ナタリー PowerPush - 蟲ふるう夜に

バンドの“100点”とは? 松隈ケンタとの1年間

今年7月にフルアルバム「蟲の声」をリリースした蟲ふるう夜に。長編小説を読んでいるような独特の世界観が注目を浴び、BiSを手がける松隈ケンタがサウンドプロデュースを務めたことでも話題となった。また、12月14日にはバンド結成6周年を記念した「MUSHIFEST 2013」の開催も決定。若手の個性派アーティストが集う、アツいイベントになりそうだ。

そこで、今勢いに乗る蟲ふるう夜にと松隈ケンタによる座談会を企画。「蟲の声」制作の裏側だけでなく、普段はあまり語られることのないアレンジや編曲の過程、その意義についても聞いた。

取材・文 / 田島太陽 撮影 / 佐藤類

決定的に何かが足りないと思ったんです

蟻(Vo) 

──前回のインタビュー(参照:蟲ふるう夜に「蟲の声」蟻インタビュー)ではずいぶん緊張してましたけど、もう慣れました?

(Vo) いや全然。昨日も寝れなかったんです(苦笑)。

──ではまず、松隈ケンタというアレンジャーが制作に参加すると聞いたとき、皆さんは何を思いました?

慎乃介(G) 誰?って。

松隈ケンタ おおおっ!!

慎乃介 すいません……。

松隈 いいよいいよ! もっと率直に言っちゃって!

郁己(Dr) アイドルのアレンジャーを呼んで、何がしたいんだろう?って。

春輝(B) 僕は偶然BiSを知ってて、すごいロックだなとは思ってたんです。だからどんな人なのかなあと思っていたら全然想像と違ってた。もっと秋元康さんみたいな人かと思ってました。

──流れを振り返ると、昨年リリースされた「蟲の音」まではバンドメンバーだけで制作していたわけですよね。なぜ今年7月の「蟲の声」から松隈さんも参加することに?

 去年の「蟲の音」はもちろん満足いく作品だったし、よくできたと思ってたんです。でも時間が経って聴き返すと、何かが足りないような気がしていて。

慎乃介 決定的に何かが足りないと思ったんです。完璧にできたはずなのに、時間が経つごとに「違うなー」と思うようになって。不思議なもんですよね。

──完成したときに100点だったものが、どの瞬間に100点じゃなくなったんですか?

郁己 周りの反応が一番大きかったかな。物語もあって、ちゃんとしたコンセプトアルバムになっていて、俺たちは「作りたかったのはコレだ!」って思ったんですよ。でもお客さんが付いてこなかったというか、ライブをやってみて初めて、世間的にウケる音楽とは違ったんだなって気付いた。

 今だからわかるけど、当時は音の詰め方も全然甘いんですよ。一生懸命やっていたけど、まだまだ粗かった。

春輝 これは個人的なことだけど、僕は途中からバンドに入ったので、参加して最初の作品なんです。その探り探りな感じが音に出てますよね。

「松隈さんは絶対に『ジョジョ』は読まないでしょ」

──とはいえ、いきなり外部のプロデューサーと曲作りというのは、皆さんとしても難しい部分や反発心もあったかと思うんですよ。

松隈ケンタ

慎乃介 いや、別にないですよ。

 (小声で)あったでしょ……。

松隈 いろいろ大変だったんでしょ?

──プロデューサー(蟲Pこと津倉悠槙)とモメたと聞いています。

慎乃介 ああー(苦笑)。なんでモメたんでしたっけ?

蟲P 僕は売る側の人間だから、流行っている音楽はひと通り調べるわけですよ。その中でも、BiSというアイドルはほかのどんなバンドよりもロックですごいと思ったんです。だから松隈さんにお願いしようとメンバーに話して、まずはBiSのライブをみんなで観に行くことにしたんです。そうしたら、慎乃介が怒った。

 そしてライブにも来なかった(笑)。

慎乃介 自分ではなんでキレたのかもう覚えてないんですけどね。

松隈 いや、それは行かないよ。俺もバンドやってたからわかるけど、「アイドルの編曲やってる人を呼びます」とかいきなり言われたらさ、そりゃ行きたくないよ。ふざけんなよ!って思うよね。

──松隈さんとしては、バンドを観た最初の印象は?

松隈 単純にカッコいいなと。今まではアイドルやしょこたん(中川翔子)みたいな女性アーティストが多かったから、逆に俺のほうが緊張したんですよ。コワい人だったらどうしよう!って。

──蟲ふるう夜には、世界観がしっかり固まっているじゃないですか。サウンドプロデューサーとして、そこはどう捉えてましたか?

松隈 難しいところでしたね。いろいろ考えたけど、極論、世界観には触らんでおこうと。もっと言えば、わからないから放っておこうと。

慎乃介 わかんないですよねえ(笑)。

松隈 そこは専門家じゃないんでね。今思い出したけど、なんで俺を呼んでくれたのかって話を蟲Pとしていたら「松隈さんは絶対に『ジョジョ』は読まないでしょ」って言われて。なんのこと?って思ったんだけど。

 松隈さんは中二病じゃないって話ですよね。

松隈 そうそう、俺は好きなマンガといえば「ろくでなしブルース」なんですよ。

──全然違うジャンルですね!

松隈 アツいのが好きなんですよ。ゲームでいえば、彼らは「ファイナルファンタジー」だけど、俺は「ドラクエ」派。音楽的にもそんな感じで、違うルーツでありエッセンスなんです。ただ、爆裂な音を出すっていう共通点はあったから、そこをもっと発展させる方向で手助けしようと。

蟲ふるう夜に結成6周年記念イベント MUSHIFEST 2013

2013年12月14日(土)
東京都 shibuya CYCLONE(闇STAGE) / GARRET udagawa(光STAGE)
OPEN 17:30 / START 18:00

<出演者>(50音順)

蟲ふるう夜に / 死んだ僕の彼女 / 水曜日のカンパネラ / つばさFly / ふぇのたす / 蜜矢 / DROPKICK STRAWBERRY / Hello Sleepwalkers / THE INTEGRAL POULTRY / LIFESHOP

DJ:工藤マサヤ / 西村ひよこちゃん

チケット一般発売中!

料金:2500円

※別途入場時ドリンク代600円が必要となります
※会場内禁煙 / 再入場可

蟲ふるう夜に(むしふるうよるに)
蟲ふるう夜に

2007年、蟻(Vo)、慎乃介(G)、郁己(Dr)の3人で前身となるバンドを結成。2008年には1stシングル「赤褐色の海」を発売し、同年のYAMAHAオーディションで準グランプリを受賞する。2008年10月9日にはバンド名を「蟲ふるう夜に」に変え、新たなスタートを切る。2012年よりベーシストとして春輝(ex. THE冠)が加入。同年8月にリリースした「蟲の音」収録曲「犬」が話題に。2013年7月にニューアルバム「蟲の声」をレンタル&配信で発表。iTunes Storeロックアルバムチャートにてトップ20にランクインするなど期待の高まる中、12月には渋谷のライブハウス2会場にて結成6周年を記念したライブイベント「MUSHIFEST 2013」を主催する。

松隈ケンタ(まつくまけんた)

福岡県出身の音楽プロデューサー。ロックバンドBuzz72+を率いて上京し、2005年にavex traxよりメジャーデビュー。編曲家CHOKKAKUのプロデュースにより4枚のCDを発表する。バンド休止後に作詞家、作曲家としてアーティストへの楽曲提供を始め、BiSや中川翔子、柴咲コウの楽曲を手がける。同時にギタリスト、アレンジャーとしても活動。J-POPの中にエモーショナルなロックサウンドを取り入れることに定評がある。