ナタリー PowerPush - 中村一義
「最高宝」「魂の箱」「魂の本」 至高の3アイテム同時リリース
1997年のデビュー以来、極上のポップセンスとロックスピリット、そして文学性の高い歌詞によって第一線での活動を続けている中村一義。彼がこの春ベストアルバム「最高宝」と、デモ音源・未発表音源を含む全過去音源のボックスセット「魂の箱」を同時リリースし、さらに語り下ろしの自伝「魂の本 ~中村全録~」も出版した。いわばこれまでの活動をいったん総括しようとしているのだ。
なぜこのタイミングで全活動をまとめようとするのか。そこにはどんな節目があり、どんな心境があるのだろう。そもそもデビューして以来、彼はどんな思いで音楽シーンに接してきたのか。今回のインタビューでは、それらの疑問を彼に直接ぶつけることにした。すると返ってきたのは、彼が次に踏み出そうとしている新しい一歩についての、率直な答えだったのだ。
取材・文/さやわか インタビュー撮影/平沼久奈
活動を総括して、その先に進もうと思った
──今回、なぜこのタイミングで活動を総括しようと思ったのでしょうか?
デビューアルバムの「金字塔」が地元のことを描いたというか、小岩の青年を描いたアルバムだったんですが、最新作の「世界のフラワーロード」で再び地元に戻ってきた。一巡した感覚があったんです。だから今までのものをまとめた上で、その先に進もうと思ったという感じですね。
──「世界のフラワーロード」で一巡するに至ったのはどういう理由だったのですか?
例えばニューヨーク出身のアーティストがニューヨークのことを歌うように、やっぱり僕は小岩で生まれたから、デビュー以来そのことが僕が曲を作るときの根源にある。それを改めて表現したんです。
──なるほど。デビュー当時のことをもう少しお訊きしたいんですが「魂の本」にはAltern8やナゴムレコード、「人生」のような、当時流行だったテクノのジャンル性に興味があったことも書かれていますね。
「人生」であれなんであれ、音楽以外だと芸術集団のフルクサスとかもそうなんですけど、そういう主張の強い表現が好きなんですよね。そういう意味でもなんでもありというか、どれも好きだったんですよ。
──デビューするにあたって、そうでないジャンルの音楽を選ばれた理由はなんだったのでしょうか?
うーん、まあ「THE BEATLESが好き」とか、そういう好みもありましたけどね。でも結局「これしかできないから」っていう理由もありますよね。だからAltern8みたいなものにはならなかったんです。最初はああいう表現でかぶきたかったんですけど、夢破れたんですよ(笑)。それで自分を見つめ直して、こういう音楽でデビューしたという感じですかね。
──デビュー前にあったそういう表現への気持ちは、デビュー後にも自分の中に残っていると思いますか?
そうですね。ああいうアイデアをどうやって「中村一義」に変換して応用できるかなってデビュー当時も考えてました。それは今でもそうで、例えば「魂の本」用の写真とかも、土手で撮影しているんですが、ただの土手じゃなくてちょっと異常な場所を探して撮っているんです。遠くに置いてあるモニュメントがわざわざ頭のあたりに写り込むようになっていたりして、やっぱり何かおかしいんですよ(笑)。そういう意味では、やっぱりカメラマンの佐内(正史)さんの存在はデカいですよね。ちょっとマッドなんです。長い付き合いだからわかるんですけど、たぶんわざとやってるんだと思いますね。撮ってるときに「何か探してるなあ」と思うんですけど、後で見ると「あ、これ探してたんだ」ってわかる。
──ナタリーで最初にこの写真を掲載したときも、「頭の上にあるの、何?」っていう声がありました(笑)。
そう思いますよね、これ(笑)。僕の作品性や曲や歌詞に合わせながら、佐内さんがそういう部分を出しているんですね。
次はまたソロで行こうかなと思っている
──ゼロ年代に入るときも「ERA」というアルバムと「90's」というベスト盤を出されて、いったん活動を総括されましたよね。当時は20世紀とか90年代という時代性を意識した部分もあったと思うんですが、今回はあくまでも中村一義という個人の総括なんでしょうか?
いや、やっぱり時代性も考えていますけどね。でもそれを前に置くか後ろに置くかみたいな違いです。例えば「OZ」みたいなアルバムもそうだけど、時代について語るんじゃなくて、自分たちが行うことの内容によってそれを示す形ですね。自分たちで、時代感というか、時代が持ってる精神性みたいなものを表現する。
──そういう意味では、100sというバンドをやったこと自体が、すごく時代性を反映していますね。ここ10年はロックフェスが流行ったりして、バンドとかライブの価値が再発見されている印象がありますし。中村さんは当時どういう気持ちでバンドを始めたんでしょうか?
まあ簡単に言うと、「ERA」を作り終わってソロでできることをやり尽くしたっていう気持ちだったんですね。そこから音楽の楽しみを新たに見つけていくなら、1人でマエストロ的に作るんじゃなくて、演じるというか出演者になるというか、バンドのメンバーになるのがいいんじゃないかと思ったんです。
──なるほど。バンドの一員になることによって生まれる可能性とは、どういうものだったんでしょうか?
ソロのときは「この音を鳴らす」って、最初から決まってるんですよね。決まってるものをどうやって形にするか考えていくんです。でもバンドでやるときはどんな音にするかを探していく作業になる。プレイにしても何回か弾いてもらって、「あ、これだ」って思うものを探していくんです。結局、どっちでも時間は同じだけかかるんですけどね。
──しかしバンドをやるにしても、例えばスタジオミュージシャンをたくさん招いてレコーディングする方法もあったと思うんですが、なぜ人前に出て歌うこと、ライブをやろうと思われたんでしょうか?
やっぱりソロでやってなかったからっていうのがデカいですね。今までやってないことにチャレンジしてみようっていう気持ちがあったので。ソロではまったくライブやってないですからね。今までやっていなかったことをやって、自分がどこまでやれるのか知りたいっていう意味もあったし。
──ソロのように「やり尽くしてしまう」ことはないんでしょうか?
もともと100sで3枚アルバムを作ろうって話していたんです。だから3枚目の「世界のフラワーロード」が今までの活動としてひとつの到達点ではありますね。あと今年はちょうど100sが結成10年で、僕自身もデビュー15周年目に突入なんです。面白いもんだなあと思って。
──なるほど。今回の総括はそういう節目でもあるんですね。
なぜだか、そうなんですよね(笑)。僕はあんまり年数とか気にするタイプじゃないんですけど、今はデビューしてからのソロの中村一義を終えて、次に100sの表現も一応完成したかなっていうところなんです。だから、ちょっとこの次はまたソロで行こうかなあと思ってるんですけどね。以前とは全然違うものになると思うし。ただ、やっぱり今の自分にとって自然なことをやろうとは考えてますけど。
──バンドを経験した上で、ソロでどんなことができるんでしょうか?
例えば僕はニール・ヤングが大好きなんですけど、彼は最近ツアーでもエレキで弾き語りをしてるんですよね。1人でやるのに、エレキギターなんですよ(笑)。だから最初は「えっ?」て思うんですけど、実際に聴いたり観たりするとすっげえカッコいいんですよ。背後に彼のやってきたことのアーカイブスがすべて見えるんです。ともすればそこにCRAZY HORSEもいるように錯覚するんですよ。だから僕も今総括するタイミングで、そういうことを僕なりにやっていけたらいいなって考えてます。
──過去のバンドも含めた活動をすべて背負って、1人でエレキで表現するというのは、確かにすごいですね。
ええ。ニール・ヤングはすごい次元に立ってるんですよ。そういう発明ってあるんだなあと思って。
DISC 1
- 犬と猫
- ここにいる
- 永遠なるもの
- 主題歌
- 魂の本
- 笑顔
- ピーナッツ
- ショートホープ
- ジュビリー
- ハレルヤ
- 最高(Acoustic Ver.@状況が裂いた部屋)
DISC 2
- キャノンボール
- セブンスター
- 扉の向こうに
- いきるもの
- 希望
- Q&A
- つたえるよ
- モノアイ
- 最後の信号
- 愛すべき天使たちへ(Acoustic Ver.@100st.)
「魂の箱」収録内容
- 金字塔
- 太陽
- ERA
- 100s
- OZ
- ALL!!!!!!
- 世界のフラワーロード
- 未発表/DEMO音源集
- アルバム未収録音源集
- ビデオクリップ集(新曲を含む、これまでのビデオクリップを収録)
※2月28日までの予約限定生産商品
中村一義(なかむらかずよし)
1975年生まれ。東京都江戸川区出身のシンガーソングライターで、1人で作詞、作曲、アレンジ、すべての生楽器を演奏する制作スタイルをとる。1997年1月に「犬と猫 / ここにいる」でデビュー。1997年6月に「金字塔」、1998年11月に「太陽」、2000年9月に「ERA」とオリジナルアルバム3枚をリリース。独特の感性が光る歌詞と繊細なサウンドで人気を博す。2001年、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2001」に出演した際のバンドメンバーが集結し、2002年にシングル3枚およびアルバム「100s」を発表。その後2004年には同メンバーでバンド・100sとしての活動を開始し、現在まで3枚のフルアルバムをリリースしている。