NUMBER GIRLの解散ライブ「無常の日」のBlu-rayとCDがリリースされた。
NUMBER GIRLは2019年2月に再結成し、約4年にわたる活動の末、2022年12月に神奈川・ぴあアリーナMMでのライブをもって再び解散した。このたびリリースされたBlu-rayとCDでは、4回にわたる「透明少女」のパフォーマンスを含む、解散ライブで披露された全31曲の演奏を堪能することができる。
音楽ナタリーでは、Blu-rayとCDのリリースを記念して、ライター・小松香里によるレビューを掲載。再結成後の活動や「無常の日」を振り返りながらNUMBER GIRLというバンドの特異な魅力についてつづってもらった。
文 / 小松香里
17年前の自らを更新した再結成後のライブ
2022年8月13日、NUMBER GIRLが12月11日のライブをもって再び解散することを発表した。「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2022 in EZO」のステージ上での出来事である。2019年2月に発表した17年ぶりの再結成の最大の目的は、NUMBER GIRLにとって思い入れの強い「RISING SUN ROCK FESTIVAL」に再び出演することだった。しかし、2019年は出演を予定していた初日は台風で中止、2020年、2021年は新型コロナウイルスの感染拡大により中止となってしまった。その間、NUMBER GIRLは複数のワンマンツアーを敢行し、フェスにも出演。コロナの影響でいくつものライブが中止もしくは無観客ライブになってしまったが、幸運にも何度かライブを観ることができた自分としては、向井秀徳(Vo, G)、田渕ひさ子(G)、中尾憲太郎(B)、アヒト・イナザワ(Dr)という4人だからこその鋭利で強靭でセンチメンタルなバンドアンサンブルの衰えのなさ──いや、バンドが解散していた17年の間、向井と田渕と中尾は音楽活動に邁進する中で進化し、アヒトはドラムから離れていた時期はあったが、再結成のために仕上げてきたことが伝わる強力なプレイを披露していた。つまり、衰えているわけでも、以前のアンサンブルが再現されているわけでもなく、17年前の自らを更新する最高強度の音像を展開し続けていったのだ。再結成から2度目の解散までの約4年間、NUMBER GIRLは期待を裏切ることなく、むしろ上回る形で、解散前のリスナー、そして再結成の目的の1つであった、解散後にNUMBER GIRLを好きになり、一度も生でライブを観たことのない層に対し、日本屈指のオルタナティブバンドとしての力量を見せつけていった。
そして、12月11日に行われたラストライブ「NUMBER GIRL 無常の日」。神奈川・ぴあアリーナMMの約1万枚のチケットは即日完売。このことからも、解散~再結成の間に支持を広げていったことが伝わる。また本公演の生中継に向けて、スペースシャワーTVの特設サイトではNUMBER GIRLを敬愛するアーティストによるプレイリストが公開され、参加メンバーの中に北村匠海(DISH//)、アユニ・D(BiSH、PEDRO)、崎山蒼志といった、おそらく解散後にNUMBER GIRLを知ったであろう世代が交じっていたことも、NUMBER GIRLの影響力を象徴する出来事だった。
最新のNUMBER GIRLであり、最後のNUMBER GIRL
12月11日、開演時間の17時半。1度目の解散時にはまだ存在していなかったぴあアリーナMMのステージ袖にマスク姿の向井が登場し、どこか愛嬌のある仕草で超満員の場内を見渡すと、客席からは思わず笑い声が上がった。そのライブ前の光景からして、すべてを燃やし尽くすような切迫感が漂っていた2002年の北海道・札幌PENNY LANE24でのラストライブとは大きく違った。向井は一旦ステージ裏に引っ込み、田渕、中尾、アヒトとともに再登場。テレキャスターを持ち、「Are You OK?」と3人に問いかけ披露された1曲目は、1997年にリリースされた1stアルバム「SCHOOL GIRL BYE BYE」の収録曲「大あたりの季節」。向井のシャウトと2本のギターとベースとドラムが重なり、これぞNUMBER GIRL!という痺れる音像が叩き付けられた。向井は軽くギターをつま弾いたあと、「あの子は、例えば透明少女」と口にし、「透明少女」を演奏。星野源がたびたびライブでカバーしてきたことでも知られ、解散期間中にNUMBER GIRLの代表曲としてより認知されていった楽曲だ。さっそく披露されたキラーチューンにオーディエンスは大歓声を上げた。
「皆さん、『NUMBER GIRL 無常の日』にお集まりいただき、本当にありがとうございます。福岡市博多区からやってきたNUMBER GIRLです。ドラムス、アヒト・イナザワ!」という恒例の向井の口上を合図に、アヒトがパワフルなドラミングを披露。この光景を見るのも今日が最後かと思うと、得も言われぬ寂しさがこみ上げてくるが、容赦なく田渕の暴力的なギターソロが轟き、1万人の「オイ!」という掛け声が上がると、「Omoide in my head」に突入。さらに、あの不穏さと郷愁を帯びたギターのメロディが鳴ると、向井は「ヤバイ さらにやばい バリヤバ / 笑う さらに笑う あきらめて」と歌い、「ZEGEN VS UNDERCOVER」へ。念仏のようであり、呪文のようであり、でも心の中に吹き荒む殺風景な風景と共振するような歌詞世界を、4人がハードコアなアンサンブルで具現化する。ゾクゾクするような余韻の中、向井がテレキャスをつま弾きながら「冷凍シティが もはや 冬!」と口にする。中尾の猛るようなベースラインから、ここではないどこかに向かってひた走るべく性急なビートが鳴り、「鉄風 鋭くなって」へとなだれ込んだ。一切の感傷を吹き飛ばす、有無を言わさぬカッコよさ。それが最新のNUMBER GIRLであり、最後のNUMBER GIRLなのだ。正直、これまで観てきた最高のNUMBER GIRLのライブを上回るような強度があり、そのポテンシャルに恐ろしさすら感じた。
8曲目、「今売り出し中の若手バンドを紹介いたします。南無阿弥陀仏の登場だ!」という向井のユーモラスな口上に続いて「NUM-AMI-DABUTZ」が演奏されたあたりから、場内には何やらお祭りのような空気感が漂い始めた。向井はラップのように高速で言葉を吐き出し、焦燥感を高めていく。すさまじい破壊力の「NUM-AMI-DABUTZ」ではアヒトのドラムに対して向井が「早ええ!」とツッコみ、笑い声が上がった。「チビッコサンバでウキウキダンシング!」というユーモラスな言葉を向井が口にし、「CIBICCOさん」へ。コミカルな口上と鋭利で強靭なアンサンブルというコントラストが中毒性を生み、不思議とお祭り感を高めていく。そう、NUMBER GIRLの傾奇者ぶりは、2022年において存分に進化していたのだ。
解散ライブの2日前に出演した朝の情報番組「スッキリ」でも、その約3カ月前にオンエアされた「NUMBER GIRLのオールナイトニッポン」でも、メンバーは曇りのない晴れやかな雰囲気で、とても楽しそうだった。向井は「スッキリ」に出演したのは「最後の想い出づくり」と話していた。そして、ラストライブの中でも山田太一へのオマージュも込めて、2度ほど「想い出づくり」という言葉を口にしていた。2回目のNUMBER GIRLの活動は、コロナによる紆余曲折はあったものの、やるべきことはやり切ったという感覚があるのだろう。
清々しい楽しさが充満した「透明少女」
ぐびっと缶ビールを飲む向井に、たくさんのヤジが飛び、田渕が笑顔でそれを見つめる。彼の「桜のダンスを、おまえは見たか?」という言葉に続けて、4人は「桜のダンス」を演奏するが、途中でストップ。「わたくしが早かったですね」と向井がミスを認めると、オーディエンスが沸く。ステージ上も客席も笑顔が広がる中、「桜のダンスを貴様は見たか?」と新たな口上を展開し、改めて「桜のダンス」へ。続いて、「桜のダンスを踊り狂う、水色ガールのお話をいたしましょう」という口上から「水色革命」を演奏。25年前にリリースされた楽曲が、パワーアップした4人が演奏することで、さらに瑞々しく躍動していく。
「幽霊、死神、見たのは夕暮れ」という口上からの「U-REI」。殺伐としたアンサンブルの中、向井がタバコを1本、2本、3本、4本と口に加え、着火ライターで火を点ける。同じような光景が見られた2020年3月の無観客配信ライブのことを思い出したファンも多いだろう。森山未來がサプライズ出演し、映画作品のようだったあの配信ライブもまた、NUMBER GIRLにしか成し得ないライブだった。続いて、向井がおもむろにゴム人形を取り出し、腕を引っ張り始めた。若干戸惑いを見せる田渕と中尾にもそれぞれ腕を引っ張ってもらう。いくら引っ張っても、人形の腕は伸びては元に戻り、決して千切れはしない。そこには、「解散してもいつか戻ってくる」というメッセージが込められているのかどうなのか。向井の真意は不明だが、その間もずっと「U-REI」の混沌としたアンサンブルは続いており、まさにNUMBER GIRLならではの異空間が広がっていた。
向井が「今日はブレイクタイムがあります。ただし、これは休憩時間じゃないので気を付けろ! 次1曲やってブレイクタイムに突入します。そう! あなたも透明少女になれる!」と口にした。まさかの2回目の「透明少女」が演奏される。ここでもう、NUMBER GIRL2回目の解散ライブには悲しさや寂しさ以上に、清々しい楽しさが充満していったのだ。
結局この日「透明少女」は計4回演奏された。4回目の「透明少女」はアンコールの4曲目。この日最大の地鳴りのような「オイ!」という掛け声が上がる中、NUMBER GIRLのラストソングとして鳴らされた。もちろん解散は寂しい。しかし、ここまで演奏を研ぎ澄ませながらも晴れやかなライブを見せられたら、4年間、最高の姿を更新し続けてくれたNUMBER GIRLに対しての感謝の気持ちで胸がいっぱいになる。諸行は無常だが、だからこそいいのだ。
プロフィール
NUMBER GIRL(ナンバーガール)
向井秀徳(G, Vo)、田渕ひさ子(G)、アヒト・イナザワ(Dr)、中尾憲太郎 48才(B)からなる4人組ロックバンド。1995年に福岡で結成され、地元・福岡でのイベント開催やカセットテープの自主制作などの活動を経て、1997年11月に1stアルバム「SCHOOL GIRL BYE BYE」をリリースした。1999年5月に東芝EMIよりシングル「透明少女」を発表し、メジャーデビューを果たす。以後3枚のオリジナルアルバムと2枚のライブアルバムをリリースし、2002年11月30日に行った北海道・PENNY LANE 24でのライブをもって解散した。2019年2月に再結成し、ライブ活動を行うことをオフィシャルサイトにて告知。8月に東京・日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)で開催した約17年ぶりとなるツアー「TOUR『NUMBER GIRL』」の初日のアンコールで、12月より全国ツアー「逆噴射バンド」を行うことを発表した。2022年8月に出演した「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2022 in EZO」のステージで再び解散することを発表し、12月に神奈川・ぴあアリーナMMでラストライブ「NUMBER GIRL 無常の日」を開催。同ライブの模様を収めたBlu-rayが2023年4月、CDが同年5月にリリースされた。
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