中島愛インタビュー|「=」で結ばれた特別な関係 ランカ・リーへのラブレター

中島愛が「ランカ・リー=中島 愛」としてシングル「星間飛行」でデビューしたのが2008年6月25日。そこから満15年を迎えた2023年6月25日、中島はデビュー15周年記念ライブ「中島愛 15th Anniversary Live ~equal~」を行い、このステージ上で新曲「equal」を初披露した。

ランカ・リーは2008年に放送されたテレビアニメ「マクロスF」のヒロイン。中島はその前年に行われたオーディション「Victor Vocal&Voice Audition」でランカ役を射止めた。「マクロス」シリーズは歴代、作品世界において“歌”が重要な役割を持ち、1982年放送の初代「超時空要塞マクロス」の歌姫リン・ミンメイ役を務めた飯島真理をはじめ、熱気バサラ(福山芳樹)、ミレーヌ・フレア・ジーナス(チエ・カジウラ)、シェリル・ノーム(May'n)、ワルキューレ(鈴木みのり、JUNNA、安野希世乃、東山奈央、西田望見)といったキャラクターたちが作品世界を飛び越えた音楽活動を繰り広げてきた。中島もまた、個人名義での音楽活動を積極的に行いながら、「マクロスF」の物語が完結した今も「星間飛行」ほか数々のランカ楽曲を大切に歌い続けている。

ランカは中島にとって、イコールで結ばれた特別な存在。新曲「equal」は、そんな中島がランカに宛てて書いた手紙のような1曲だ。最新アルバム「green diary」のリリースから約2年半。レコード会社を離れ、新たな道を歩み始めた彼女はこの楽曲にどのような思いを込めたのか。楽曲制作の背景やアートワークへのこだわり、これからの音楽活動について、中島本人にたっぷりと語ってもらった。

取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / 堀内彩香

「=」って書かれる人、あんまりいないなと思って

──中島さんの音源リリースは2021年2月発売の5thアルバム「green diary」以来、約2年半ぶりになります。ここまで間隔が空いたのは、活動休止期間を除けば初めてのことですよね。

そうですね。2022年に事務所を移籍しまして、いわゆるレコード会社には所属しない形になったんです。その中で、事務所の社長やスタッフと「地道に曲を作ってリリースしていけたらいいよね」という話をしていまして。なので、1年半くらい前から私の中には「15周年のタイミングで『equal』という曲を一発目に出せたらいいな」という構想はあったんですよね。

──だいぶ具体的なビジョンがあったんですね。

ただ、レコード会社に所属せずに曲を制作するというのがどういうことなのか、私自身あまりわかっていなくて。だから「実現できたらいいな」くらいのラフな気持ちではいたんですけど、「ぜひやりましょう」という話になって、今年に入って本格的に動き出しました。

中島愛

──ということは、今回の新曲がデビュー15周年イヤーでのリリースになることも、それがこの「equal」という曲であることも、かなり計画通りに進んだ結果であると。

そうです。もう、完全に計画通り(笑)。

──「equal」の制作自体はどういうふうに始まったんでしょうか。

まず「equal」というタイトル自体は、今お話しした通り1年半前の段階ですでにあって。というのも……改めてしみじみ考えてみると、キャラクターと紐付いた活動をする人がたくさんいらっしゃる中でも、ある意味あからさまに「=」って書かれる人、あんまりいないなと思って(笑)。

──確かに言われてみれば「=」表記って、「ランカ・リー=中島 愛」以外ではあまり見た記憶がないですね。

概念としてイコールと捉えられるという状況以上に、表記としてイコールになっているのがかなり大きなこと、面白いことだなと思ったんですね。他作品のキャラソンを歌うときに「=」表記ということもなかなかないですし。これまではその「=」に自ら縛られにいっていたというか、「ランカの領域を侵してはいけない」「ランカらしさを失ってはいけない」と自分に課していたものがたくさんあったんです。5周年や10周年のときはその縛りに思い悩んでいた部分もあったんですけど、年齢も30代半ばに入って、その「=」を自然に受け入れられるようになってきた。それで「じゃあ、そのことを改めてみんなに提示するような曲を作りたいな」って。

──15年経って、ようやくランカとの適切な距離感がつかめてきた?

そうなんですよ。それで「私にとってランカってどういう存在なんだろう?」と考え始めたときに、まず思ったのが「何があっても会えない人」という……。

──イコールではあるけれど。

そう。自分に等しい存在であり、すごく身近に感じる存在でもあり、ひとときも離れた瞬間はないという感覚ではいるんですけど、会ったことは一度もないんです。“中島愛とランカ・リーの会話”を1人で寸劇として演じることはできますけど(笑)、実際に会って話すことはできないんだなあと思ったときに「もしも会えたら何から話そうか」という1行がふっと浮かんできて。まだメロディも何もない段階だったんですけど、「あ、これを曲のテーマにするか」と思ったのが最初でした。

──そのワンフレーズからすべてが始まっているんですね。

なので、ちょっと「作詞を担当してみるのもいいかな」と思ったんです。でも全部を自分で書くというのが今回はしっくりこなかったので、共作という形でプロの作詞家さんに入っていただきたいな、と。

──そこで白羽の矢が立ったのが、中島さんの「恋のジングル」や「メロンソーダ・フロート」、映画「劇場短編マクロスF ~時の迷宮~」の主題歌「時の迷宮」などを手がけた児玉雨子さんだったと。

児玉さんなら私とランカ、私と「マクロス」の世界をつなげてくれるんじゃないかと思ってお願いしました。作曲の西脇辰弥さんもそうですね。西脇さんは私のバンドのバンマスを長く務めてくださっていますし、ワルキューレのバンマスでもあるので、「マクロス」世界との架け橋になってくれる方だと思って。お二方とも、二つ返事で引き受けてくださいました。

中島愛
中島愛

別に言いたいことがない

──具体的な制作過程についても教えてください。

まず西脇さんに、「切なさも欲しいけど、どこか気楽さも感じられるポップミュージックを作ってほしいです」と要望をお伝えしました。それで最初に送られてきたワンコーラスのデモの段階で、すでにメロディが完成版と同じ形でできあがっていたんですよ。それを聴いて「いい曲……!」ってなって。

──(笑)。

西脇さんのデモって独特で、単にシンセで機械的にメロが打ち込んである感じじゃなくて……あれ、どうやって作ってくれてるのかなあ? ちょっと人の声っぽいうねりがあるんですよ。だから「このメロはア行で伸ばしそう」みたいなニュアンスがすごく想定しやすくて。それに触発されて、デモが届いてすぐに歌詞をある程度埋められたんです。それをもとに、今度は児玉さんと打ち合わせをさせていただいて。

──中島さんが断片的に書いたものを渡して、補完しつつ整えてもらう感じで?

そうなんです。私が思い浮かべたワードがわりと光の部分だったので、それに対する影の部分を担当してもらいたくて。ある種のコール&レスポンスじゃないですけど(笑)、「私の書いたものに呼応するような形での共作をお願いすることはできますか?」と伝えたら「もちろんです」と言ってくださって。

──往復書簡スタイルで。

そうですそうです。プロの作詞家さんに自分の詞を投げるのはすごく緊張しましたけど、この「equal」という曲にはそのやり方がすごくハマった気がしますね。最初は「レーベルを離れて一発目の曲でもあるし、自分1人で無理して書くことも大事なのかな」と悩みましたけど……そもそも私が歌詞を書いたりするのがそんなに好きじゃないのは、別に言いたいことがないからなんですよね。

中島愛

──それはすごくよくわかります。

あははは。世の中に訴えかけたいことがあまりないというのと、プロの方が書いてくださる美しい歌詞を歌う醍醐味みたいなものを、私の場合はデビューのときから味わっているというのもあって。

──なんせデビュー曲からして“作詞:松本隆”ですしね。

そうなんですよ! もともと歌謡曲が好きというのもあるし、役割が分散されているほうが好きなんです。各ポジションの人がそれぞれにこだわりを持って仕事をして、お互いにその領域を侵さず尊重し合う現場が好きなので、今回もそうしたいなと思ったんですけど……。

──でも「equal」に関しては、自然に浮かんだフレーズが発端になっているわけですもんね。極端な話、リリースの予定がなかったとしても中島さんにとっては作る意味のある、作らなければならなかった曲なんじゃないかと思います。

そうですね、その通りです。今回に関しては自分の名前がクレジットされる意味があったし、そのことを児玉さんもすごく意識して書いてくださったので、とても気に入っています。