中島愛|新たなフェーズで手に入れた後悔なしのニューシングル

中島愛が「水槽」と「髪飾りの天使」を表題曲にした両A面シングルを11月6日にリリースした。

今年、デビュー10周年と30代突入という大きな節目を迎えたまめぐ。「私の作品は人との出会いが重要」だと言う彼女は、自身のネクストステージを見据えた今作に、初タッグとなるトオミヨウ、吉澤嘉代子、清竜人、三浦康嗣(□□□)を迎えた。新たな出会いを糧に踏み出した次の一歩について話を聞いた。

取材 / 臼杵成晃 文 / 鈴木身和 撮影 / 後藤倫人

やっとです!

中島愛

──7月のデビュー10周年記念ライブ(参照:中島愛の三十路初ワンマン「Best of My Love」時間遡行で10年の歴史めぐる)が終わって、アニバーサリーのお祭り期間はひと段落といったところでしょうか。

そうですね。ライブ三昧だった時期を走り抜けたのは楽しかったんですけど、少し息切れ感もあったので、8月はわりとのんびり過ごしました。実は今回のシングルは春ぐらいに録ってずっと寝かせていて、「早く出ないかな」と思っていたのでやっとです!

──今作はカップリング曲も含め、総じて新機軸満載という印象を受けました。

おおー! うれしいです。

──まず1曲目は新藤晴一(ポルノグラフィティ)さんが作詞、矢吹香那さんが作曲を手がけた「水槽」です。この曲はどのように完成したんですか?

テレビアニメ「星合の空」のオープニングタイアップとしてお話をいただいたのが去年の年末頃かな。オファーがあった当時はまだベストアルバム(2019年6月発売「30 pieces of love」。参照:中島愛「30 pieces of love」インタビュー)も手を付け始めるかどうかくらいで、自分のネクストテージみたいなものを描けるタイミングではなかったんです。でもこのアニメがオリジナル作品で、青春ものかと思いきや実は人間ドラマどっぷりという話を聞いて、「それならアニメのオープニングとして王道なイメージからちょっと外れてもいいのかも」というところに面白味を感じて引き受けました。オーダーとしては主役が少年たちなので視点が“僕”であるということぐらい。曲先だったんですけど、矢吹さんが書いてくださったこのメロディが憂いがあってめちゃくちゃ気に入りました。そして少年目線の歌詞だったら新藤さんだなと。

──新藤さんとは2017年2月発売のアルバム「Curiosity」で出会っていますね。

そうです。歌詞を書いていただいた「サブマリーン」がド直球で胸に刺さって……私が違うステージに進みたいと思ったときにかなり後押ししてくださった方なんです。今回作詞をお願いしたときはポルノグラフィティさんがツアー中でお忙しい時期だったんですが、快く引き受けてくれました。

──そしてトオミヨウさんと初タッグを組んだところがこの曲のトピックの1つですね。

制作チームに新しく入った女性ディレクターが私とまた違った音楽の趣味で、彼女がトオミヨウさんを推薦してくれたんです。

──新しい人が新しい風を呼び込んでくれたんですね。

そうなんです。トオミさんはあいみょんさんとか菅田将暉さんとかJ-POPのヒットど真ん中の方たちの作品も幅広く手がけていますし、すごくいい出会いだなと思ってお願いしました。

──「水槽」は穏やかな曲に見せかけて、実は相当な“ブチ上げ曲”なんじゃないかなと思いました。わかりやすくガツンとブチ上がるのではなく、じわじわと心の奥底からアゲていくような。

高揚感はすごくあるんですよね。ただ、それが来るのがラストのサビという。カタルシスじゃないですけど、徐々に浄化されていくようなタイプの曲は自分のレパートリーの中にあまりなかったので、そういう曲を歌いたいなと思ったタイミングでタイアップ含めすべて合致した感じがします。それと、ライブでお客さんがペンライトを振るとき「この曲どうすればいいんだ?」って戸惑っちゃうような曲をやってみたいという願望がありました(笑)。

──10周年のアニバーサリー期間を終えて、新しい自分の見せ方を考えたわけではなく?

そういう気持ちもありました。前作のベストアルバムではあえてわかりやすい王道をどんどんやったので、みんなで盛り上がることは満足するくらいやり切ったよね、と。なので今回のような形になったんです。アニメのオープニングで90秒に収まったこの曲を聴くとすごく不思議な気持ちになると思いますね。

吉澤さんが全体的にめちゃくちゃ好き

──もう一方の表題曲「髪飾りの天使」は吉澤嘉代子さんが作詞作曲、清竜人さんが編曲を担当しています。吉澤さんにオファーしたのはどういう経緯だったんですか?

これはテレビアニメ「本好きの下剋上 司書になるためには手段を選んでいられません」のタイアップが決定する前の話なんですけど、2年前に松本隆先生の作詞活動47周年ライブに出させていただいたときに(参照:松本隆作品を豪華アーティストが披露する「風街ガーデンであひませう」開催)、吉澤さんと同じ楽屋だったんです。お互いのスペースは区切られていたので、そんなたくさんしゃべったわけではないんですけど、吉澤さんの声や振る舞いなど全体的にめちゃくちゃ好きだと気付きまして(笑)。この競演からオファーのチャンスを虎視眈々と狙っていたんです。そんな中「本好きの下剋上」のエンディングのタイアップをいただいたとき、主人公と吉澤さんの文学的なイメージが重なって、本や言葉をテーマにしたアニメならすごく合うんじゃないかと思ったので依頼しました。

──吉澤さんはオファーを受けてどのようなコメントをしていました?

今回は直接お会いしてないんですよ。ただ難しいオーダーをしてしまって……私はこのアニメで主人公の姉のトゥーリという役を演じているんです。自分が出演していないアニメの主題歌だったら主人公の視点を大事にするんですけど、私の声がトゥーリなので“私”目線で歌うとどうしてもトゥーリに聞こえてしまうかもしれない。だから“誰の視点でもない歌詞”とオーダーしました。吉澤さんは主人公でもありトゥーリでもあるような、移動できる視点で詞を書いてくれましたね。デモテープをもらった時点で、仮歌を含め吉澤さんの世界観が完成していたので、どう歌うかが課題だったんですけど、アレンジに清さんが加わることで、いい意味で変化していきました。

アスリートみたいな歌入れ

中島愛

──清さんの関わる楽曲だけど、曲名にハートは入っていないんですね(笑)。

そうなんです(笑)。私も思わず「ハート付いてないですね」って言ったんですけど「吉澤さんの曲だもん、ハートは付けないよ」と言われて、そりゃそうかと思いました(笑)。アレンジだけの仕事が初めてだとおっしゃっていたので、それもうれしかったですね。吉澤さんから清さんに「やって」と直接電話があったみたいで、「吉澤さんから直で頼まれたら断れないよなあ」と話しているのをスタジオで聞きました。

──歌ってみた感想はどうでした?

清さんがイントロにコーラスを付けてくれたんですけど、ご自身がめちゃくちゃ歌がうまいのでとてもハードルの高いコーラスを要求されて(笑)。その試行錯誤は面白かったです。あとは最初から最後までずっと力を抜いたまま囁き声で歌うというオーダーもありました。囁き声で歌うのはすごく肺活量を使うので、アスリートみたいな歌入れでしたよ。でも清さんはマイクにどれくらい近付くとか、このくらい力を抜くとか、こと細かにボーカルディレクションをしてくださったのですごくわかりやすかったです。吉澤さんのデモの完成度が高かったので、そのニュアンスを生かしながら2人で探っていきました。

──唐突なエンドもデモのまま?

そのまま生かされています。曲が急に終わるので、何人かには「データ壊れてる?」「ラストが潔すぎて、音源が間違っているのかと思った」と言われました(笑)。トータル2分台の短い楽曲ですけど、この潔さは大正解だったと思います。

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8年越しの初タッグ