音楽ナタリー Power Push - Neru
若きスタークリエイターの不思議で枯れないモチベーション
言っちゃいけないことを言っちゃいたい
──今の口ぶりだと、レーベルが直接交渉に来てくれればやっぱりうれしいし、CDをリリースするけど、でもやっぱり「曲を誰かに届けたいっていう欲求が薄い」感じというか……。
そうですね。「ちやほやされたい」から作曲を始めたはずなのに、いざ曲ができあがってみたら実は制作以外のことにはあんまり興味のない自分に気付いたというか(笑)。
──となるとNeruさんはなぜ音楽を作るんでしょう?
悪いことを言ってみたいからですね。
──悪いことって?
自分の中にあるネガティブな感情であったり、誰かに対する悪口であったり、汚い言葉であったり、セクシャルな言葉であったりですね。普段の会話でそういうことを言い出すと嫌われるのがオチなんだけど、音楽の中でならどんなに悪いことを言っても怒られないじゃないですか。「アブストラクト・ナンセンス」や「東京テディベア」を投稿して、多くの人が注目してくれる状況になってからは特に、僕の中にある悪い感情にみんなが耳を傾けてくれていることにモチベーションを感じてます(笑)。
──確かに今回の「マイネームイズラヴソング」を聴いていて、ちょっと露悪的なものは感じました。あえてキツい言葉、ネガティブな言葉を選んで人の気持ちを揺さぶろうとする作家なのかな?って。
いや、誰かの気持ちに働きかけようっていう意識も希薄ですね。本当に子供っぽいノリで言ってるだけなんです。ちっちゃい子供って言っちゃいけないことを大声で言いがちじゃないですか。
──それこそウンコとかチンチンとかオッパイとか。
そうですそうです(笑)。誰に届けるわけでもないし、眉をひそめられるのもわかってるのに、でも言っちゃう。そのノリと一緒で、自分の心の中に深く潜って悪い言葉を見つけてきてはそれを言っちゃいたいだけなんだと思います。
──「言っちゃいたいだけなんだと思います」だとちょっと他人事っぽいですけど。
自分の中にあるネガティブな言葉を探しているときの僕と今の僕ってモードが違う気がするんですよ。歌詞を読み返してみて「僕、何言ってるんだろう?」ってなることもけっこうありますし。今回のアルバムでいうなら「イドラのサーカス」の歌詞とかも、最初の「青い空が汚れて見えますか」ってフレーズ自体、何言ってるんだろう?って感じだし、しかもそこから「裸体になってさ 踊り明かそう」っていうサビにつながる意味とかもよくわからないし(笑)。確か最初のフレーズは、なんかの拍子に思い付いて、いつか歌詞に使おうと思っていたから書いただけで、サビは音楽の中でなら裸になって踊っても怒られないかな、と思って書いただけ。その2つのフレーズにあんまり因果関係や相関関係は見出してなかった気がするんですよね。
──とはいえ、ノリだけでわがままに書いているわけでもない気がします。「世界を壊している」の「青春よ いい加減僕をもう許してくれないか」なんてフレーズは青春時代を過ぎた人なら誰でも心当たりのある言葉でしょうし。
ああ、そうですよね。
──あれっ? やっぱり他人事っぽい。
あくまで僕の中にあった感情を言葉にしただけであって、それがたまたま皆さんの中にもある感情だっただけというか。共感を呼ぼうと思って年齢という普遍的なテーマを選んだわけではないですから。だから僕の曲を聴いて「感動した」「すごく気持ちがわかる」って言ってくださる方を見ると、いっつも「へえ、不思議な感じ」「ラッキー」ってなっちゃうんですよね。
──でも「ラッキー」ではある?
聴いた人が僕の曲を聴いて何かを感じてくれるのはやっぱりうれしいですから。ただそれが第一目標ではないという感じですね。言いたいことを言えたらそれで満足なので。
モチベーションをもたらすのは誰だ
──じゃあ創作意欲って枯れなそうですね。誰かにメッセージを届けることを動機にしていると人気がなくなった瞬間、曲を書く理由がなくなってしまうけど、言いたいことを言えればOKなら、自分を取り巻く状況はどうあれ曲を作り続けられる。
あっ、そのモチベーションの維持の仕方の話って大学時代に教育心理学の講義で教わったんですよ。「アンダーマイニング効果」っていうんですけど。
──なんですか、それ?
例えば空き地で子供たちが毎日野球をしていたとしますよね。で、空き地の隣に住んでるおじいさんは、その子供たちの声がうるさくてしょうがない、と。そこでおじいさんは「元気に外で遊ぶのはいいことだ」って言いながら子供たちが野球をするたびにお小遣いをあげることにするんです。
──はい。
で、おじいさんは最初子供全員に100円ずつ渡すんだけど、徐々にその金額を下げていって。それでもお金をもらっているうちは子供たちも「お金をくれるなら」って野球を続けるんだけど、最後「ごめん、もう君たちに渡すお金がなくなった」って言われると、とたんに「なんでお金ももらえないのに野球をやんなきゃいけないんだよ」と空き地に来なくなってしまうらしいんです。
──おじいさんによって野球をやる理由をすり替えられてしまった、と。
そうそうそう。「楽しいから野球をやる」という自発的なモチベーションが、「お金をもらえるから野球をやる」という外から与えられたモチベーションにすり替わった時点で、そのモチベーションって弱くなるんです。
──お金=モチベーションになると、おじいさんがそれをくれない限り維持できなくなりますもんね。でも外からの評価について、あくまで「ラッキー」という受け止め方をしているNeruさんは……。
モチベーションの下がりようがない(笑)。ヘタすると自分で作ったデモを自分で聴き続けるだけで満足できちゃうかもしれないですから。そんな調子の僕の新曲を楽しみにしてくれている人がいたり、「CDを出しませんか」って声をかけてくれる人がいたりすることについては本当に「ラッキー」だと思ってるんですけどね。
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- ニューアルバム「マイネームイズラヴソング」2015年9月30日発売 / NBCユニバーサル・エンターテイメント
- 「マイネームイズラヴソング」
- 初回限定盤 [CD2枚組] 3240円 / GNCL-1258 / Amazon.co.jp
- 通常盤 [CD] 2160円 / GNCL-1259 / Amazon.co.jp
収録曲
- 世界を壊している
- 人生は吠える
- イドラのサーカス
- アノニマス御中
- ばいばい、ノスタルジーカ
- ハリボテ
- FPS
- 脱獄
- 洗脳
- テロル
- マイネームイズラヴソング
初回限定盤特典CD収録曲
- 再教育
- 世界を壊している
- 東京テディベア
- テロル
- ばいばい、ノスタルジーカ
- ハウトゥー世界征服 [PinocchioP remix]
- かなしみのなみにおぼれる [n-buna rearrange]
- 延命治療 [150P giga orchestric arrange]
- 少年少女カメレオンシンプトム [おさむらいさん rearrange]
Neru(ネル)
ボーカロイドプロデューサー。2009年に作曲活動を開始し、2011年、18歳のときにニコニコ動画に投稿した「アブストラクト・ナンセンス」「東京テディベア」が瞬く間に人気を集め、現在までに累計数百万再生を集めるビッグヒットを記録する。以降「ハウトゥー世界征服」「ロストスワンの慟哭」などミリオン再生級のヒットを連発し、2013年には初の全国流通アルバム「世界征服」を発表。そして2015年9月、NBCユニバーサルエンターテイメントからフルアルバム「マイネームイズラヴソング」をリリースする。