音楽ナタリー Power Push - Neru
若きスタークリエイターの不思議で枯れないモチベーション
フェスノリ嫌いがゆえのグルーヴ感
──トラックについても聞かせてください。もともとの作風もそうではあるんですけど、本当に威勢のいいギターロックを11曲並べましたよね。
今回については特に「言っちゃいけないことを言いたい」っていう思いがあったから、こうなったって感じですね。デモを作ってる段階ではエレクトロニカみたいなクールなトラックも用意してたんですけど、歌詞に似つかわしくないということで全部除外していったんです。この悪い言葉に似合うのはギターロックだろう、って。
──ただこれこそがNeru節なんでしょうけど、“23歳の作ったエモいギターロック”と聞いてイメージするものには収まってはいない。8ビートの曲であれ、四つ打ちの曲であれ、ベースラインやバッキングのギター、ピアノはいわゆる“横ノリ”。ちょっと揺れていて、踊れるものになっています。
あっ、それは消去法です(笑)。というのもフェス的なノリが苦手なんですよ。「なんでみんなして同じビートに乗って、同じ方向を向いて、同じように拳を振り上げてるんだろう?」ってなっちゃって。拳を振り上げたいヤツは振り上げればいいし、指や足で軽くリズムを刻みたいなら、そうやって楽しめばいいじゃんって。
──集団的熱狂は苦手だ、と。
なのでフェスで映えそうなエモいギターロックを作ろうと思っても作れない(笑)。で、結果、みんなが好き好きにノレるビート感を持っている曲、揺れるリズムの曲ができあがっちゃった感じなんです。あと僕の社会的なヒエラルキーが下から2番目くらいだからこういう音になったっていう部分もあるんじゃないですかね?
──へっ!? 10代にして数十万再生を集めるヒット曲を生み出しておきながら、社会的ヒエラルキーは下から2番目なんですか?
僕自身は何も変わってない。当時は普通の大学生だったし、今も「メジャーアーティストだ!」みたいな生活を送ってるわけでもないですから。歌詞にある通り、自分を全肯定できるわけでもない、コンプレックスとかを抱えて暮らしてますし。
──なるほど。で、ヒエラルキーの下から2番目だとなぜこういうアレンジに?
ヒエラルキーの一番下にいたら、もっと暴力的な表現や前衛的な表現に向かった気もするんです。
──パンクロックが労働者階級による反体制的な音楽であるように。
ええ。でも僕はそこまで苦境に立たされているわけでもないし、世の中に対して完全に中指を立ててしまうのもそれはそれで嫌いですから。「僕なりに」ですけど、社会ともそれなりにつながっているつもりだし、普段聴いている音楽にしても売れ線のポップなものだってあるわけですし。ただやっぱりフェス的なノリとか、大学時代でいうならインカレ系のサークル的なノリにはついていけない。だからヒエラルキーはそんなに高くないと思うし、でもまったく社会的ではないかと言われればそうでもない。そういう状態にあるから、さっき言っていただいたように威勢のいいギターロックではあるんだけど、なんかリズムが揺れてる僕なりの形ができたのかなっていう気はしています。
僕の言いたいことを誰かが歌う痛快さ
──歌詞の中に「神様」が頻出するのもそういう感覚の発露だったりします? 神に象徴される大きな存在、それこそ社会とのズレみたいなものは感じつつも、それでも完全に反目したり無視したりすることはできないというか。
そのとき思い付いた言いたいことを言ってるだけなので明確に意識しているわけではないですけど、世間とか社会とかに対して卑屈になりすぎるのは違うよな、とは思ってますね。社会と折り合えない自分に対する愛が強すぎるメンヘラ的なノリも苦手ですし(笑)。
──あはははは(笑)。最後に、やってみたいことってあります?
今回のアルバムの「人生は吠える」っていう曲ももともとりぶさんっていうシンガーさんに提供した曲だったんですけど、これからはもっといろんな方に楽曲を提供してみたいですね。
──あっ、それはちょっと意外です。言いたいことを言えればいいとおっしゃっていたから。
だから逆に提供してみたいんです。「人生は吠える」もそうだったし、たぶん僕は今後楽曲を提供するとなっても言いたいことを歌いたいメロディの乗せるだけだと思うんです。でも、その楽曲って提供を受けたシンガーさんの看板とともに流通するわけですよね?
──当然そうなりますね。
それがすごく痛快だなと思っていて。僕の言いたいこと、それもあまりホメられたことではないことをすごく歌のうまい方が高らかに歌ってくれている状況とか、そのシンガーのファンの方が何かを感じてくれている状況ってきっと愉快だろうなあ、って気がするんですよね。
──なんか意地が悪いなあ(笑)。
だからあんまりオファーは来ない気がします(笑)。
- ニューアルバム「マイネームイズラヴソング」2015年9月30日発売 / NBCユニバーサル・エンターテイメント
- 「マイネームイズラヴソング」
- 初回限定盤 [CD2枚組] 3240円 / GNCL-1258 / Amazon.co.jp
- 通常盤 [CD] 2160円 / GNCL-1259 / Amazon.co.jp
収録曲
- 世界を壊している
- 人生は吠える
- イドラのサーカス
- アノニマス御中
- ばいばい、ノスタルジーカ
- ハリボテ
- FPS
- 脱獄
- 洗脳
- テロル
- マイネームイズラヴソング
初回限定盤特典CD収録曲
- 再教育
- 世界を壊している
- 東京テディベア
- テロル
- ばいばい、ノスタルジーカ
- ハウトゥー世界征服 [PinocchioP remix]
- かなしみのなみにおぼれる [n-buna rearrange]
- 延命治療 [150P giga orchestric arrange]
- 少年少女カメレオンシンプトム [おさむらいさん rearrange]
Neru(ネル)
ボーカロイドプロデューサー。2009年に作曲活動を開始し、2011年、18歳のときにニコニコ動画に投稿した「アブストラクト・ナンセンス」「東京テディベア」が瞬く間に人気を集め、現在までに累計数百万再生を集めるビッグヒットを記録する。以降「ハウトゥー世界征服」「ロストスワンの慟哭」などミリオン再生級のヒットを連発し、2013年には初の全国流通アルバム「世界征服」を発表。そして2015年9月、NBCユニバーサルエンターテイメントからフルアルバム「マイネームイズラヴソング」をリリースする。