそれまで、ほとんどワンマンでしかライブをやったことがなかったんです。フェスとかに呼ばれれば、もちろん出演してたけど、自分が音楽的に共感するようなアーティストと対バンする機会が全然なくて。それで、「LOVE JAM」というイベントを自分で立ち上げたんです。そこからいろいろな交流が生まれて。「LOVE JAM」で知り合ったアーティストの曲を聴いたり、ライブに行ったりすることで得たインスピレーションっていうのは、もちろん今回の作品に反映されてると思いますね。