昨年12月でデビュー5周年を迎えた大原櫻子が初のベストアルバム「CAM ON!~5th Anniversary Best~」を3月6日にリリースした。
2013年に映画「カノジョは嘘を愛しすぎてる」の劇中バンド・MUSH&Co.のボーカル小枝理子名義で女優およびアーティストとしてデビューを果たした大原。その後はソロ名義でシングル9枚、アルバム3枚をリリースし、多くの楽曲を世に送り出してきた。本作には、そんな5年間の軌跡から彼女自身の年齢になぞらえてセレクトされた23曲が2枚のCDにまとめられている。また、DISC 2のボーナストラックには、MUSH&Co.の楽曲「明日も」「卒業」「ちっぽけな愛のうた」をニューアレンジで新録した「Reprise version」も収録されている。
デビュー以来、その活動を追いかけ続けてきた音楽ナタリーでは今回、これまでにニュースとして扱ってきた数々のトピックをもとに、大原自身にこれまでの軌跡を振り返ってもらうインタビューを実施。今だからこそ明かせる当時の葛藤など、赤裸々に語り尽くしてもらった。
取材・文 / もりひでゆき 撮影 / 藤田二朗
「カノ嘘」ヒロインとしてデビュー
──大原さんのキャリアスタートのきっかけとなった映画「カノジョは嘘を愛しすぎてる」は、ご自身にとってどういうものですか?
あの作品との出会いは非常に大きかったと思いますね。たまたま学校の友達に「カノ嘘」のヒロインに私が似てると言われてオーディションを受けることにしたんですけど、それが結果的に今のお仕事につながったので。ホントに奇跡だったと思います。もう5年以上経ちますけど、あの映画のスタッフさんやキャストの佐藤健さん、三浦翔平さんにはいまだにいろいろアドバイスをいただいたりもするんですよ。そういう意味でも、私にとって大事な作品ではありますね。
──女優として、そしてシンガーとしての一歩を踏み出したとき、未来に向けたビジョンも明確に思い描けていました?
いや、今だから正直に言いますけど、当時は自分の未来がどうなるかはまったくわからなかったんですよね。映画の撮影が終わり、公開されてから半年くらいはほとんどお仕事のお話もなかったので、「これからどうなるんだろう?」という気持ちのほうが大きくて。デビューできたことはものすごくうれしかったけど、逆に言えばその段階では単にデビューしただけという状況でもあったので。「私はこのまま、このお仕事を続けていけるのかな」という不安に似た気持ちはずっとありました。
──デビューを果たしても浮き足立った感じではなかったわけですね。
そうですね。私は性格的に、何か目標を達成したときにはあまり喜びを感じすぎないようにするタイプなんですよ。1つのゴールを経験したら、そこが新たなスタートだと常に感じるようにしているんです。だからデビューできたことに甘えすぎちゃいけないという気持ちも強かったんだと思います。
女優とアーティストの両立本格化
──翌2014年6月には“大原櫻子(from MUSH&Co.)”名義でシングル「頑張ったっていいんじゃない」のリリースがありました。次の動きが決まったことへの喜びは大きかったのでは?
うれしかったですね。ただ、それ以上にビックリする気持ちもあって。私はずっと女優になりたいという夢を持っていたから「カノ嘘」のオーディションも受けることにしたんです。だからアーティストとして改めてCDを出すことへの驚きがあって。「え、出せるんだ!?」っていう。
──とは言え、演技への憧れと同じくらい歌への思いも強かったわけですよね。
もちろん、もちろん。「カノ嘘」で私が演じた(小枝)理子ちゃんは歌うことが死ぬほど好きな女の子なんですけど、私の中にもその気持ちは同じくらいありましたから。歌唱力うんぬんではなく、「とにかく歌が好きなんだよね」という気持ちが誰よりも強い自信は今もあります。
──当時のインタビューでは、ご自身の中での演技と歌のバランスは50/50だとおっしゃっていました(参照:大原櫻子(from MUSH&Co.)「頑張ったっていいんじゃない」インタビュー)。
そこは今も変わらないですね。ただ、今の私はときどき作詞をすることはあるけど、基本的には楽曲を提供していただいているので、それぞれの曲の世界の中での主人公を自分なりに演じている感覚もあって。そういう意味では女優とアーティストはまったく別のお仕事というわけではなく、深くつながったものだなと思ったりもしていますね。
──この年にはフリーライブやテレビ出演、学園祭ライブなど、人前でパフォーマンスする機会も増えました。
前年末ですが、私の中で一番印象に残っている出来事はテレビの生放送初出演ですね。「FNS歌謡祭」でmiwaさんと一緒に「don't cry anymore」を歌うことになったんですけど、私は「カノ嘘」の役作りのために初めてアコースティックギターを弾き始めたんで、その頃はギターを弾きながら歌うのがとにかく難しくて。放送前に事務所で必死に練習したんですけど、全然できない自分に対してのいらだちがどんどん募っていくっていう。本番では大先輩であるmiwaさんと一緒に歌う緊張感もありましたからね。たぶん人生で一番緊張した日だったと思います(笑)。
──今もテレビの生放送は緊張します?
もちろんしますよ! でも最初の「FNS歌謡祭」に比べたら……ちょっとは慣れたかも(笑)。
──同年11月には大原櫻子名義でシングル「サンキュー。」をリリースして、ソロアーティストとしての本格的なスタートを切りました。
今振り返ると、このときもちょっと戸惑ってたかなあ。大原櫻子としてライブをするようになっても、お客さんから「理子ちゃーん」と呼ばれることがホントに多くて。もちろん私が演じた役を愛してくださるのは本当にうれしいんですよ。でもその反面、自分の中にはちょっと悔しい気持ちもあったんです。どこか理子という役に負けている感覚があって。当時、共演した佐藤健さんとかにその葛藤を相談したりしてましたね。「役名で呼ばれるとちょっとモヤモヤするんですよねえ」みたいなことを。
──へえ。当時もインタビューさせてもらってますけど、そういった発言はしていなかった気が。
うん、してないですね。表にはなかなか出せなかったというか。アーティストとしてはまだ右も左もわからない状況でもあったので、自分というものをあまり表現できていなかったのかもしれないです。
──でも、そういった葛藤があったことで、演じた役柄に負けないようにアーティスト・大原櫻子としての個性、アイデンティティを確立しようという気持ちが強まったところもあったんじゃないですか?
そうですね。「サンキュー。」をリリースした時点ではホントにどうしたらいいのかわからなかったから、プロデュースをしてくださった亀田(誠治)さんをはじめ、スタッフの方々に頼るしかないなっていう気持ちだったんです。初めてのアルバムを作る段階になって、自分の個性みたいなものを強く意識するようになっていったと思います。
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2015年 目まぐるしい10代最後の日々