削る作業から始めました

──制作はどのように進めていったんですか？

松隈　デモ曲をどんどん投げてもらって、僕が勝手にアレンジして投げ返すことの繰り返しですね。

──曲をアレンジする際に意識していたことや、目指していた方向性はありますか？

松隈　彼らはそれぞれスキルがあるのは間違いないんです。ただ、（曲作りの過程において）お互いに遠慮していたり、自分の我を通したい部分だったり、4つのパーツがイガイガした印象でうまくハマってなかった。だから「その音は必要ないよ」「ドラムのこのオカズはいらないよ」っていう削る作業から始めました。ちゃんと交通整理をして、4人のよさをもっと効率よく詰め込めるようにと。

郁己　戻ってきたのを聴くと、まずドラムが大幅に変わってるんですよ。しかも、音を減らした部分はたくさんあるんだけど、増えてるところは鬼畜のように増えてて。

松隈　そうそう、人間が叩けないくらいにしちゃって。

郁己　かなり練習したのに、全然追い付かないんですよ。手があと2本ないと無理でしょ？ってくらい。でも絶対コピーしようと思って、必死でマスターして。

松隈　あれをコピーしたのは驚いたよ。ホントすごい。

郁己　でもスタジオで披露して「どや！」って思ってたら「んー、そのドラム要らないっちゃねー」って。

──覚えさせておいて！

松隈　自分はどう作ったか忘れちゃってるわけですよ。だからスタジオで聴いたら「なんかうるさいね」と思っちゃって（笑）。

よくなってるなんて信じたくなかった

──でも松隈さんにアレンジしてもらうと、いい方向に直っている実感はあったんですね。

蟻　そうですね。

慎乃介　いや……。

蟻　えっ？

慎乃介　いや、最初のデモは、俺がある程度作った音源だし、これが正しいと思って松隈さんに渡すんです。だから戻ってきた曲を聴いても「なんか違うだろ」って。でも何度も聴くと、絶対に松隈さんのほうが好きになっちゃう。

松隈　慎乃介も作曲者だから、認めたくないんですよ。それは俺もよくわかる。

慎乃介　そう、自分が作ったものよりよくなってるなんて信じたくなかった。

松隈　言いたくないだろうけど、悔しいと思いますよ。でもほかのメンバーは無神経に「こっちのほうがいい」って言うわけです。それはムカついたと思う。

蟻　あ、そういえば言ったね、「松隈さんのギターソロはすごいよ、泣けるよ」とか。そうしたら、あからさまに不機嫌になった。「はあ？ どこがいいんだよ？」みたいな。

慎乃介　でも腹立ったんで、完璧に覚えてやろうと思いましたね。

松隈　それはヤケクソで？

慎乃介　最初はそうだったけど、弾いてみるとやっぱりいいんですよ。気付いちゃうんです。それからはもう、認めるしかないですからね。

松隈　ギタリストってバンド内のプロデューサーだから、放っておいたらいつか慎乃介とぶつかるなとは思ってたんです。それで僕のスタジオに来てもらって、曲を作る過程を見せて教えたり、いろいろ話し合ったんですよ。そこからはデモの段階でかなりレベルが上がりましたね。

蟻　うん、劇的に変わった。

慎乃介　考え方というか、気持ちがラクになったんですよ。

──気持ちの部分なんですね。

慎乃介　音楽に対しての意識がちゃんとしたんですよ。今までも真剣だったけど、なんていうんだろう……自分の気持ちしかなかった。でもお客さんのこと、メンバーのこと、耳に届く人のことを考えると、このほうがいいっていう気付きがたくさんあった。だから、よかったです。本当によかった。

松隈　ギタリスト同士って、あまり仲良くなれないんですよ。でもそうも言ってられないですから。ベース同士は勝手に打ち解けるのにね。

春輝　あ、わかります、打ち上げとか楽屋で、ほかのバンドのベースとすぐ仲良くなる。

蟻　機材の話で盛り上がったりしてるよね。

郁己　地味だなあ（笑）。

松隈　でもギター同士は難しい。お互い我が強いから。俺がギターを弾きまくるプロデューサーなら、ジャジャーンと弾いて見せて「俺のがすごいだろう!!」って言えるんだけど。

蟻　そういえば、ほとんど弾いたことないですね。

松隈　ヘタだからです！（笑） だから余計に「なんだコイツ」ってなったと思う。

蟻　でも初めてライブを観てくれたとき、「ギタリストうまい」って言ってくれましたよね。

松隈　うん、すごい上手だったもん。