デジナタ連載 Technics×「レコードの日」|所有する楽しさ、針を落とす瞬間の緊張感 中島愛×豊崎愛生が語るアナログレコードの魅力

毎年11月3日に開催されるアナログレコードの祭典「レコードの日」。アナログレコードのプレスメーカー・東洋化成が主催、Technicsが協賛する本イベントでは、2015年のスタート以来毎年多くのアーティストたちがアナログ作品をリリースしてきた。今年は各アイテムに目が届きやすくなるようにするため、11月3日と27日の2日間に分けて全142タイトルが販売される。

今回の特集ではアナログレコードの愛好家として知られ、自身の作品もアナログ盤でリリースしている中島愛と豊崎愛生にインタビュー。レコードとの出会いからレコードショップの楽しみ方、レコードに対する思いを聞いた。また2人には自身のコレクションからお気に入りのレコードを3枚ずつ持参してもらい、Technicsのダイレクトドライブターンテーブル「SL-1500C」とコンパクトステレオシステム「SC-C70MK2」で試聴しながら、それぞれの盤への思い入れも語ってもらった。

取材・文 / 臼杵成晃撮影 / 草場雄介

Technics「SL-1500C」

Technics「SL-1500C」

Technicsによる、シンプルなビジュアルと操作方法が魅力のダイレクトドライブターンテーブルシステム。フォノイコライザー内蔵、カートリッジ同梱で初心者でもすぐにレコード再生を楽しむことができる。レコードの再生が終了すると自動的にトーンアームを持ち上げるオートリフトアップ機能付。

Technics「SC-C70MK2」

Technics「SC-C70MK2」

新開発のスピーカーユニットや音響レンズの最適化によって明瞭でスケールの大きなサウンドを堪能できるTechnicsのコンパクトステレオシステム。部屋の広さや置く場所に合わせて最適な音質に自動調整する「Space Tune Auto」機能を搭載している。アナログ音源のみならず、音楽ストリーミングサービス、ハイレゾ音源、CDなどの幅広い音楽コンテンツに対応。「Chromecast built-in」に対応しているアプリを使用してさまざまなサービスが楽しめる。

レコードの日

「レコードの日」ロゴ

アナログレコードの魅力を伝えることを目的として2015年より毎年11月3日に開催されているアナログレコードの祭典。東洋化成が主催、Technicsが協賛している。イベント当日は全国各地のレコード店でさまざまなイベントが行われ、この日のために用意された豊富なラインナップのアナログ作品が販売される。

2人のレコード原体験

──お二人がレコードを集めるようになったきっかけは?

中島愛 私は小学生の頃に観たテレビ番組で昔の歌謡曲に興味を持つようになって。自分が生まれる前、1980年代の音楽に親しんでいく中で……中学1年生のとき、中古品の買い取り店に母の買い物で付いて行って、なんとなくブラリと店内を眺めていたら、ジャンクコーナーにたどり着いたんです。そこで「あれ? これってレコードってやつじゃない?」って。両親も音楽は好きで、家でよく音楽が流れている家庭だったんですけど、CDで聴いていたので、レコードは押し入れにあるのを見たことがあった程度で。興味を持ったのはその大きさとか、聴けることよりも「所有する気持ちよさ」ですね。はじめは「ジャケットが素敵だな」という気持ちのほうが大きくて、レコードプレーヤーも持っていないのに、それから地道にジャンクコーナーで集めるようになりました。ジャンクコーナーと、あとは地元のデパートの催事場(笑)。

豊崎愛生 私は……父親がブレイクダンスをやってたんです。

中島 ブレイクダンス!? 初めて知りました。

豊崎 私が物心つく頃にはサラリーマンとして働いてましたが、私が生まれる直前までクラブでバリバリ踊ったりしていたらしくて。

中島 ファンキーですねー。

豊崎 なので家にはダンスミュージックのLPがけっこうあったんですよ。ただ、それは聴くというよりも飾りとして家にあって。ずっと「家にでっかいCDがある」と思っていて(笑)、聴いたことはありませんでした。まめぐちゃんと同じで「写真がカッコいいな」と思ったのがレコードにまつわる最初の記憶。お父さんが持ってたレコードは派手なジャケットが多くて、ビンテージ感もあってカッコよくて。レコードをレコードとして認識して、自分で買うようになったのは大学生になってからですね。

左から中島愛、豊崎愛生。

──最初に買ったレコードは?

中島 ジャンクコーナーで初めて買ったのは、八神純子さんの「みずいろの雨」です。「この曲知ってる!」って。ジャンクコーナーは中学生のお小遣いでも買える値段なんですけど、デパートの催事場では3000円くらいするレコードが多かったので、「何か1枚だけ……どうしても欲しい!」と選んだのは、河合その子さんの1stアルバム「その子」でした。

豊崎 高校生のとき、昼間にライブハウスの片付けのバイトをやっていたことがあって、そこの店長がレコードを集めていたので、そこで初めてターンテーブルを回してレコードを聴く体験をしました。それで興味を持ったものの、当時はまだレコードを買うほどのお金がなくて。そのあと大阪の大学に通っているとき、近所にあったレコードショップで10枚まとめていくら、みたいなレコードを買ったのがたぶん最初です。それも友達同士でたくさん貸し借りしてグルグル回していたので、最初に買ったレコードが何かをちゃんと思い出せないんですよ。The Beatlesがあったのは間違いないのですが、友達の好みはヒップホップとかハウスとかバラバラで。

中島 いやあ、マンガの中の世界みたい。私の周りにはレコードを集めている子はいなかったし、ひっそりと集めていたので……思ったよりも「光と影」って感じですね(笑)。

豊崎 そんな美しい話じゃないですよ! 苦学生って感じだったし、みんなでお金を出し合って買ってジャンケンで負けた人は1枚だけとか(笑)。なので「初めてのレコードはちゃんと考えて買うべきだった」と思いますね。こういうときの話にも困らないし(笑)。

レコードをベッドの下に隠してた?

中島 レコードの話ができる仲間がいたのはうらやましいなあ。自分の戦いが孤独すぎて笑うしかない(笑)。私は最初の頃、買ってきたレコードはベッドの下に隠していたんですよ。

豊崎 えー!

中島 レコードが好きな人も探せば周りにいたのかな……今は80年代の音楽も「逆に新しい」みたいな形で受け止められていますし、2000年頃も一部では盛り上がっていたと聞きましたけど、世間的にはまだ「逆に新しい」というほどではなかったと思うんです。「みんなと違うことをしているのって恥ずかしいのかな……」と後ろめたい気持ちで、親にも言えなくてそっとベッドの下に(笑)。

豊崎 そんな…ダメなものみたいに(笑)。

中島 隠してるのはその子ちゃんのレコードとかなんですけど(笑)。親がいないときに取り出しては「レコードプレーヤー持ってないけど、どんな曲なんだろう」と歌詞カードをニヤニヤと眺めてみたり。それがある日、親にバレちゃったんですよ。でも「それは聴きたいんじゃないのか」と知り合いの方から古いレコードプレーヤーをもらってきてくれたんです。それでやっとレコードをベッドの下から出して、堂々と部屋に飾れるようになりました(笑)。

豊崎 ふふふふふ(笑)。

左から中島愛、豊崎愛生。

中島愛と豊崎愛生、それぞれのレコード屋の楽しみ方

──レコード屋に行くときは、お目当てのレコードを目がけて探しにいく場合と、無目的に棚を回ってよさそうなものを探す場合があると思いますが、お二人はどちらのパターンが多いですか?

豊崎 私はdiskunionとかに行くと、まずは最上階まで上がって、そこから順番にグルグルと螺旋状に回っていくタイプです。「わ、これLPで出てる!」とか「これ昔持ってたわー」とか思って1人でたぎりながら(笑)、くるくる周遊してお店を出る頃には「思ったより買っちゃったな……」みたいな。試練の山を下っていく感じ(笑)。

中島 わかります。私は、今はなき渋谷レコファン(レコファン渋谷BEAM店。2020年10月に閉店)と横浜レコファン(レコファン横浜西口ダイエー店。2019年1月に閉店)が大好きで。

──広大なフロアに大量のレコードが並ぶ、いいお店でしたね。

中島 はい。私はちょっとのお目当てはありつつも基本的には時間の許す限り見る、というスタンスで。まずは屈伸しやすい服を選ぶ。

豊崎 そこから始まるんだ(笑)。

中島 膝をついても気にならない服を選んで、あとは人の邪魔にならないようにウエストポーチか斜めがけできる薄ーいカバンを持って。絶対に集中できる装備で行って、見られる棚は全部見る。隣のおじさんとかと阿吽の呼吸で場所を変わったりするのが楽しいんです。隣の人が何か掘り出し物を見つけたときは鼻息でわかるんですよ(笑)。パパパパパパパパ、フンッって。「今の棚ありました!? 私ないんだけど」とか思いながら黙々と見るのが楽しいですね。いいレコードがセレクトされたお店も素敵ですけど、どちらかというと「ここにはないかもな」っていうお店を回ってお目当てのレコードを見つけるのが楽しいので、「ここなら絶対にある」とかネットで検索して確認して行くようなことはほとんどないですね。