中島愛インタビュー|「=」で結ばれた特別な関係 ランカ・リーへのラブレター (2/2)

「34歳になってもランカ・リーなんだ」

──レコーディングはどうでした?

今回、すごく不思議な体験をしたんですよ。今まではランカ・リーの歌い方と中島愛の歌い方を、かなり意識して分けよう分けようと努力してきたんですね。1stアルバムくらいの頃は混ざっちゃってる感じもあったんですけど、「どうしたら中島愛の歌になるのか」をすごくがんばって15年間やってきたんです。で、もちろん今回もいろいろ考えてレコーディングには臨んだんですけど、一旦マイク前で歌ってみたときに……私としては年相応に大人っぽく歌ったつもりが、聴いてみたらランカの歌い方になっていて。児玉さんからも「もうちょっとキャピキャピ感を抑えてもいいかも」と言われるくらい。

──へえええ。

私もそう意識してやってるつもりなんだけど、“ランカみ”が止められなくて(笑)。キャラソンでもないし、もうちょっとちゃんと今の年齢なりの歌にするべきか最初は迷ったんですけど、「いや、いいか。このまま意識せずにラストまで歌ってみよう」と思って進めた結果、“ランカ寄りなんだけど自分”という……これは自分の中での棲み分けとしてですけど、ニュアンスの付け方とかが無意識にそうなっていたんですよね。

中島愛

──それは確かに不思議です。意識しなくても……というか、寄せないように意識していてもランカになってしまう、という話ですよね。

「あ、普通にしててもランカ・リーなんだ。34歳になっても」みたいな感じで、ちょっと面白くなってきちゃって(笑)。

──まさに“イコール”じゃないですか。

そう。「イコールになってるじゃん」みたいな(笑)。

──僕はこの曲を最初に聴いたとき、「これは中島さんからランカへのラブレターだな」と感じたんです。

あ、そうです。そういうイメージで作りました。

──だからこそ、普通に歌ったら中島愛になるはずなんですよ。そこで自然にランカが出てきちゃうというのは、それこそ2人がイコールじゃないと辻褄が合わない話ですよね。

ああ、なるほど。本当にそうかも。それで言うと、これまで“2人の歌”ってなかったなと思ったんです。ランカが歌う「あなた」はアルトくんやシェリルさんのことになるし、私が歌う「あなた」は家族や友人、大事な人とかのことになるわけですけど、ここでの「君」は完全にランカ・リーであり、ランカ目線では中島だから。「本当に2人しかいない歌は初めてかも」って、歌っていてふと思ったんですよね。

──そうか、これは中島さんからランカへのラブレターであると同時に、ランカから中島さんへのラブレターでもあるわけですね。

そこは児玉さんが書いてくれた「鏡合わせ」というワードで、すべてがつながっていますね。ここで「鏡合わせ」と書いてくれたことで、すごく「そうだな」って思えたんです。児玉さんは「こんなにストレートでいいですかね?」とおっしゃってたんですけど、「いや、むしろこのストレートさが好きです」みたいな(笑)。

中島愛
中島愛

ここは優しい世界なんだなって

──ちなみに今回、ジャケット写真で着用しているピアスはNegiccoのNao☆さんが作ったものだそうですね。

そうなんです! これがですね……あの、ちょっと気持ち悪い話をしてもいいですか?

──どうぞ(笑)。

私、“年齢を重ねることで輪郭が変わっていくフェチ”なんですよ。目元とか口元以上に、輪郭に年齢が出ると思っていて。私はけっこう年齢を重ねるのが楽しいタイプなので、今回アートワークを作るにあたって「green diary」のジャケットと同じ顔の向きで写真を撮って、歳を取ったことを感じてもらいたいと思いまして(笑)。

中島愛「equal」ジャケット

中島愛「equal」ジャケット

──定点カメラ的な発想ですね。

そうなんです。それで、前回はアートディレクターさんが葉っぱのステンドグラスを用意してくださったので、そういう感じで今回も何か小物を使いたいなと。それなら顔の角度的にピアスがいいかなと思って、せっかくならハンドメイドがいいなと考えたときに、Nao☆さんがやっているnanohana*shopのことを思い出したんです。ちょうどNegiccoさんも今年20周年だし、なんかすごくいいアイデアなんじゃないかと思って。

──なるほど。

ただ、お子さんも産まれてお忙しいかもしれないから、お友達として気軽に頼むのではなく、アクセサリー作家さんのお仕事として依頼するのが一番失礼のない形かなと思ったんです。それで会社を通して連絡させていただいたところ、すぐに「ぜひ!」とお返事をいただきまして。発注したのは両耳で2点だったんですけど、プレゼント分も含めて10点以上送ってくださったんですよ。1つひとつ「こういうイメージで作りました」というお手紙も添えていただいて。

──めちゃくちゃいい話じゃないですか……。

その中で、「ランカちゃんをイメージして、緑のバラを取り寄せて作ってみました」とおっしゃっていたのがジャケットに使っているもので、今日この取材の撮影で着けさせていただいた指輪とイヤーカフは「プレゼントです」とくださったものです。個人的にお礼のLINEを送ったら、「子供の頃から好きで懸命に続けてきたもの作りが、こういう形で実ってうれしい」と言ってくださって……「友達だから」とかじゃなくて、ちゃんと真剣にもの作りをしている人に頼みたかったからNao☆さんにお願いしたんですけど、その思いがしっかり伝わっていたのかなと感じられて、すごくうれしかったです。

中島愛

──登場人物が全員いい人(笑)。なんというか、Negiccoっぽいし中島さんっぽいお話ですね。

本当にそうなんですよ(笑)。Nao☆さんも人として信頼できるからこそ、間接的にでもご一緒したいとずっと思っていたので、こうやって写真に残る形で実現してよかったです。本当にみんな優しくて、「ここは優しい世界なんだな」って実感できた制作でした。すべてにおいて。

中島愛は現役でいなければいけない

──今後の活動についても聞いておきたいんですけど、たぶんファンが一番気になっているのは「音楽活動を安定的に続けてくれるのか?」というところだと思うんです。

やる気はある、ということは伝えたいですね。

──「やる気はある」(笑)。

「やる気はある。様子を見てるの」みたいな感じではありますね(笑)。一番難しいのは、「続ける」ことよりも「やめない」ことで……同じような意味だけど、やめないことってすごく難しい。だから活動スタイルが変わったとしても、「やめない」ということをできる限り目標にしているというのは伝えたいかなあ。

──逆に、「やめる」というのも実は難しいことだと思うんです。「やってない」と「やめる」はまた違うじゃないですか。「やめてはいないけど、やってない」が一番モヤモヤするというか(笑)。

うーん、そうですねえ……。キッパリしたい人ではあるので、本当は「マクロスF」のテレビシリーズが終わったらもうやめようと思ってたんですよ。たぶんこれ以上のキャリアは積めないだろうなと思うくらいの経験をさせてもらったので、ひるんでしまったところもあって。でもテレビシリーズの最中に劇場版の話が出てきて、「あと3年はがんばらないといけない」と思ってたら、その後もいろいろ「マクロス」の仕事って続くんですよね。だからやめるわけにはいかない……やめたいわけじゃないんだけど、「中の人が現役でいることがけっこう大事なことっぽいぞ」とわかってきたりもして。「やめちゃったら、イコールであるランカを誰かに渡すことになるかもしれない」と思ったら怖くて、そうならないためには中島愛は現役でいなければいけない。それはこの先数十年にわたって成し遂げたい、成し遂げなければいけないことの1つなのかなと思います。

──そのお話は、ファンにとっては大きな安心材料ですね。なんせ「マクロス」シリーズはまだ当分続くでしょうし、続く限りはランカ・リーの出番も何かしらの形であり続けるでしょうから。

新作の制作も発表されましたしね。やっぱり自分たちも飯島真理さん(「超時空要塞マクロス」リン・ミンメイ役)、福山芳樹さん(「マクロス7」熱気バサラの歌唱担当)、チエ・カジウラさん(「マクロス7」ミレーヌ・ジーナスの歌唱担当)の背中を見てきていますし、May'nちゃんもおそらく一生現役の人でしょうし……ってなると、「では私も!」みたいな気持ちにはなりますよね。

──変な言い方ですけど、ファンの人たちも中島さん個人より「マクロス」のほうが信頼できるでしょうし(笑)。

そうよねえ、わかるー(笑)。「『マクロス』シリーズが存続する限り、この人はいるかもしれない」と思えますもんね。もちろんほかの参加作品をないがしろにするわけじゃないし、これは歌手としての話なので声優としてはまたちょっと違ってくるんだけど、いちシンガーとしてはやっぱり「マクロス」が今後も大事な柱としてあり続けるとは思います。

──アーティスト・中島愛としての新曲も出し続けてほしいんですけど。

うれしい。実は「equal」が浮かんだ段階で、それに付随するほかの曲のテーマや方向性も頭の中にはすでにできているので、まずはそれを具現化できたらいいなと思ってます。だから、とりあえずあと1年半くらいは持つんじゃないかな。

──1年半(笑)。中島さんって、発言がいつも刹那的ですよね。常に「これが最後かも」と言っているイメージがあります。

そうですね、それは本当にいつも思っているので。「あなたが必要かどうか」を日々ジャッジされる仕事ですし、ある日突然「もういらない」と言われる可能性が常にあるから、いつそう言われてもショックを受けずに済むよう心の準備をしているというか(笑)。

──でも、その「もうこれで終わりかも」という状態が15年ずっと続いているわけですよね。

だから、逆に「ずっと続けます」みたいなことを言う人にはならないほうがいい気がしていて。かえって怖いじゃないですか(笑)。

──確かに、急に言うことが変わったら戸惑うかもしれないです(笑)。

ですよね。なので私の言うことは、「もうダメかもっていういつものやつ」だと思っていただいて(笑)。本当に思ってはいることだけど、「また言ってるな」くらいに思ってもらえたら。

──それくらいがお互いにとってよろしかろうと。

そうそう。それが双方にとっての幸せな形なのかなって。

中島愛

プロフィール

中島愛(ナカジマメグミ)

アニメ「マクロスF」のヒロインのランカ・リー役に抜擢され、2008年6月に「ランカ・リー=中島 愛」名義によるシングル「星間飛行」で歌手デビュー。2009年1月に個人名義で初のシングル「天使になりたい」を発表した。2014年3月より音楽活動を休止していたが、2016年12月に活動再開し、2017年2月には復帰第1弾となるシングル「ワタシノセカイ」、10月には復帰第2弾シングル「サタデー・ナイト・クエスチョン」をリリースした。デビュー10周年を迎えた2019年1月に初のカバーアルバム「ラブリー・タイム・トラベル」を発表。同年6月5日、30歳の誕生日には初のベストアルバム「30 pieces of love」および初のアナログ盤「8 pieces of love」がリリースされた。2021年2月に5thアルバム「green diary」を発表。2023年6月にデビュー15周年を迎え、7月に新曲「equal」をデジタルシングルとしてリリースした。