ナタリー PowerPush - 中村一義
「最高宝」「魂の箱」「魂の本」 至高の3アイテム同時リリース
バンドでもソロでも表現を追究したい
──オフィシャルサイトの「K.O.S」(KIKA:GAKU Of Seasons)という企画で幅広いクリエイターから作品を募っていますよね。リスナー側と積極的にコミュニケーションを図っているようにも見えますが、あれも、新しい試みのひとつでしょうか。
デビューしてから今まで、ずっと初めてのことばかりで大きなプレッシャーがあったんですけど、先ほども言ったように一巡したところで、自分が持ってる武器みたいなものがはっきりわかったんです。でもそれで安心しちゃうというか、余裕とかゆとりが生まれる感じになるのはちょっと嫌だと思って。だから、今までプレッシャーのためにコミュニケーションみたいなことができなかったから、そこも広げようかっていう気持ちがあるんですよね。K.O.Sでやってることは簡単に言うと作品公募で、そこで出会ったクリエイターの人たちと何か作ることはできないかなあと考えたんです。今回の総括を迎えて、やっとそういうことができるようになった。
──そこで新しい表現の可能性を見出していくんですね。
そうですね。僕の声だけじゃない表現の形を探してる状態じゃないかな。「一緒にやれることあったらやろうよ」っていう。
──それはバンドでほかの人と音楽を作ろうと思ったのと近いんでしょうか?
いや、バンドはまたちょっと違いますね。バンドというのはこちらからリスナーに表現を届ける活動の一環ですから。それとはベクトルの方向が違うんですよね。特に、音楽だけじゃなくてあらゆる表現のジャンルがある中で、それぞれ塀が立ってるばっかりじゃ駄目でしょっていう気持ちがあって。あちこちに拡散しているものに対して、壁を崩していこうとしているんです。
──なるほど。しかしバンドでもソロでもほかのジャンルとのコラボレーションでも、いずれにしても新たな表現の追求という意味合いが強いんでしょうか?
そうですね。表現の追求イコール自分自身の追求みたいな気持ちもあるし。もちろん、それを人に伝えようという気持ちもあるんですけどね。聴いてくれる人あっての音楽だと思うので、それはいつも頭に置いてるんですけど。
──しかし「魂の本」を読むと、それぞれのアルバムにはやはり中村さん自身の人生が強く反映されていることがわかりますよね。今回の「最高宝」ではほかのアーティストの方々が収録曲を選んでいますが、このようにリスナーにそれぞれの思い入れがあることについてはどう考えていますか?
僕はリスナーに聴いてもらってるっていうイメージがすごく抽象的にしかわからないんですよね。聴いてくれている1人ひとりを見られるわけでもないし。でも漠然と「大衆のためのポップス」みたいなものをやっていたつもりはないんですね。1人に向けて作られた音楽なんだけど、その「1人」が何人も増えていくような感覚なんです。だから、ともすればあんまり多くの人には聴いてもらってないみたいなイメージも僕の中にはあって(笑)。そう思うからこそ、作り続けられるんですけど。
──自分の曲を聴いてくれる具体的なリスナー像みたいなものを思い描くことはあるんでしょうか?
あんまり意識しないですね。こっちが「あの人に聴いてもらいたい」と思っても、なかなかそうはならないし。それに、それを目指してしまうと受け取られ方を狭くしちゃって、自分の首を絞めることもあると思うんですよ。そうすると結局はみんなの首も絞めちゃうことにもつながるし。
──デビューするにあたって、さまざまな人がいろんな聴き方をできるポップスというジャンルを選んだのはそういう意味があったんでしょうか?
うーん、ロックンロールでもないけどポップスでもないというか、ロックンロールな部分もあるし、ポップな部分もあるっていうことなんですけどね。どれでもないけどどれでもある「中村一義」という存在としか言えないというか(笑)。
「51:49」の表現
──でも、間口の広いポップスを作ると言えば、例えばわかりやすいラブソングみたいなものを作るという選択肢も一般的にはありますよね。そうではなく非常に個人的なことを反映された曲を作ったのはなぜなんでしょうか。
もちろん普通のラブソングみたいな歌があってもいいとは思うんですけど、僕としては「違う人同士が生きていかないといけないんだけど、違ってもOKだよね」ってことと「で、もちろん同じところがあるから違うとこもあるんだよね」っていうことを言っていきたいんですよね。それをどう表現するかっていう感じなんです。
──なるほど。では「人はそれぞれ違う」ということを伝えるために、まず「中村一義という人はこうなんだ」っていうものを強く主張するんでしょうか?
半分ぐらい出すんですよね。半分は出して、残りの半分は相手のことを考えるっていうか。100あるうちの自分が51で、相手が49ぐらいの感じですかね。それはデビューのときからいつも考えていることですね。
──なるほど。ほんのちょっとだけ自分のほうが出ていて、残りは聴く人に委ねるということですね。
そうです。だから先程の話にもあった時代性とか音楽のジャンルみたいなものも、残りの49の中に含まれてるってことですね。自分を100にしちゃうと、さっき言ったみたいに受け入れられる部分を狭くしてしまうんです。いくらフルで100を出していても、すごく狭くて小さいものになっちゃう。だから自分は51にするんです。それでも「誰かに聴いてもらえてるのかな?」みたいな気持ちはあるんですけど(笑)。なんか買ってすぐ売られちゃってんじゃねえかな、とか。
──(笑)。
まあ、それもしょうがねえな、みたいな。
──そんなことはないと思いますけど(笑)。それから「最高宝」では選曲に参加したアーティストの皆さんが思い思いのコメントを寄せていますが、これも自分が作品を送り出した後にどう聴かれているかの、49の部分を見せたかったということですか?
僕の手を離れた曲が、今回コメントをお願いした方を含めてたくさんの方に聴いてもらっているので、それをもう一度フィードバックするような形で作品が作れたらいいなと思ったんです。シングルを並べたいわゆるベストアルバムを作るよりも、僕の音楽を聴いてくれた人たちと何か作品を作れないかなあっていうことで、発展させていったアイデアですね。
──曲に寄せられたコメントを見てどう思われましたか?
本当にグッと来ましたね。たとえばオリラジのあっちゃんが「クソ」っていう言葉にピンと来てくれてるんですよね。ああいうのは僕の作る歌詞の中ではニュートラルというか(笑)、いつもするような表現なんですが、反応してくれる人がいると再確認させられますね。やっぱり「クソ」だよなって(笑)。
──中村さんの歌詞はすごく個人的な世界を描いているんですが、抽象度が高いためにリスナーが共感できる部分が生まれていると思います。なぜこういう歌詞の書き方を選んでいるんでしょうか?
やっぱりそこも51と49ってことなんでしょうね。僕が言ってることが誰かとつながるというか、色が重なる部分があるからやってる意味があると思うので。あとはまあ、自分の場合はそっちのほうが伝わるかなあって思ってたんですよ。一言だけを言う潔さとか曖昧さによって、それを言っている心情や光景を伝えられる気がしたんですね。何より、自分が言うときにすごく伝えやすかった。逆に考えれば、それしか言えなかったっていうか、それしか書けなかったんです。
──なるほど。しかし例えばバンドでやると、ほかのメンバーの世界がそこに入ってきますよね。自分が表現しようとする色が変わってしまうことはないんですか?
バンドの場合は、僕はほかの5人と1つになるというか、一員になるんですよ。だから6人の中での重なる部分を探していく形になるんですね。それぞれピンクとか黄色とかいろいろ違うんですけど、重ねて違う色を出そうぜ、みたいな。そういう意味でバンドで得たことはやっぱり大きいと思うんです。作品を作りながら、違う部分は決定的に違う、同じ部分はすぐに力にできるっていうことに気づいていったのは、自分にとってすごくプラスになってるなって思います。
──ライブ会場にはお客さんの色もありますしね。
お客さんも一緒にライブを作ってるっていうことですよね。さっきの話で言うと、コメントをいただいた皆さんを始めとするリスナーの皆さんだって、100sっていうバンドと同じく、僕にとってのCRAZY HORSEなんですよ。ソロをやるのでもライブをするのでも、そう思えるうれしさがありますね。そういう部分に、まだまだ面白いことがあるんじゃないかなあと思ってます。
DISC 1
- 犬と猫
- ここにいる
- 永遠なるもの
- 主題歌
- 魂の本
- 笑顔
- ピーナッツ
- ショートホープ
- ジュビリー
- ハレルヤ
- 最高(Acoustic Ver.@状況が裂いた部屋)
DISC 2
- キャノンボール
- セブンスター
- 扉の向こうに
- いきるもの
- 希望
- Q&A
- つたえるよ
- モノアイ
- 最後の信号
- 愛すべき天使たちへ(Acoustic Ver.@100st.)
「魂の箱」収録内容
- 金字塔
- 太陽
- ERA
- 100s
- OZ
- ALL!!!!!!
- 世界のフラワーロード
- 未発表/DEMO音源集
- アルバム未収録音源集
- ビデオクリップ集(新曲を含む、これまでのビデオクリップを収録)
※2月28日までの予約限定生産商品
中村一義(なかむらかずよし)
1975年生まれ。東京都江戸川区出身のシンガーソングライターで、1人で作詞、作曲、アレンジ、すべての生楽器を演奏する制作スタイルをとる。1997年1月に「犬と猫 / ここにいる」でデビュー。1997年6月に「金字塔」、1998年11月に「太陽」、2000年9月に「ERA」とオリジナルアルバム3枚をリリース。独特の感性が光る歌詞と繊細なサウンドで人気を博す。2001年、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2001」に出演した際のバンドメンバーが集結し、2002年にシングル3枚およびアルバム「100s」を発表。その後2004年には同メンバーでバンド・100sとしての活動を開始し、現在まで3枚のフルアルバムをリリースしている。