ナタリー PowerPush - 新山詩織

女子高生から“アーティスト”へ 成長途上の横顔

新山詩織の2ndシングル「Don't Cry」がリリースされた。本作には映画「絶叫学級」の主題歌として書き下ろされたタイトル曲、THEATRE BROOKと新山のセッションでレコーディングされた「ありったけの愛」のカバーが収録されている。

オーディションを勝ち抜いて華々しいメジャーデビューを飾ってから3カ月、彼女は今どのような成長を遂げているのか? ナタリー2度目の登場となる今回は、デビュー後の心境やシングルの制作秘話を聞き、アーティストとして歩みを進める彼女の横顔に迫った。

取材・文 / 伊藤実菜子

ゆっくり前に進めてる

──4月に1stシングル「ゆれるユレル」でデビューして約3カ月が経ちますが、心境はいかがですか?

最初の頃は初めてのことばかりだったので、すごい戸惑って頭がごちゃごちゃしてた部分もあったんですけど、今はたくさんライブに出て、人前に出ることが当たり前のように増えて。前よりかはだいぶ、不安みたいなものはなくなったかなあと思ってたけど……やっぱり、今でもちょっとは不安もあります。これから自分がどんなふうになってくのか、まだはっきりわかんないから。でもちゃんと、ちゃんとゆっくり前に進めてると思います。

──「ゆれるユレル」をリリースして、リスナーからどんな反応がありました?

ラジオとかで「ライブ行ったよ」とか「CDいつも聴いてます」っていうメッセージをいっぱいいただきました。お手紙もたくさんいただいたんですけど、その中に自分が中学のときの学校生活と似たような状況にいる子とか、たまにいて。そういう子から「(曲を聴いて)前向きになれてます」っていう言葉があると、ちゃんと届いてるんだなあってすごいうれしかった。

──自分の名前や音楽が確実に広がっていってるという実感が出てきた?

今は、ちょっとずつ出てきたと思います。

──デビューしてから詩織さんには、“シンガーソングライター”や“アーティスト”といった肩書きが増えましたよね。普通の女子高生としての自分と、アーティストとしての自分をどうやって切り替えていますか?

学校から直接(レコード会社に)来ることが多いので、自然に電車の中で切り替わってるんだと思います。電車の中は学校からもちゃんと出て、まだこっちの都内のほうにも来てない、一番何もない時間だと思うから。いつも音楽聴きながら1人で来るんですけど、その間に何かが無意識に切り替わってる気がします。

──確かに言われてみれば、電車って一番フラットな状態と言えるかもしれないですね。では注目を浴びる存在になったことで、普通の女子高生としての感覚が薄れてきてはないですか?

自分は、学校では普通にクラスの1人で。何か偉いわけでも、上にいるわけでもないし。いつも一緒にいる大好きな友達も、みんなあえてかわからないけどあんまり音楽の話に直接触れてこなくて、たまに「最近どう?」ってちょこっと聞いてくれたりして。自分はそれで安心してる部分も多いんですけど。そういう周りのおかげもあって、自分は普通のままでいられてるような気がします。

「たった一言」をキーワードに

──「Don't Cry」は映画のために書き下ろしたそうですが、今までの楽曲とどんな違いがありましたか?

歌詞は少し映画に寄せて書いた部分はあると思うんですけど、いつも思っていることをそのまま書いたので、作詞の感覚にはあんまり違いはなかったです。映画自体がもう、ホラー映画というよりかは学校内での人間関係のほうが大きく描かれてて。自分も学校に通ってる中で、なんとなく言った些細な一言だけで今の自分の立場が一変しちゃうときがよくあるなあと思って……台本を読んで、できあがる前の映像をひと通り観終わったあとにそれをすごい感じたので、その「たった一言」をキーワードにして歌詞を書きました。

──この歌詞は詩織さんが根本的に抱えている、対人関係を難しく思う気持ちが出ていると思います。そういう意味では「ゆれるユレル」の歌詞と似ているのですが、前回お話を聞いたとき(参照:新山詩織「ゆれるユレル」インタビュー)は「歌詞を書くのがすごくつらかった」と言っていましたよね。もう一度ここに向き合うのは大変じゃなかったですか?

「ゆれるユレル」のときみたいなつらさっていうのはあんまりなかったです。つらいとか、キツイとかじゃなくて、ほんとにどうしようもないモヤモヤした気持ちのほうが大きかったと思います。

──「どうしようもない気持ち」というのは?

自分でも普通に言えばいいことを、変にまた考えて考えて、ずっと言えないまま過ぎていって。その言えない自分に対してすごい嫌気が差して、怒りじゃないけど、ちょっとだけイライラしてるような感じがあります。

──ここには、言葉としては出てこないですが「言えないけど本当は言いたい」という思いがこもってるように感じました。

ああ、それはあります。

──でも言って世界が変わってしまうのが怖いから、「言いたい」と「言えない」のループに陥っているというか。

歌詞だけ見るとかなり、暗い感じはありますね。でも曲調はさわやかで明るいし、タイトルは「Don't Cry」なので、暗いだけにはしていないです。

ニューシングル「Don't Cry」/ 2013年7月10日発売 / 1050円 / ビーイング / JBCZ-6002
収録曲
  1. Don't Cry
  2. ありったけの愛
  3. Don't Cry -instrumental-
新山詩織(にいやましおり)

1996年生まれのシンガーソングライター。幼少期より父親の影響でブルース、パンク、ロックを聴いて育つ。2012年、ビーイング主催の新人発掘オーディション「Treasure Hunt ~ビーイングオーディション2012~」に「詩織」名義で出場。オリジナル曲「だからさ」と椎名林檎「丸の内サディスティック」を弾き語りで披露してグランプリを獲得する。同年12月、新山詩織としてアーティストデビュー。2013年4月17日にはサウンドプロデューサーに笹路正徳を迎えたメジャー1stシングル「ゆれるユレル」をリリースした。同年7月10日、映画「絶叫学級」の主題歌として書き下ろした「Don't Cry」を2ndシングルとして発表した。