ナタリー PowerPush - 森山直太朗

「自由の限界」ツアーWOWOW放送直前 “我”を見つめる

今回のツアーを表現すると“ハラハラ”

──今回のツアーの雰囲気をオノマトペで表現すると、どういう言葉になります?

森山直太朗

やっぱり、月並みですけど“ハラハラ”っていう感覚ですかね。

──それはどういったところが?

だからハラハラしてるんですよ、常に。ふふふ(笑)。今回千秋楽を映像に収めていただいたんですけど、それを観たら、思ってたより俺、余裕ないんだなっていう(笑)。自分ではそのハラハラももうちょっと楽しめてやれてるのかなって思ってたけど、けっこう表情が固かったりして。だからその自分の中との誤差みたいなものが見れて、撮っていただいてすごい感謝してるんです(笑)。

──いえいえ(笑)。

客観的に自分を見ることっておおよそなかったんで。自分の舞台って自分で見れないじゃないですか。映像では、表情とか目の奥の動きとかもすごかった。勉強になりましたね、本当に。

ライブがやめられない理由

──ライブ中に余裕がないとおっしゃいましたが、直太朗さんって常に客観的な目でその場を見渡してるようなイメージだったんですけど、そうでもないんですね。

いや、そんな余裕ないですよね。無理ですよ。ただ、ライブやってて面白いなと思うのは、やる側とオーディエンスっていう役職や、性別、年齢の垣根が一切なくなる瞬間っていうのがあるんですよ、ごく稀に。それがライブ活動がやめられない理由の1つというか、中毒性だと思います。だから余裕がなくてもわざわざライブをしてその感覚を味わいたいって気持ちは、どこかしらにあるのかもしれないですね。

──具体的にはどういうときにそれが訪れるんですか?

あのー、それいつも認識できないんですよ。つまり僕の中で、舞台がある、歌ってる、お客さんがいる、照明がある……そういうことを考える余裕がなくなるぐらい何かに夢中になってるときです。いい意味で何も見えないっていうこと。それはライブによって、日によって違ったりするんですけど。

──体感的に無心になると。

そうそう。なんか編み物してるときのような、そういう感覚。

──そういった瞬間は、今回のツアーでは多くありましたか?

「森山直太朗コンサートツアー2013~2014『自由の限界』」の様子。

ありましたね。心の中で何か心配してたりするとそういう感覚は遠ざかっていくので、わりと後半に多かったですね。どんどん場になじんできて、自分もみんなも打ち解けてきたときとかに多いです。

──性別も年齢も関係なく音楽を楽しんでいる瞬間って、あらゆる“意味”から開放されているんでしょうね。

そうですね。僕はもともとこだわりとか考えがあまりないから、「この曲に込めた思いは?」とか「メッセージは?」って聞かれると、ひとたびワナワナし出すっていうか急に落ちつきがなくなるんです。それがわからないから音楽を続けてるっていう、しらじらしさみたいものなのは自分の中にあるんですけどね。

──長年やっていてもわからないものですか。

わからないですね。僕が作って歌ってるけど、結局自分で所有してるって感覚がないから。説明しても、その説明はあくまで僕の解釈で、100人いたら100分の1の意見だって思うんですよ。でも僕が発言するとあまりにもそこに集中しちゃうじゃないですか。だって歌ってる本人が言ってるから。いやいや、それは違うんですよって。みんなが共有してるものをたまたま僕は形にしちゃっただけで、我慢できなくなっちゃっただけなんですっていう。僕が曲の意味とかを理由を説明しちゃうと、聴く側の可能性を狭めちゃうんじゃないかなあって思うので、何も考えずに、ただ歌えたら一番いいなって。

WOWOWライブ「森山直太朗コンサートツアー2013~14『自由の限界』~そろそろ本当の俺の話をしようか~」
2014年4月13日(日)21:00~
<放送内容>
森山直太朗が2013~4年にかけて行ったツアーから最終公演の模様を放送する。さらに最終公演で発表された謎に包まれた新曲の秘密を解き明かし、本人の素顔に迫るドキュメントも。
アルバム「自由の限界」 / 2013年12月11日発売 / 3150円 / NAYUTAWAVE RECORDS / UPCH-20335
「自由の限界」
収録曲
  1. そりゃ生きてればな
  2. どこもかしこも駐車場
  3. Que sera sera
  4. 晩秋
  5. アンジョリーナ
  6. よく虫が死んでいる
  7. そのままの殿でいて
  8. たぶん今頃
  9. 自由の限界
  10. 小鳥
森山直太朗(もりやまなおたろう)
森山直太朗

1976年東京生まれのシンガーソングライター。フォークシンガーの森山良子の実子で、お笑い芸人の小木博明(おぎやはぎ)は義兄にあたる。2001年3月にインディーズからミニアルバム「直太朗」を発表し、2002年10月にアルバム「乾いた唄は魚の餌にちょうどいい」でメジャーデビュー。2003年3月に発表したシングル「さくら(独唱)」が異例のロングヒットとなり、100万枚を超えるセールスを記録した。また、その後も2008年にリリースされた16thシングル「生きてることが辛いなら」など話題曲を発表。2013年は、4月にアルバム「とある物語」をリリースし、10月から「森山直太朗コンサートツアー2013~2014『自由の限界』」を開催した。