ナタリー PowerPush - 森山直太朗
「自由の限界」ツアーWOWOW放送直前 “我”を見つめる
森山直太朗の曲作り三原則
──直太朗さんが曲作りにおいて心がけている、三原則があったら教えてください。
そうですね。まず1つは“自己模倣しない”。
──自己模倣とは?
それが詞先にせよ曲先にせよ、自分が前に作ったような感覚、知ってる感覚のものは極力遠ざける。長年やってると、手癖とか自分の好みとか趣味嗜好って絶対あるから、偏ってっちゃったりもするんですけど、基本的には自己模倣しないっていう。俺はそうやって注意払ってても、人から「あの曲とそっくりだね」とか「これ好きだねー」って言われますからね。何か手放せないものがあるのかな、こうやったらみんな喜んでくれるかな、とか、わかんないけどなんか何かの弱さによって自己模倣の成分が歌に紛れちゃうみたいで。逆に、あえてやるんだったらそれなりの理由がないとそういうのは成立しないと思います。
──ほかにはありますか?
あと、“作る”っていう行為から極力離れる。“作ってる”っていう行為にだまされちゃうんですよね。酔えちゃうっていうか。だから一番の理想は、何かを0から構築したっていうよりも、ただそこにあったものにタッチできたっていうことなんです。
──どういうことですか?
僕たちが意識できてることとか、知識として知ってることって本当にごくわずかなことで。その奥にはびっくりするような暗闇があるし、無限に広がる空間があるかもしれない。普段は極めて人間的な生活の中で、目の前の片付けなきゃいけないことに追われてそういうものが見えにくくなってるけど、ふとした瞬間に、その物が持っているゆらぎや叫びに触れられるっていう。だから曲を作るには、その声をできるだけよく聞く。自分が何を発信したいとかじゃなくて、心の静寂に耳を澄ましてよく聞いてみる。そんなに簡単なことではないと思うんですけどね。
──直太朗さんの作るものって背伸びしてないというか、すごく刺さる詞が多いのはそういう作り方から来てるのかなあと、今話聞いていて思いました。
あんまり考えてないですけどね。でも音楽って放っとくと予定調和になっていってしまうから、できるだけ歌詞の中で嘘をつかないようにしてるかもしれないです。三原則の3つ目はもしかしたらこれかな。
──嘘をつかない。
うん。本当のことはわからないけど、嘘をつかないことはできるじゃないですか。
日々を楽しく生きるには
──今回のライブを現場で観て、開演前のアナウンスも直太朗さんが直々にやられていたことに驚きました。人を楽しませることにすごく気を遣ってる方なんじゃないかなと感じたんですが、そういう意識はありますか?
たぶん「楽しませよう」とか「楽しもう」って思っちゃうと、少しそれっぽい時間にはなると思うんですけど(笑)、そのことにとらわれちゃうんですよね。僕なんかは必死ですよ。だからそんな楽しそうに見えててよかったなあって思うぐらいで。
──そうですね、直太朗さんは日々を楽しく生きているように見えます。人生を楽しむコツって何かあるんですか?
子供の頃って、知識量が少ないから見るものすべてが新鮮ですよね。でも歳を重ねていくといろんなことを知ったような気になる。そのときに、人生ってつまんなくなっちゃうんだろうなって思うんです。
──はい。
僕の場合は、極端に言うと、自分は人間だって認識しているけど人間じゃない可能性だって0ではないんです(笑)。そういう感覚をどっかで持っておきたいんですよね。つまり、自分の中で知識として得てるものも、もしかしたらそうじゃないかもしれないっていう逆さから見る視点。それはすごく大事にしてるっていうか。
──なるほど。
結局、自分に対して興味を持てたり「なんだこれ!?」「ええ!?」って思ってる瞬間って、ものすごくアドレナリンが出てると思うんですよ。だから何かを楽しもうっていうよりも、自分に興味、好奇心、疑問を持つことですね。こう人と交わっていく中で、それを失ったらおしまいだよって思っています。
- WOWOWライブ「森山直太朗コンサートツアー2013~14『自由の限界』~そろそろ本当の俺の話をしようか~」
- 2014年4月13日(日)21:00~
- <放送内容>
- 森山直太朗が2013~4年にかけて行ったツアーから最終公演の模様を放送する。さらに最終公演で発表された謎に包まれた新曲の秘密を解き明かし、本人の素顔に迫るドキュメントも。
収録曲
- そりゃ生きてればな
- どこもかしこも駐車場
- Que sera sera
- 晩秋
- アンジョリーナ
- よく虫が死んでいる
- そのままの殿でいて
- たぶん今頃
- 自由の限界
- 小鳥
森山直太朗(もりやまなおたろう)
1976年東京生まれのシンガーソングライター。フォークシンガーの森山良子の実子で、お笑い芸人の小木博明(おぎやはぎ)は義兄にあたる。2001年3月にインディーズからミニアルバム「直太朗」を発表し、2002年10月にアルバム「乾いた唄は魚の餌にちょうどいい」でメジャーデビュー。2003年3月に発表したシングル「さくら(独唱)」が異例のロングヒットとなり、100万枚を超えるセールスを記録した。また、その後も2008年にリリースされた16thシングル「生きてることが辛いなら」など話題曲を発表。2013年は、4月にアルバム「とある物語」をリリースし、10月から「森山直太朗コンサートツアー2013~2014『自由の限界』」を開催した。