ナタリー PowerPush - 中村一義
「最高宝」「魂の箱」「魂の本」 至高の3アイテム同時リリース
「見えないし、行けない。けど、僕等、今、ここにいる」が
『金字塔』のすべてを集約している言葉だと思うんです。
だから「ここにいる」は母親への手紙なんです。
──一九九七年六月一八日、中村さんの記念すべきファーストアルバム『金字塔』が発売になります。よく「ファーストアルバムには、そのアーティストの本質がすべて詰まっている」という言い方をされますけど、『金字塔』は、その後の中村さんの全キャリアを振り返ってみても、突出して個人的な作品という感じがするんですけど。
中村 そうなんですけど……でも、本当に一番大きかったのは、このとき「個人に寄れば寄るほど表現はポップになる」ということを知ったことなんですよ。世の中を見渡してみれば、僕より悲惨な思いをしている子っていうのはゴマンといるわけじゃないですか? でも、僕にとって「あのときにビートルズがあったから、ちょっとは良かったんだけどな」みたいなものって、必ずあるはずなんです。少しでも「生まれてきて良かったな」って思える瞬間があるだけで生きていけるし、それを発見する能力こそが、現実を変える鍵だと思ってるんですよね。ちょっとでも、ちょっとでも日常が良くなればって。
だから『金字塔』は、そういう鍵になるアルバムになったらいいなと思って、僕にとってのポップをひたすら集めたんです。トッド・ラングレンからビートルズ、宮沢賢治から「銀河鉄道999」まで、もう「俺は機械の身体なんてイヤだ!」って言えるまで、全部集めまくったんです。
──そういう意味では、本当にドキュメントですよね。中村一義という人が二十一年間生きてきて「僕は、もう、これで行くしかない!」「それをどう受け止めるかは、あなたに任せます!」って世の中に宣言したアルバムというか。
中村 「受け取ってください!」という。決死のものでしたからね、やっぱり。
──だから「犬と猫」で始まって「永遠なるもの」で終わる『金字塔』というアルバムは、作り手である中村さんが覚悟を決めているというか、振り返っても後ろがない、とんでもない作品だと思うんですよね。
中村 だから、こんなアルバムの作り方なんて、いま聞かれてもわからない部分があるんですよね。すべてを賭けてたし、それまでの二十何年間っていうのは、このアルバムを作るための充電期間だったし。あと……親に対する自分の存在表明、誇りでもあったし、親への手紙でもあったし。でも、もう二度と会わなくてもいいし……なんか、そういうのが、全部ないまぜになったものではあるんですね、僕にとって。だから、人からは理解されないと思うんですよ。この間も『美味しんぼ』の再放送でやってましたけどね、なんか「そろそろ親に会ったほうがいいんじゃないの?」みたいなことを(笑)。
──海原雄山と山岡士郎ですね(笑)。
中村 もう「余計なお世話だ!」って、こっちは思うんですけどね。それだけが幸せじゃないんだって思いますけど。
──でも、やっぱり『金字塔』の中には、ご両親に対する中村さんのメッセージっていうのをすごく感じるんですよね。歌詞の端々に「僕は、こんなふうになりました」という伝言があるというか、それを伝えようとする意志が見えるというか。
中村 「ここにいる」の「見えないし、行けない。けど、僕等、今、ここにいる」っていう歌詞が、『金字塔』のすべてを集約している言葉だと思うんですよね。だから「ここにいる」っていう曲は、母親への手紙なんですよ。
──うん。
中村 もう逢うことはないけど……ないけど、僕はこうやっているよ、みたいな。まあ、本気だったっていうことですよ。こっちは、いまでも本気なんですけどね。
僕は幼少期からいろんなことを経験してきましたけど、
最後の最後に「人が好きだ!」って大きな声で言えたんです。
本当に幸せもんだなって思いますよね。
──僕は「謎」の歌詞がすごく好きなんです。「歩き続ければ、いつかは会える」っていうのは、もう、ハッキリとご両親のことですよね?
中村 そうですよ。だから会えるっていうのは実際に会えるっていうことじゃなくて、会えなくてもいつかは会える、会わなくたって会えたことと同じだろう? っていう。それが、僕たち三人がひとつの平行線に置かれるときだなあって。やっぱり父親は父親で幸せだし、母親は母親で幸せだし。その平行線に置かれるっていうことが、会えるっていうことなんじゃないかなって思うんですよね。幸せの価値観なんて、人それぞれですから。
でも、そこまで感じないとホントの優しさなんて見えてこないんです。ハッキリ言いますけど、僕は優しい人間だと思いますよ。他人から言われないんで、自分で言いますけど(笑)。むしろ、そういう優しい存在になりたくてやってきたっていうのも、どこかにはあるのかなって思いますよね。
──『金字塔』のラストナンバーは「永遠なるもの」。このアルバムは、当時の中村さんによる「僕は、これで行くしかない!」っていう宣言だったと思うんですけど、最後の最後、中村さんの個人的な気持ちを歌っているような、そうでないような、ものすごい境地にまで行きますよね。
中村 「永遠なるもの」は自分で言うのもなんですけど、いい曲だなあと思って。だからスタッフに「この曲、アルバムに入れていいんですかね?」って聞いちゃったんですよ(笑)。そしたら「全部入れたほうがいいよ」「その次はその次で、できるよ」ってことを言われて「そうですよね!」って全部入れちゃったんですけどね。
──「永遠なるもの」は本当に素晴らしい曲というか、ご本人に面と向かって褒めるのもバカバカしくなるくらい、凄まじい名曲ですよね。
中村 ありがとうございます、国歌にしてください(笑)。でも、ホントに、幼少期からの自分を肯定できる初めての曲だったんで、自分にとっても大きい曲だったなあって。
──ただ、そこで歌われているのは大上段に構えた愛ではなくて、すごく個人的な幸せというか。
中村 だから個人で愛が掴めない者は大きいところでの愛は掴めないし、そもそも「愛されたい」ってなんなんだっていったら「愛されたい人に愛されたい」ってことだと思うんですよね。そうすれば、その愛した人が誰かに愛されて、世の中がワン・トゥ・ワンで作られていくんじゃないかなって思ったのが「永遠なるもの」を作った瞬間だったんですよね。
──すべてを言い切ってる『金字塔』の中にあって、最後の最後、中村さんが「愛が、全ての人達に、分けらてますように」っていう祈り、希望、他人を信じる境地にまでなったのが、本当にすごいと思うんですよね。
中村 いや、実は言い切れることなんて何もないんですよ。このときだって自信もないし。ただ、そうかなっていうものを必死になって信じる。それしかなかったんです。何も成功していないし、デビューするまでの期間はずっと幼少期からの延長ですから、いくらデビューが決まったからって、僕の声が人に届いてるわけではないし……だから、一種の賭けだったんですよね。
『さらば青春の光』じゃないですけど、僕は『金字塔』っていうアルバムの中では一人の偶像になればいいと思ってたんです。それぐらい、そこまでして、この思いを人に伝えたい。その上で、どこかの誰かが「中村くんは私だ」って思ってもらえるんだとしたら、それはどこか? それを究極まで探したんです。共感というか、ストーリーの主人公になれるのはどこだろうって。そしたら、もう、クソもミソも全部出すしかないんですね。「これは言いたくないから」とか「これを言うと痛いから」なんて言ってられないぐらい僕には何もなかったし、そこの部分を出さないと人にはわかってもらえない。もっと言うと、人をいい方向にも導けないし、救うことは絶対できないと思ったんです。
僕は『金字塔』の中で自分のことしか歌ってないんですけど、それによって、もしかしたら僕と同じような人間を、ちょっとはいい方向に導くことができるかもしれない。僕みたいな不幸な人間を作らなくてもいいことになるかもしれない。もうウンザリだったんです。僕は稼ぎたいとか有名になりたいというよりも、そういう不幸な人を一人でも少なくしたいと思ってやってたんですよね。やっぱり、ちゃんと希望は持ってないといけないんですよ。そして、そこまで行くと最後は「本当に人が好きか? 嫌いか?」って話になるんです。僕は幼少期からいろんなことを経験してきましたけど、最後の最後、ようやく「人が好きだ!」って大きな声で言えたんです。本当に幸せもんだなって思いますよね。
──そして『金字塔』は「僕の人生はバラ色に変わった!!」という宣言で幕を閉じるわけわけですけど、これは「俺はデビューできたぜイエーイ!!」っていう単純な喜びの叫びではないですよね?
中村 そうですね。
──だから、ある意味すごく怖いなあ、とも思うんですよ。いまでこそ中村さんはコンスタントにミュージシャンとして活動されてますけど、仮に『金字塔』一枚で終わったとしたら、あの「僕の人生はバラ色に変わった!!」の意味は、まったく違ってくると思うんですよね。
中村 「バラ色に変わった!!」「サヨナラ!!」って。
──「バラ色に変わった!!」と言って消えた伝説の天才ミュージシャン、みたいな。あれは、どういうメッセージだったんですか?
中村 うーん。
──当時「僕の人生はバラ色に変わった!!」っていうのを聴いたとき、絶対この人はそのまんま受け取ってはいないな、とは思ってたんですけど。
中村 皮肉ですもんね。
──それを、そのまま受け取ってる人はバカだっていう。
中村 どうなるかわからないわけですからね。僕自身が幸せかどうかなんて、誰も知らないわけですから。ひとつのアルバム的表現として「僕の人生はバラ色に変わった!!」ってことは言ってますけど、僕自身がどう思ってるかっていうのを探求したときに「そこに、本当に中村はいるのかな?」っていうカラ恐ろしさがあると思うんですよね。でも、アルバムとしてはバラ色に変わったほうがいいですからね。
──いや、本当に中村さんの人生がバラ色に変わったのであれば、それが一番なんですよ。
中村 なかなか難しいですよね。そこでバラ色に全部変わっちゃったら、ホントに僕、辞めてると思うんです、音楽活動っていうものを。だから、どこかバラ色に変わらない部分があったからこそ、そこから増幅されて、その先の音楽活動が始まったと思うんですよ。それで「主題歌」が生まれたと思うんですよね。
──あと『金字塔』のボーナストラックに入ってる“おまけ”。多重録音バリバリのトラックですけど、あれは完全に中村さん一人で録音されたんですか?
中村 いや、あれはフリーダムスタジオっていうスタジオがあって、そこのアシスタントの子たちと『金字塔』を作る中で仲良くなったんですよ。夜にそいつらと飲んでて「じゃあ、これからスタジオに黙って入っちゃおうか」みたいなことになって、それでエンジニアの子とアシスタントの子たちで「俺ダンボール叩くわ」「俺はアコギ弾こうか」って、みんなでセッションしてできた曲なんです。
──でも、曲の前にSEで入っている「いいスか?」「もう録ってます」「あははは」とか言ってるの、全部中村さんですよね?
中村 そうですそうです。
──あれを一人でやってるあたり、ちょっと常軌を逸した感じが「すげぇ怖ッ!」って思いましたけどね。「この人、絶対アタマ頭おかしいよ」って(笑)。でも、いい曲ですよね。
中村 ありがとうございます。すごく楽しかったんですよ。そこでまた、ひとつ自由っていうものがわかったんですよね。ライブでも何回かやってるんです。あれは名曲ですよね。
DISC 1
- 犬と猫
- ここにいる
- 永遠なるもの
- 主題歌
- 魂の本
- 笑顔
- ピーナッツ
- ショートホープ
- ジュビリー
- ハレルヤ
- 最高(Acoustic Ver.@状況が裂いた部屋)
DISC 2
- キャノンボール
- セブンスター
- 扉の向こうに
- いきるもの
- 希望
- Q&A
- つたえるよ
- モノアイ
- 最後の信号
- 愛すべき天使たちへ(Acoustic Ver.@100st.)
「魂の箱」収録内容
- 金字塔
- 太陽
- ERA
- 100s
- OZ
- ALL!!!!!!
- 世界のフラワーロード
- 未発表/DEMO音源集
- アルバム未収録音源集
- ビデオクリップ集(新曲を含む、これまでのビデオクリップを収録)
※2月28日までの予約限定生産商品
中村一義(なかむらかずよし)
1975年生まれ。東京都江戸川区出身のシンガーソングライターで、1人で作詞、作曲、アレンジ、すべての生楽器を演奏する制作スタイルをとる。1997年1月に「犬と猫 / ここにいる」でデビュー。1997年6月に「金字塔」、1998年11月に「太陽」、2000年9月に「ERA」とオリジナルアルバム3枚をリリース。独特の感性が光る歌詞と繊細なサウンドで人気を博す。2001年、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2001」に出演した際のバンドメンバーが集結し、2002年にシングル3枚およびアルバム「100s」を発表。その後2004年には同メンバーでバンド・100sとしての活動を開始し、現在まで3枚のフルアルバムをリリースしている。