ナタリー PowerPush - 蟲ふるう夜に

バンドに起きた“愛”という変化

多くのアーティストには、自分の活動を振り返ったとき「あれがターニングポイントだった」と思う瞬間があり、それが楽曲の根底に息づいている。蟲ふるう夜ににとって、今回のニューミニアルバム「わたしが愛すべきわたしへ」はそんな作品になるのかもしれない。そう感じさせるほど、これまでの世界観が一新されて次の一歩を踏み出したような、強いメッセージに満ちた曲が並んでいる。

ずっと「自分のことが嫌い」と公言していた蟻(Vo)が、どうして真正面から自分を肯定した曲を作れたのか。アルバムを通して物語を描く今までのスタイルからも離れ、なぜ自由に、歌いたいことを歌えるようになったのか。ミニアルバムの制作過程とバンドの変化について、メンバーに話を聞いた。

取材・文 / 田島太陽 撮影 / 佐藤類

 
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蟲ふるう夜にの暗い世界観はもう終わった

左から春輝(B)、蟻(Vo)、郁己(Dr)、慎乃介(G)。

──なんだか雰囲気が変わりましたね。

(Vo) 髪切ったんですよ、前髪が短くなりまして。

慎乃介(G) 今までは顔隠してたもんね。

 見ないでーって思ってたから。

──ジャケットも今までとずいぶん印象が違いますし。

 背景にピンクなんてね、今までなら絶対いやだった。

──これを受け入れられるようになったのって、大きな変化だと思うんですよ。

 はい、自分でもそう思います。

──今日はその変化について聞きたいと思っていて。曲を聴く限りでは、元日にリリースして今作にも収録されている「ホウセキミライ」が最初のきっかけだったのかなと(参照:蟲ふるう夜に、元日に光×闇の新曲2曲配信リリース)。

 そうですね、あの歌詞を生むときは一番つらかったかも。明るい場所の居心地の悪さというか。

──居心地の悪さ?

 音がキラキラしてたから、最初に聴いたときにびっくりしちゃって。その拒絶反応です。明るくてまぶしい!って。でも、これは今だからわかることだけど、きっと居心地がいいから暗い自分でいたんだと思うんです。その世界にお客さんを連れてきて「一緒にがんばろうね」っていうのもいいけど、私たちは音楽で人を救いたいって本気で思っていて、それならなんで自分が暗いんだって思っちゃって。自分が音楽に救われて変わらなきゃ、人なんて救えないじゃんって気付いた。そう思えるまでにはたくさん階段があったし、それを登っている途中の「ホウセキミライ」だったと思います。

郁己(Dr) 暗いことが悪いとは思わないけど、あの作品で何かが変わったのは確かですよね。今までの蟻が書く詞って、暗い世界にいる人と一緒に歌っていた感じなんだけど、今は明るいところへみんなを引っ張り上げてくれるというか。

慎乃介 そうそう、だから蟻が抜け出したら僕らも釣られて一緒に上がってこれたんですよ。蟻のいる場所が変わった。だから俺は、蟲ふるう夜にの暗い世界観はもう終わったなと思ってて。

 うん、出し切った感じはするよね。

初めて自分のことを許せた

──昨年末にそういった変化があった中でこのアルバムの制作に入ったと思うんですが、事前にテーマや方向性は決めていたんですか?

蟻(Vo)

 まずは曲を作ることが先で、集まったら考えようって感じでしたね。

──これまでは世界観がしっかりしていて、1枚のアルバムを通して大きなストーリーを語る手法でしたよね。それをしなかったのは?

 きっかけはいくつかあったかもしれないけど、一番大きいのは「わたしが愛すべきわたしへ」ができたことですね。初めて聴いたとき、これは素晴らしい曲だと思ったんです。だからこそ、別のバンドで出したほうがいいと思ったくらい。

──今までの世界観とは違うから?

 はい。だけど、「曲のイメージが変わったとしても、同じ蟻から生まれた歌なんだから地続きでいいんだよ」って話になって、本当にそうだなと。音や言葉が変わったとしても、私たちが伝えたいことはずっと変わってないから。それに私、こう見えて真面目すぎるところもあって。「蟲の音」「蟲の声」って作ったから、その続きを作って3部作にしないといけない気がしてたんです。でも、それは別にいいかって思えるようになったのも成長かなって。

──自由になった?

 はい、今までは自分で勝手に制約を作って、ルールの中で苦しんでたんですよね。

──蟻さんって過去のインタビュー(参照:蟲ふるう夜に「蟲の声」蟻インタビュー / 蟲ふるう夜に×松隈ケンタ対談)では「自分はムシケラみたいな存在」って言っていたじゃないですか。そこからなぜ「わたしが愛すべきわたしへ」というタイトルや「愛してるんだよ 未完成な自分」という歌詞が出てきたんでしょう?

 そうですね、そんなこと思ったのは人生初ですよ。自分のことを許せたっていうのかな。初めて曲を聴いたときからイメージはぼやっと持っていたんですけど、やっぱりなかなか書けなかったんですよね。何度も書き直して、最初のメッセージから全然違うものになったこともあって。でもレコーディングの前日かな、「わたしが愛すべきわたしへ」っていうキーワードが出てきてからは、15分くらいで一気に。理由はわからないけど、あれが心が決まった瞬間だったのもしれない。

──その「自分のことを許せた」という場所に至るまでには、きっといろいろな積み重ねがあったと思うんです。その中でも、昨年末のライブ(「MUSHIFEST 2013」)は大きかったんじゃないかと思っていて。ステージで「やっと自分の物語のオープニングロールが流れたと思う瞬間があった」と語ったように、蟻さん自身がすごく解放される様子が見えた気がして。

 そうかもしれないですね。私は今まで、ライブが大好きって言えなかったんです。それが今は、素直に言えるようになった。

──言えなかったのはなぜ?

郁己(Dr) 

 お金を出すお客さんのために音楽やってるわけじゃないから、みたいな。そういうロック精神を持ってないといけないと思ってたんです。音楽をお金で売るなんて、って。

慎乃介 うん? お金?

 あれ、わからない?

郁己 今までは、重きを置くところやカッコいいと思ってる場所が違ったってことだよね。

 そう。でもお金ってさ、例えば中学生が必死に貯めたお小遣いとか、高校生ががんばってバイトで稼いだお金とか、2000円だって安くないですよ。それを払って観に来てくれてるわけでしょ? なのに「金じゃない」とか言ってる場合じゃないって思ったんですよ。

ミニアルバム「わたしが愛すべきわたしへ」/ 2014年6月4日発売 / 1000円 / DQC-1280 / Project Shirofune
収録曲
  1. ホウセキミライ
  2. わたしが愛すべきわたしへ
  3. フリーダム!
  4. 金盞花
  5. オトナのうた
蟲ふるう夜に(ムシフルウヨルニ)
蟲ふるう夜に

2007年、蟻(Vo)、慎乃介(G)、郁己(Dr)の3人で前身となるバンドを結成。2008年には1stシングル「赤褐色の海」を発売し、同年のYAMAHAオーディションで準グランプリを受賞する。2008年10月9日にはバンド名を「蟲ふるう夜に」に変え、新たなスタートを切る。2012年よりベーシストとして春輝(ex. THE冠)が加入。同年8月にリリースした「蟲の音」収録曲「犬」が話題に。2013年7月にニューアルバム「蟲の声」をレンタル&配信で発表し、12月には渋谷のライブハウス2会場にて結成6周年を記念したライブイベント「MUSHIFEST 2013」を主催。2014年6月にはミニアルバム「わたしが愛すべきわたしへ」をリリースした。