スピリチュアルな世界の話なら、もういいや

──「最初に作った曲が見つかった」ということは、その曲がニコニコ動画におけるデビュー曲では……。

ないです。“空中分解”しちゃいましたし。

──空中分解？

ニコニコ動画って動画投稿サイトだからやっぱり曲に動画を付けて投稿したいじゃないですか。だからネットで知り合った絵師さんと動画を作る準備を進めてたんだけど、僕のリーダースキルが足りなかったのか、そのプロジェクトが空中分解しちゃいまして。ニコニコ動画に初めて投稿したのは同じ年の11月に作った次の曲ですね。

──その曲に対する反応は？

まあほぼ無反応ですよね（笑）。1曲目が“空中分解”しちゃったことでちょっとニコ動に対して挫折しかけていて。2曲目は「もう絵を描いてもらったり、みたいなことは期待しないほうがいいのかな？」って感じで、最初ニコ動じゃなくて、音楽系の投稿サイトにアップしてたんです。そうしたら、ある絵師さんが「この曲、めっちゃいいじゃん！」「僕が絵を描くからニコ動に上げようよ」って言ってくれて投稿してみたんですけど、僕とその絵師さんを除くとあとは数人くらいしか聴いてない、みたいな状態でした。

──やっぱり悔しかった？

いや、数人とはいえ、作曲を始めて1年にも満たない上に、2曲しか作ってないヤツの曲を聴いてくれる人がいるっていうのはうれしかったですね。僕、ニコ動に挫折する前にVOCALOIDにも挫折してましたから。

──だから当時は押入れP名義だったわけですもんね。「押し入れに眠っていたVOCALOIDを引っ張り出してきました」という意味で。

そうですそうです。17歳の夏休み頃にVOCALOIDを買ったんですけど、使い方がわからなくて（笑）。ひとまずボーカルのことは置いておいて曲を作り続けて、あとからVOCALOIDを乗せてみたら、なんか曲になったって感じでした。そんな曲を聴いてくれる人がいたのは本当に意外だったし、うれしかったですね。

──ただ、その翌年にはいったん活動休止するわけですよね。

親に「お前、今年受験なんだから音楽辞めろ」って言われて「わかった辞める！」って1年間休止してました（笑）。で、大学受験は2～3月に無事に終わったんですけど、そうなると高校3年生ってヒマじゃないですか。

──授業もほとんどないし。

だから改めて曲を作り始めてみたんです。「ヒマになったしなあ」って。

──それが2011年で、その年にヒットナンバーである「東京テディベア」を投稿した、と。

そうですし、「東京テディベア」の前に作って、やっぱりけっこう再生された「アブストラクト・ナンセンス」も同じ年の曲ですね。

──ということは、1年間のブランクののち「ヒマになったしなあ」ということで投稿した2曲がビッグヒットを記録したわけですよね。

しかも活動休止する前に投稿していた5曲はどれも数百再生だったから、なんか悪い大人が陰謀でも巡らせてるのかな？っていう目で見てました。

──どこの大人がヒマな高校生のために陰謀を巡らせるんですか（笑）。

でもそのくらい現実感がなかったですね。数百再生がいきなり数十万再生になった理由が、今でもよくわかってないですから。別に活動休止以前と再開してからの音楽性が変わったわけでもないですし。例えばテクノポップからバリバリのエモにシフトしたなら「今ボカロシーンではエモが人気なんだな」みたいな分析もできるんですけど……。

──最初期から「アブストラクト・ナンセンス」や「東京テディベア」に通じる“バリバリのエモ”を作ってたからトレンドに乗れたわけでもない。

そうなんですよ。活動休止してたから作曲や楽器がうまくなったわけでもないですし。今もそうなんですけど「いい曲だ！」と思って投稿した曲の再生数が伸びないことも多いので、本当にどの曲がどうしてニコ動で人気になるのかがわからなくて。再生数ってもはやロジックじゃなくてスピリチュアルな何かが動かしているものだと思うんですよね。だからもう科学的にどうこうみたいなことは考えない。「スピリチュアルな世界の話ならわかるわけがないし、もういいや」って考えておいたほうが落ち着くんです（笑）。

僕が書いた曲を広めてくれるなら

──ヒット曲が生まれてから取り巻く状況って変わりました？

buzzGさんとお話する機会ができたり交友関係が広がった気はするんですけど、それ以外は特に……。さっきも言ったんですけど、音楽よりゲームのほうが好きなので（笑）。当時から「CDを出しませんか？」っていうお話はいただいてたんですけど、面倒くさいなあ、って。

──僕はゲームで忙しいんだよ、と（笑）。

だからメールの返事すらしてなかったですね。この間メールを整理してたら、今回アルバムをリリースすることになったNBCユニバーサルエンターテイメントさん……当時のジェネオンさんから、2011年頃にメールが来ていたことに気付いたんですけど、その頃は一切無視していたというか、メールがあったことにすら気付いてませんでした。あくまでゲームの時間を阻害しない範囲で音楽活動をしたかったから（笑）。

──ところが2013年には全国流通盤「世界征服」をリリースしているし、今回はそのNBCユニバーサルからフルアルバム「マイネームイズラヴソング」を発表するわけですよね。

曲を誰かに届けたいっていう欲求が薄い上に、曲のパブリシティをするみたいな発想がないからレーベルさんからのメールを見てなかったんですけど、NBCユニバーサルさんについて言うなら、わざわざ直接会いに来てくれたんです。その上で僕が書いた曲をCDとしてリリースして広めてくれるっておっしゃってくれたから「それならいいよ」って乗った感じですね。