ナナヲアカリが1stフルアルバム「フライングベスト~知らないの?巷で噂のダメ天使~」をリリースした。
2016年にNeruの作詞作曲による「ハッピーになりたい」で現在の名義での活動を開始して瞬く間に注目を集め、今年8月にメジャーデビューを果たしたナナヲアカリ。今回のアルバムには「ハッピーになりたい」の新録バージョンやこれまでの代表曲、自身が作詞作曲を手がけた新曲などが収録され、まさに名刺代わりの1枚となっている。
このアルバムのリリースを記念し、音楽ナタリーではナナヲアカリと本作への楽曲提供を行ったNeru、和田たけあき、キタニタツヤによる座談会をセッティング。それぞれの提供曲について、ナナヲアカリというアーティストの個性などをたっぷりと語り合ってもらった。また、特集の最後にはナナヲアカリ本人によるセルフライナーノーツも掲載している。
取材・文 / 須藤輝 撮影 / 曽我美芽
Neruとの出会いは「自分のブランディングをミスった中学時代」
──皆さん、普段から会って話したりしてるんですか?
ナナヲアカリ 私以外の3人は仲良しだよね?
Neru いや、そんなに……。
和田たけあき そうっすね。そんなには。
キタニタツヤ えー、会ってるじゃん。仲良しじゃん(笑)。
Neru でも意外とメシとか行かないじゃん。
──ではまず、ナナヲさんとボカロPの皆さんが出会われたきっかけから伺います。ナナヲさんの音楽的なキャリアのスタートって、インディーズ時代の2016年6月にニコニコ動画に投稿した「ハッピーになりたい」からと捉えてよいですか?
ナナヲ そうですね。カタカナ表記の「ナナヲアカリ」名義としてはそうなりますね。
──この曲の作詞・作曲・編曲はNeruさんです。ということはそれ以前から交流が?
ナナヲ いや、交流らしい交流が始まったのはこの「ハッピーになりたい」からで。「Neruさんに書き下ろしていただけるのであれば……」って、ほとんどダメ元でオファーを出させていただいたんです。というのも、私がVocaloidを好きになったきっかけがNeruさんなんですよ。あの、私は中学時代、自分のブランディングをミスりまして。
一同 ははは(笑)。
ナナヲ それで、まあイジメというほど陰湿なものではなかったんですけど、ハミゴにされ……あ、「ハミゴ」って方言かな? 「ハミ出した子」っていう意味で、要するに無視されたりとかしてて、そのときにインターネットを漁り倒してたんです。で、ちょうどお兄ちゃんが音楽にハマりだしてた時期だったんで、お兄ちゃんのパソコンを勝手に立ち上げて履歴を見てたときに、たまたまNeruさんの「東京テディベア」を聴いて「え? 何これ? カッコいい! 暗い!」みたいな。
──そのお兄ちゃんのパソコンの履歴に、何かいかがわしいものがあったりは?
ナナヲ まあ、健康な男子ですから(笑)。
和田 そりゃあ、あるよね。
Neru それは見なかったことにしてあげてほしいな。
キタニ そのいかがわしいものの中に「東京テディベア」が混じっていた。
一同 はっはっは(笑)。
ナナヲ 言い方(笑)。とにかく、自分がネットで音楽やるなら、自分がネットの音楽にハマるきっかけをくれた方と関わりたいっていうのがあって。それで「誰か曲を書いてほしい人いるかな?」って考えたときに「Neruさんにお願いしてみたい!」ってなったのが始まりです。
「ハッピーになりたい」はナナヲアカリの指標になってくれた曲
Neru 僕は、お仕事として女性の方の楽曲を提供するっていう経験が昔も今もそんなにないし、女性アーティストの曲が持つ女性性に意識を向けることもあまりなくて。特に最初の「ハッピーになりたい」のときは、「ナナヲアカリのキャラクターソングみたいな曲を書いてほしい」っていうオーダーをいただいて。
ナナヲ 「自由に、Neruさんが思うナナヲアカリを書いてください」っていうぶん投げをしたので。
Neru だから、女性性を売りにするわけではないけど、彼女だけが武器にできる要素も少なからず必要だろうなと。ただ、今言ったように経験がなかったので、このアーティストとどう接していくべきなのか悩んだと言うか……なんか、頭の中で「X-ファイル」のテーマみたいなのが流れました。
一同 ははは(笑)。
Neru これはロジックじゃなくて、初めてナナヲアカリという子に会ったときの直感なんですけど、彼女から発せられるオーラみたいなものが、とりあえずマイナスイオン的なものではないなと思って(笑)。その感じを曲にしたのが「ハッピーになりたい」でした。
ナナヲ 「ハッピーになりたい」は、聴いた瞬間に「そう、それ!」ってなりました。「私、ハッピーになりたかったんだ!」って。ただ、「ナナヲアカリはNeruさんの目にはこうやって映ってるんだ」っていうのは納得できたものの、一方で周りの人が思う“ナナヲアカリっぽさ”をそのまま自分のキャラクターとして受け取っていいのか、自分だけじゃ判断が付かない部分もあったんです。だから実は1年半くらい、自分の中で宙ぶらりんになっていたと言うか「これをどうやったらナナヲアカリの曲にできるんだろう?」って悩んでいた曲でもあったんですけど、特にライブで歌ったときに「あ、できる!」と思って。ようやくこの曲を自分の中で消化できたんですね。そういう葛藤も込みで、ある種、ナナヲアカリの指標になってくれた曲です。
──「ハッピーになりたい」は、このアルバムでは「ハッピーになりたい(2018ver.)」としてボーカルを再録してらっしゃいますね。
ナナヲ やっぱりインディーズ時代の、しかも1曲目と今とでは歌声が違いすぎて。エンジニアさんからも歌録りのときに「もう波形からして違うから、ちょっと昔の歌い方に寄せたほうがいいのでは?」みたいな話も出たくらいに。だからずっと録り直したかったんですよ。私にとっての「ハッピー」の質も当時とは変わってきているような気もするし、何より自分が思うように歌えるようになったので。
──それが今おっしゃった「宙ぶらりん」ではなくなったという話にもつながるわけですね。
ナナヲ はい。だからアルバムの制作が決まって真っ先に「録り直したいです!」って言いました。
ナナヲアカリのネガティブさはユーモアになっている
──では、Neruさんの次に関わった方は?
ナナヲ 和田さんですね。「ネクラロイドのつくりかた」(2016年11月発売のミニアルバム)で「マンネリライフ」を書いていただきました。
和田 そっか、この中では俺が2番目になるのか。
ナナヲ 私は根はすごいネガティブでマイナス思考なんですけど、表面上はそうは見えないっていろんな人に言われるんです。だからめっちゃポップで明るいのに、よくよく見ると「なんてかわいそうな子なんだろう」「ダメな子なんだろう」ってなるような楽曲が自分にハマると思っていて。そういう曲を書いてくれそうな人を探してたら和田さんに行き当たり、もう「和田さんの曲を歌いたい! そして踊りたい!」と声をかけさせていただきました。
和田 踊りたいんだ? あのクソ速い曲で(笑)。
ナナヲ 「暴れたい」かな? それで、Neruさんのときもそうだったんですけど、私は曲を書いていただく方とは絶対にじっくりお話しする機会を設けてるんです。そこでナナヲアカリという人間をよく知ってもらい、その印象を曲に落とし込んでほしくて。
和田 たぶんそのときには、もうNeruさんからの流れがあったから曲作りの過程のベースはできてたんだよね。
ナナヲ うんうん。
和田 そのとき僕が感じたのは、アカリちゃんは内面にネガティブなものを抱えつつも、それがユーモアになってるのかなって。僕はちょうどその頃、ユーモアのある音楽をやってる人って、実はだいぶ少ないなって思ってたんですよ。例えばエモい音楽やってる人はずっとエモいまま、みたいな。でも、そこにもっとおふざけの要素があってもいいんじゃないかと。で、ナナヲアカリならそれができると思って、声をかけてもらったときはすごいうれしかったですね。
キタニ そこでなぜか僕が「マンネリライフ」でベースを弾かされてたっていう。
和田 そうそう。って言うかキタニが「ナナヲアカリが好き」って言ってたから。
キタニ そうか。それで、和田さん優しいから「弾かせてあげるよ」っていう流れだ。
ナナヲ それを私も小耳に挟んでと言うか、キタニくんはそれこそライブに遊びにきてくれたんだよね。で、「マンネリライフ」のベースも弾いてくれたし、こんにちは谷田さん名義のボカロ曲も聴いて「かっこいいっすね」ってオファーさせてもらったら、私と同い年で。
キタニ 当時はハタチとかだったよね。
ナナヲ それまで私と関わってくださった作家さんは皆さん年上で、つまり同い年の作家さんはキタニくんが初めてだったから「わーい」って思って。しかもすごいしっかりしてるし……まあ、仲良くなってみたらそんなにしっかりはしてなかったんですけど(笑)。
一同 ははは(笑)。
ナナヲ でも、今でもキタニコンプレックスはあるんですよ。
キタニ それ、いつも言ってるけどわからないんだよ。
ナナヲ だって、同い年なのになんでもできるから。っていうふうに私の目には映ってて、だからキタニくんの曲を歌うたびに「こんちくしょう!」みたいな気持ちになります。なんの話だっけ? そう、「マンネリライフ」のベースがきっかけで曲を書いてもらったんだよね。
キタニ 僕はオファーをもらって「やったー!」っていう感じだったんで、最初の打ち合わせの日までめっちゃ準備をして「ナナヲアカリで俺がやりたい音楽一覧」みたいな、30曲ぐらい入ってるプレイリストを作って。で、たぶんNeruさんと和田さん相手にもやったであろう、ナナヲアカリが自らの人生を振り返るコーナー……。
ナナヲ 私が一方的に語るやつね。
和田 そのコーナーあるよね。
キタニ そのコーナーに入る前に、まず自分のプレゼンを挟んだっていう。
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アカリちゃんに“書かせてもらった”部分はかなりある
- ナナヲアカリ「フライングベスト~知らないの?巷で噂のダメ天使~」
- 2018年10月3日発売 / Sony Music Associated Records
-
初回生産限定盤A [CD+DVD]
3780円 / AICL-3555~6 -
初回生産限定盤B [CD+DVD]
3456円 / AICL-3557~8 -
通常盤 [CD]
2970円 / AICL-3559
- CD収録曲
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- ダダダダ天使
- ハッピーになりたい(2018ver.)
- マンネリライフ
- ハノ
- 眠らない街、眠りたい僕
- お釈迦になる
- なんとかなるくない?
- kidding
- 妄想ハッピーエンド
- ワンルームシュガーライフ
- 一生奇跡に縋ってろ
- ひとりごと
- インスタントヘヴン feat. Eve
- んなわけないけど
- メルヘル小惑星
- 初回生産限定盤A DVD収録内容
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ナナヲアカリはじめてのとうめいはん「♡(いいね)」収穫ツアー@渋谷WWW 2018.3.5
- ドッペルアリー
- んなわけないけど
- ハッピーになりたい
- 一生奇跡に縋ってろ
- 東京秒針
- ハノ
- Yunomi×ナナヲアカリ Special Mix(キラキラキライ / マンネリライフ / 事象と空想 / オバケのウケねらい)
- プラネタリー・メッセージ
- ギヴミー「♡(いいね)」!!ドル活☆DAYS
- 私の中の痛い子さん
- ダダダダ天使
- インスタントヘヴン feat. Eve
- メルヘル小惑星
- ビビっちゃいない
- 初回限定盤B DVD収録内容
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MUSIC VIDEO
- ハッピーになりたい
- ビビっちゃいない
- ディスコミュ星人
- マンネリライフ
- 私の中の痛い子さん
- 一生奇跡に縋ってろ
- ダダダダ天使
- んなわけないけど
- メルヘル小惑星
- ドッペルアリー
- インスタントヘヴン feat. Eve
- ワンルームシュガーライフ
- ツアー情報
ナナヲアカリフライングツアー ~こんにちは!巷で噂のダメ天使~ -
- 2018年10月26日(金) 広島県 HIROSHIMA 4.14
- 2018年10月28日(日) 福岡県 INSA
- 2018年11月4日(日) 大阪府 心斎橋FANJ
- 2018年11月8日(木) 東京都 WWW
- 2018年11月23日(金・祝) 愛知県 ell.SIZE
- ナナヲアカリ
- 2016年にニコニコ動画でNeruの作詞作曲による「ハッピーになりたい」を発表し、現在の名義での音楽活動をスタート。同年9月には東京・原宿の古着店「Business As Usual」にて通販限定、CD付きの“1stTシャツ”「しあわせになりたい」を発売した。2018年8月にテレビアニメ「ハッピーシュガーライフ」のオープニングテーマを含むシングル「ワンルームシュガーライフ / なんとかなるくない? / 愛の歌なんて」でメジャーデビュー。同年10月に1stフルアルバム「フライングベスト~知らないの?巷で噂のダメ天使~」をリリースした。これまでに動画投稿サイトで公開した映像の再生回数は累計3000万再生を突破している。また2016年1月からはテレビ東京系「ロック兄弟」のMCを務め、2017年上演の舞台「Fate/Grand Order THE STAGE -神聖円卓領域 キャメロット-」ではマシュ・キリエライト役を演じるなど、音楽活動以外にも活躍の場を広げている。
- Neru「CYNICISM」
- 2018年3月28日発売 / NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
-
初回限定盤 [CD2枚組+DVD]
3240円 / GNCL-1277 -
通常盤 [CD]
2160円 / GNCL-1278
- Neru(ネル)
- Vocaloidプロデューサー。2009年に作曲活動を開始し、2011年、18歳のときにニコニコ動画に投稿した「アブストラクト・ナンセンス」「東京テディベア」が瞬く間に人気を集める。主に鏡音リン・レンを用いて楽曲制作をしており、「ロストワンの号哭」「命のユースティティア」など100万回以上の再生数を誇る楽曲を多数投稿してきた。2013年3月には初の全国流通アルバム「世界征服」を、2015年9月にはフルアルバム「マイネームイズラヴソング」を発表。2018年3月には「脱法ロック」「病名は愛だった」といった人気曲を収録したフルアルバム「CYNICISM」をリリースした。
- 和田たけあき「かおなしスタンプ」
- 2018年9月26日発売 / U&R records
-
[CD]
1620円 / DUED-1253
- 和田たけあき(ワダタケアキ)
- 初音ミクを使用したVocaloid楽曲「くらげ」を2010年4月にニコニコ動画に投稿して以降、「くらげP」「和田たけあき(くらげP)」といった名義でオリジナル曲を発表し続ける。またギタリストとして古川本舗やこゑだなど、さまざまなアーティストのライブやレコーディングに参加。2016年2月に公開した楽曲「チュルリラ・チュルリラ・ダッダッダ!」はYouTubeで1千万再生を突破している。2018年3月にはVocaloid曲で構成されたオリジナルアルバム「わたしの未成年観測」を、9月にはセルフボーカルアルバム「かおなしスタンプ」をリリースした。
- キタニタツヤ「I DO (NOT) LOVE YOU.」
- 2018年9月26日発売 / Emo, Alternative & Cool.
-
[CD]
2300円 / EAC-0004
- キタニタツヤ
- 2014年5月に「こんにちは谷田さん」名義でニコニコ動画にVocaloid楽曲「鯨と水星」を投稿し、音楽活動を開始。以降多数の楽曲を発表して注目を集めている。キタニタツヤ名義でもベーシストや作曲家、編曲家として活躍しており、2018年からはバンド形式でのライブ活動も開始。同年9月に初の全国流通盤となる1stアルバム「I DO (NOT) LOVE YOU.」をリリースした。