音楽ナタリー PowerPush - 新山詩織
私の中にいた“絶対”
今春、創作活動の大きな原動力となっていた学校生活を終え、新たなスタートを切った新山詩織。しかしその滑り出しは、喪失感に苛まれ苦悩する日々が続いていたという。今作「絶対」は、そんな状況から抜け出すきっかけとなった1曲。この曲に込めた意志について、新山に話を聞いた。
取材・文 / 伊藤実菜子
一気に空っぽになってしまった
──高校卒業のタイミングにリリースされた1stアルバム「しおり」以来の作品となりますが、卒業後はどのように過ごしていましたか?
学校生活と音楽活動を両立していたときにはなかなかできなかったギターの練習をしたり、ちょっと友達と出かけたりとか。でも、そういう充実した面もあったけど、気持ちの面でいろいろ複雑だった日もあって。それがきっかけで今回の「絶対」もできたんですけど……。
──その複雑な気持ちというのは、資料にある詩織さんの言葉「一日が過ぎていく度に、自分のことがどんどん分からなくなってた」というものですね。
そうです。
──どうしてそうなってしまったんでしょう?
アルバムの発売月が3月だったから、卒業式の次の日からキャンペーンで全国を回ったり、ライブイベントに出ることが続けてあって。4月も自分にとって一大イベントだった初のワンマンライブツアーがあったので、ずっと気持ちが張り詰めてたというか……「よしがんばるぞ!」っていう、ちょっと構えた気持ちで3月4月は過ごしてたんです。でもワンマンが終わって、今までガーッと取り組んでたものがなくなって……こう、ホッとしてしまったのか、なんか一気に空っぽになった感覚になって。そのまんまの状態がずっと続いてたんです。
──空っぽな状態が。
はい。その中で……さっきも言ったようにギター弾いたり、外に行ったり、いろいろしてたことはしてたんだけど。歌詞を書いてみようと思っても、なんか自分が書いた歌詞と思えなかったりして。「自分って今は何を書きたいんだろう」とか、それこそほんと「自分自身ってなんだろう」って考える時間が増えていったんです。
──自分が書いた歌詞と思えない、というのは初めての経験ですか?
はい……今まではもっと自然に、素直に書けていたことが多かったので。あんまりこういうことはなかったと思います。
──そこから今回の「絶対」はどうやって生まれたんですか?
家で好きな音楽を大音量で聴いてたときに、フッと「絶対」の最初の歌詞……「何が怖くて何に怯えてるの 何がそんなに不安なの」っていう言葉が出てきて。そこでたまってたものが急にあふれてきたのか、歌詞と曲が一気にできたんです。それで、だーっと書いた歌詞を改めて見たら「なんだ、今の自分はこんなことを思ってるんじゃないか」って、そのときにぱあっと心が開けた気がして。自分の中にいるもう1人の自分というか……「あんたなら絶対に大丈夫だから」って言ってくれた自分がいたから、この「絶対」っていう言葉が出てきたんだと思います。
甘えてばかりじゃダメだ
──「何を書きたいのかわからない」という状態からはもう抜け出せていますか?
1つ、この曲ができたことで……「絶対」なんてことはなかなか難しいと思うけど、自分の中に絶対に変わらないもの、揺るがないものはあるんだっていうのを、しっかり確信できた気はしてます。だから、今はもう何があっても大丈夫だっていう気持ちです。
──その「揺るがないもの」って言葉にできたりします?
なんだろ……。言葉にするのは、すごく難しいんだけど。でも必ず自分自身をちゃんと立たせてくれてる。こう言うとすごいクサいけど、強い魂というか……塊のようなものは絶対的にある。
──それはシンガーソングライターとしてのプライドみたいなものですか?
それも、あると思います。私は常に強い心を持ってるぞっていう意志のような。
──では空っぽな感覚に陥ってしまったとき、シンガーソングライター生命の危機を感じませんでした?
感じました。それまでは学生生活の中で、友達とのやり取りだったりクラスで席に座ってるときに出てきたものを言葉にしてたから。どうしたらいいかちょっとわからなかったですね、そのときは。卒業したあとは制服を着ない、学生じゃない。もう社会に出てしまったんだから……人に頼ってばかりじゃ、甘えてばかりじゃダメなのにってすごく思ってるんだけど。でも結局そうなっちゃってるじゃん、そうなってたじゃん昨日も、って思い返したり。でも、これは卒業してから日々どこかで感じてることではあります。
──詩織さんは自分に厳しいんですね。
……どうなんだろ(笑)。
──個人的にはこの歌詞から詩織さんのSOSを感じました。
でもこの歌詞には、周りのいろんな人に、今の私はこんな状態だけどそれでもちゃんと……伝えたいこと、あふれてくることはあるんだっていうのを、すごく示したかった気持ちがあると思います。
──では音作りの面で詩織さんがこだわったところはありますか?
歌詞が単純な言葉でストレートなぶん、うしろで鳴ってる音楽はその歌詞を下からぐっと押してくれる、支えてくれるようなイメージで。やわらかいんだけど、そこにビシッとした強さもある雰囲気がいいなあと思って、プロデューサーの笹路(正徳)さんにそうお話しました。
──終盤で複雑な転調をするところが耳に残りました。
ここは、こうするのはどう?ってお話をもらって。最後の「絶対」っていう言葉に向かって強く進む感じが出て、よかったです。
次のページ » 私はこういう人間なんだ
- ニューシングル「絶対」 / 2014年12月3日発売 / ビーイング
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 1404円 / JBCZ-6012
- LIVE盤 [CD+DVD] / 1620円 / JBCZ-6013
- 通常盤 [CD] / 1080円 / JBCZ-6014
CD収録曲
- 絶対
- 分かってるよ
- 絶対 -instrumental-
初回限定盤DVD収録内容
- 「絶対」Music Video
LIVE盤DVD収録内容
1stライブツアー「しおりごと」東京・WWWライブ映像
- ゆれるユレル
- Don't Cry
- ひとりごと
- 今 ここにいる
- だからさ
- ※曲順未定
公演情報
- 新山詩織 アーティストデビュー2周年記念ライブ
「しおりごと ~acoustic version」 - 2014年12月12日(金)東京都 UNIT
OPEN 18:00 / START 18:30
新山詩織(ニイヤマシオリ)
1996年生まれのシンガーソングライター。幼少期より父親の影響でブルース、パンク、ロックを聴いて育つ。2012年、ビーイング主催の新人発掘オーディション「Treasure Hunt ~ビーイングオーディション2012~」に「詩織」名義で出場。オリジナル曲「だからさ」と椎名林檎「丸の内サディスティック」を弾き語りで披露してグランプリを獲得する。同年12月、新山詩織としてアーティストデビュー。2013年4月に笹路正徳をサウンドプロデューサーに迎えたメジャー1stシングル「ゆれるユレル」をリリースし、7月には映画「絶叫学級」の主題歌として書き下ろした「Don't Cry」を2ndシングルとして発表した。2014年2月、女子スキージャンプ選手の髙梨沙羅が出演する株式会社クラレの企業CMソングに4thシングル「今 ここにいる」を提供。3月の1stフルアルバム「しおり」と同時期に高校を卒業し、同年12月に5thシングル「絶対」をリリースする。