ナタリー PowerPush - 森山直太朗

「自由の限界」ツアーWOWOW放送直前 “我”を見つめる

4月13日(日)21:00より、WOWOWにて森山直太朗のライブ番組「森山直太朗コンサートツアー2013~14『自由の限界』~そろそろ本当の俺の話をしようか~」がオンエアされる。このプログラムでは、直太朗が昨年から今年にかけて行った全国ツアーより、2月16日に東京・NHKホールで開催された最終公演の模様をオンエア。さらに、この最終公演にて突如発表された新曲の秘密を解き明かし、本人の素顔に迫るドキュメントもあわせて届けられる。

ナタリーでは放送を前に、WEBで一部限定公開されている本人インタビューの模様を拡大版テキストとして掲載する。ツアーの感想をはじめ、ステージに立っているときの心境、曲作りの三原則など、今明かされる“本当の直太朗の話”を堪能してほしい。

構成・文 / 鳴田麻未

僕は作ったものに振り回されてるだけ

「森山直太朗コンサートツアー2013~2014『自由の限界』」の様子。

──まず今回のライブツアー「森山直太朗コンサートツアー2013~14『自由の限界』」についてお聞きします。今回の見どころはどんなところですか?

見どころ……ちょっと待ってくださいね。どういう感じだったか今思い出します(笑)。まあ、ライブって、自分がここでこうしようとかああしようってイメージをそれなりに持っておくんですね。でもやっぱり一筋縄じゃいかないもので。もちろん曲順、構成、メンバー、スタッフはみんな一緒なんだけど、来てるお客さんとか地域とかが違って、結局その日にしかない空気になる。一筆書きのような。特徴があるとしたら毎回そういうライブになってるっていうことですかね。だから胸を張って“ここ”っていうピンポイントな見どころはなくて。全体的な空気感を感じてもらえればいいんじゃないかなっていうふうに思ってます。

──ニューアルバム「自由の限界」からの新曲で、中盤で披露された「よく虫が死んでいる」の入り方が面白くて印象的でした。曲調もすごく攻めてますし。あれはどういうふうに生まれたんですか?

あれは、一緒に曲を作ってる御徒町(凧)が歌詞のプロットを作り上げてきたんです。「よく虫が死んでいる」っていうタイトルで、ただ延々「虫が死んでいる。なぜ虫が死んでいるのか。どうして虫が死んでいたのか」っていうことを切々と歌っている、主人公の不器用さが非常に伝わってくるもので。「こんなん歌にしてもいいのかな?」みたいな感覚だったんですけど(笑)。

──言ってしまえばシュールですよね。

いつだって彼と共作してて楽しいのは、個人的にもまだ触れたことのないフレーズだったり、恋愛ソング、失恋ソング、応援ソングみたいに“何ソング”ともとれないような、おおよそまだ歌われていないだろうという歌詞が生まれてくることですね。だって、ただ「よく虫が死んでいる」って言ってるだけなんですもん、あの人。ダメですよ、そんなの(笑)。だけどその心地の悪さとか違和感みたいなものが、自分を紐解くきっかけになったり、インタレスティングなものになるっていう。そういう曲って、結局ライブを構成していく上ですごくフックになってきたりするんですよね。「ああ、あの曲こんなにポテンシャルあったんだ」「あの曲がこんな化け方をしたか」って僕も思う。それはたぶん、自分たちが形から入る作り方をしてないから。そういう曲ほど伸びしろがありますね。

──ほかにも今回のツアーで「化けたな」と思う曲はありますか?

まあ新曲はおしなべてそうですよね。「どこもかしこも駐車場」「自由の限界」、あと新しいアルバムじゃないですけど「うんこ」とか。そういう曲たちは自分も毎回歌っていて違う景色が見えるみたいな感覚はありますね。それから、ただ弾き語りで作った曲が舞台化されたときに、思ってもなかった照明や映像が加わるのはうれしいです。無理くり曲を成立させようと持ち上げてそうなってるんではなくて、いろんな人のアイデアが足されていって「なんかこんななっちゃったね」みたいなことになったり。「よく虫が死んでいる」も急に踊り出したりして、そこでバンドのリズムだったりアプローチの仕方が少し変わったりね。

──そうですよね。

森山直太朗

曲から発生するものに、いつも振り回されてるっていう感覚はあるんですよね。インタビューでもよく言うんですけど、僕はただ作ったものに振り回されてるだけなんです。「こんなの作っちゃって大丈夫かな。怖い! でもがんばる俺!」みたいな(笑)。ライブではそんなふうに追い込まれてる僕の姿を見て、みんなほくそ笑んでるみたいな、そういうところがライブのよさでもあるんじゃないんですかね。やっぱり僕が追い込まれないと楽しくないでしょ、皆さん。僕が余裕で「どうぞ、ようこそ」なんてやっててもたぶん……(笑)。ほら、ヒーヒー言いながら熱いおでん食べてる人とか見ると楽しいじゃないですか。

──はい(笑)。

そういう感じ(笑)。素のリアクションなんで。それに似たようなものは今年に限らずあるんじゃないんですかね。それは別に苦労とか試練ということではなくて、ただ楽しくてやってるっていう。だから僕はきっと、ちょっと受け身気質なんでしょうね。

──今おっしゃった「作った曲にただ振り回されてるだけ」というのはどういう意味なのか、もう少し詳しく聞かせていただけますか?

「こんな曲が作れた。やったー!」っていう達成感がないんですよ。「こんな得体の知れないものができちゃった。どうしよう」っていう感覚のほうが大きい。なんか、過去にあるようなもの、僕が認識し切れているようなものを作ってもあんまり面白くないんですよ。自分でもわからないものができて、ロデオのように取り扱えもしないのにそこに乗って「わー!」とかってなってる様を見せていくっていうか。でも乗ってるうちに、自分なりに的を射て克服できたりすると、それが1つの成長になるじゃないですか。だから振り回されるものぐらいのほうがちょうどいいんじゃないかなって。自分がコントロールできてしまうものなんかよりも、意外と健康的な表現ができる。全部が全部そうじゃないかもしれないけど、基本的に新しい曲を作るときのモチベーションっていうのはそこにあるんです。

WOWOWライブ「森山直太朗コンサートツアー2013~14『自由の限界』~そろそろ本当の俺の話をしようか~」
2014年4月13日(日)21:00~
<放送内容>
森山直太朗が2013~4年にかけて行ったツアーから最終公演の模様を放送する。さらに最終公演で発表された謎に包まれた新曲の秘密を解き明かし、本人の素顔に迫るドキュメントも。
アルバム「自由の限界」 / 2013年12月11日発売 / 3150円 / NAYUTAWAVE RECORDS / UPCH-20335
「自由の限界」
収録曲
  1. そりゃ生きてればな
  2. どこもかしこも駐車場
  3. Que sera sera
  4. 晩秋
  5. アンジョリーナ
  6. よく虫が死んでいる
  7. そのままの殿でいて
  8. たぶん今頃
  9. 自由の限界
  10. 小鳥
森山直太朗(もりやまなおたろう)
森山直太朗

1976年東京生まれのシンガーソングライター。フォークシンガーの森山良子の実子で、お笑い芸人の小木博明(おぎやはぎ)は義兄にあたる。2001年3月にインディーズからミニアルバム「直太朗」を発表し、2002年10月にアルバム「乾いた唄は魚の餌にちょうどいい」でメジャーデビュー。2003年3月に発表したシングル「さくら(独唱)」が異例のロングヒットとなり、100万枚を超えるセールスを記録した。また、その後も2008年にリリースされた16thシングル「生きてることが辛いなら」など話題曲を発表。2013年は、4月にアルバム「とある物語」をリリースし、10月から「森山直太朗コンサートツアー2013~2014『自由の限界』」を開催した。