今年2月に再結成することを発表し、7月に東京・新宿LOFTで復活ライブを行ったNUMBER GIRL。8月16日の「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2019 in EZO」のステージで大観衆に向けて復活をアピールする予定だったが、台風接近による悪天候により中止に。8月18日に東京・日比谷野外大音楽堂で行われた「TOUR『NUMBER GIRL』」初日が再結成後2回目のライブとなった。このツアー初日の模様が、9月29日(日)20:30からWOWOWで放送される。
音楽ナタリーでは、筋金入りのナンバガファンである映像作家の竹内道宏にこのライブのレビューを依頼。10代の頃からNUMBER GIRLを愛し続ける竹内がチケット争奪戦を勝ち抜き、日比谷野音で見たものとは。たっぷりとあの日の光景をレポートする。
※このレポートには演奏楽曲名、セットリストに関する記述が含まれています。あらかじめご了承ください。
文 / 竹内道宏 撮影 / 菊池茂夫
都会の中枢、午後5時。開場前、キャパシティを明らかに超えた人数の観客が日比谷野音に集まっている。会場からの音漏れを聴きに訪れた人も多く見られ、チケットはなくとも少しでも同じ空間を味わいたい、この伝説の時を逃したくない──そんな熱い期待が伺えた。
赤いテレキャスター。隣にジャズマスター。その並びを見るだけで心が震える。向井秀徳(G, Vo)、田渕ひさ子(G)、中尾憲太郎 45才(B)、アヒト・イナザワ(Dr)のメンバー各々が2002年のNUMBER GIRL解散後もそれぞれの活動や解散前に発表した作品を通して多くのフォロワーを生み出した。第一線で活躍している数々のアーティストがその影響を公言している。
このバンドがいなければ、その後、あのバンドもあの楽曲も生まれなかったかも知れない──ロックの歴史はその連続だろう。その中でもNUMBER GIRLは青春の焦燥感や都会の閉塞感を鋭くとがったサウンドで切り取り、夕暮れや都市など誰もが見たことのある情景に特別な感慨をもたらし、ロックに新たな切り口を見出した。
さあ、あの音が、いよいよ17年ぶりにこの頭の中に響くときが来た。定番の登場SE、Televisionの「Marquee Moon」が流れると会場がどよめく。大きな歓声を浴びる中、ひと言も発することもなく向井はテレキャスターを勢いよくかき鳴らす。
「復活の野音の記念すべき1曲目は?」と多くのファンが予想しただろう。それを軒並み裏切るように、演奏は意外な「大あたりの季節」で始まり我々に“大はずれ”を打ち出す。
「お久方ぶりぶーり!」と連呼する向井。「ぶりぶり」を擬音っぽく強調するが、「それではいってみましょう、ア~クション!」の合図から中尾が奏でる重低音こそが、本当の「ブリブリ」だ。「鉄風 鋭くなって」で轟くルードかつ直線的なベースは、腹を殴りにかかる強烈なサウンドだ。音漏れを聴きに来た人たちにより会場外からも歓声が聞こえ、広々とした日比谷野音のサラウンドのスケールをさらに付け足す。
「福岡市博多区からやって参りました、NUMBER GIRLです。ドラムス、アヒト・イナザワ」。お決まりの挨拶が告げられると、アヒトの飛び跳ねるようなドラムのビートが炸裂して「OMOIDE IN MY HEAD」が鳴らされる。このイントロの爆発力……決して僕らを“OMOIDE”に浸らせないのだ。あの頃の再現ではなく、解散後も個々でキャリアを重ねてきた彼らだからこそ奏でられる音に、思わず感情が高ぶる。
が、そんな感慨は向井のひょうきんなMCでぶった斬られる。村西とおる監督、刑事コロンボ、マルサの女などと若い世代には伝わらないであろうネタを当たり前のようにMCで繰り出し、時折観客を置いてけぼりにする語り口は健在。しかし曲が始まると向井は観客の心をグッとつかんで離さない。「透明少女」は少女が走り出すようなリズムがすがすがしく、40代のメンバーが演奏しているとは思えない青春の煌めきがある。
曲が終わるごとにどんどん日が暮れ、ステージの壁には照明に照らされたメンバーの影が伸びる。「IGGY POP FAN CLUB」はかつて向井が弾いていたギターソロを田渕が担い、ジャズマスターの鮮やかな高音を響かせながら本編は終了した。
アンコールで向井は新たなワンマンツアーの開催を告げ、周囲から歓喜の声が上がる。そんな中、彼らが演奏したのは本編でも披露した「OMOIDE IN MY HEAD」。オーディエンスが拳を力強く突き上げ、会場のテンションは最高潮に達した。続いて都会の喧騒で“翔ぶ”少女を描く「TRAMPOLINE GIRL」、向井いわく「初めてレコーディングした曲」である「トランポリンガール」が鳴らされる。ジャキーンと鋭く研ぎ澄ました刀のようなテレキャスターの音に、メロディアスで切ないメロディを添えるジャズマスターの音。それを地響きのような野太い重低音で躍動するリズム隊が支える。斬られた。返り血は出ない。血は体の中で躍り続けている。
最後は向井が「アピート・イナザワンテ!」などとメンバーを紹介し、ライブは幕を閉じる。拍手が鳴り止まない。立ち尽くす人もいる。NUMBER GIRLが復活した──その余韻から簡単に抜け出せないでいる。
たとえ17年ぶりのライブでも、泣かせるMCも訴えかけるメッセージもない。NUMBER GIRLにそんなものは必要ないのだ。ト書きのように情景を描写した歌詞世界により、聴く人各々の感性で曲の中に生きる少女たちに思いを馳せる。日常に生きたり、殺人的に笑い狂ったり……そこで歌われてきた17歳の少女も、今や34歳になっただろうか。いや、年齢なんて関係ないだろう。目の前で鳴ることで、彼女たちが今も健気に生き続けているように感じられる。そして、日比谷野音というコンクリートジャングルに囲まれたロケーションが、“冷凍都市”を歌うNUMBER GIRLにとってどこかコンセプチュアルで、復活の場としてふさわしいと思った。
2019年、NUMBER GIRLがいる世界に生きている。OMOIDEはIN MY HEADではなく、今、目の前にあるのだ。1995年の福岡市博多区から2019年に舞い戻ってきたバンドが夏を騒(さわ)やかに切り裂いた姿を、放送でぜひ目撃してほしい。
- WOWOWライブ
「TOUR『NUMBER GIRL』 at 日比谷野外大音楽堂2019.8.18」 - 2019年9月29日(日)20:30~
2019年10月28日(月)11:30~
オルタナティブロックシーンに衝撃を与えたNUMBER GIRLが17年ぶりに再結成! 8月18日に東京・日比谷野外大音楽堂で開催された、東名阪福ワンマンツアーの初日公演を独占放送。
関連番組
- 再結成記念特番~OMOIDE OF NUMBER GIRL~
- 2019年9月29日(日)20:00~(※無料放送)
<出演者>
宮藤官九郎 / 山口一郎(サカナクション) / 岸田繁(くるり) / 川谷絵音(ゲスの極み乙女。、indigo la End、ジェニーハイ、ichikoro)
ナレーション:キダ モティフォ(tricot)
17年ぶりに再結成を果たしたNUMBER GIRLの魅力を、これまでの映像作品や、彼らをリスペクトし復活を喜ぶアーティストたちへのインタビューを通して紐解くスペシャルプログラム。