ナタリー PowerPush - 蟲ふるう夜に

暗闇の中の光を歌うバンド

7月17日に配信とレンタル限定でリリースされた、蟲ふるう夜に(むしふるうよるに)のニューアルバム「蟲の声」。この作品はバンドのテーマである「暗闇の中の光 弱さの中の強さ」を表現するために、アルバムを通して一連の物語が描かれ、主人公たちの悩みや葛藤が歌われている。また、「蟲」を冠した3部作の2作目として位置付けられており、壮大な世界観も魅力のひとつだ。

ナタリー初登場となる今回は、バンドのボーカル・蟻にインタビューを行い、彼女のパーソナリティに迫った。楽曲制作の根源である過去の経験や、独特な作風の理由、制作過程などの話から、バンドの個性を感じてほしい。

取材・文 / 田島太陽 インタビュー撮影 / 上山陽介

世界中が敵だと思っていたから

──まず最初に、バンド名が独特ですよね。なぜ“蟲”なんでしょうか?

蟻(Vo)

最初は私といっくん(郁巳 / Dr)と慎乃介(G)の3人から始まったんですが、全員がムシケラみたいな存在だったので、虫が3つで“蟲”という言葉を使おうと(笑)。“ふるう”は振るまうとか、降ってくるとか、いろんな意味を込めていて、音楽は夜に聴くことが多いから、こんな名前になりました。

──いやいや、ムシケラって!

まあそうなんですけど、当時は世の中すべてが敵だと思ってたんですよ。

──どうしてそんな考えを?

両親が離婚したり、いろいろときっかけはあったんですよね。今思えば、ありがちな中二病なんですけど、私は誰からも必要とされてないなー、ってけっこうグレちゃって。高校のときは、一緒に暮らしていた父が家に帰ってこなくなったり、機械科だったからクラスで女子が私だけで、友達もいなかったし。

──機械科だったんですか。女子では珍しいですよね。

その高校では史上初の女子だったんですよ。でも世界中が敵だと思っていたから、「別に1人でも大丈夫です」って(笑)。

──そもそも、何を目指して機械科に?

車の整備士ですね。両親が走り屋だったので、私も自然と車に興味を持ったんです。中学の頃は友達とよく峠に繰り出していたら、ある日事故って廃車になっちゃって。そのときのエンジン音が心音に聞こえたんですよ。とっさに、かわいそうだなって感じて。それで単純な発想なんですけど、壊れた車を直せる人になりたいなと。

お金がなくて、公園に住んでました

──では音楽活動はいつから?

蟻(Vo)

高校の頃に、先輩のバンドに衝撃を受けちゃったんです。それで軽音楽部に入ったら、部室の居心地がすごくよくて。クラスには居場所がなかったから、ようやく落ち着く空間を見つけられた感じでした。

──何が衝撃だったんですか?

先輩が突然、教卓にラジカセを置いて「話すのは苦手だから曲を聴いてくれ」って、すっごいハードコアな曲をかけたんです。私は合唱が盛んな中学に通っていたし、きれいな歌しか知らなかったから「なんだこれ!」ってびっくりしちゃって。

──全然知らない世界だったんですね。

そうなんですよ。とにかく驚きましたね。それがきっかけで音楽をやろうと思って、卒業後は東京に来て専門学校に入りました。そこで出会ったのが今のメンバー。でもバイトもしてなかったから、上京してからはかなり貧乏で大変でした。

──どうして働かずに?

朝9時に学校に行って、授業のあともずっと夜まで練習している生活だったから、単純に忙しかったのはありますね。それに、まだ世界は敵だと思っていたし、人との関わりも苦手で。お金がなくて、公園に住んでました。

──公園にっ!?

はい(笑)。でも全然気持ちよかったですよ? 開放感がありますね。

──そういう問題じゃないですよ(笑)。家は借りてなかったんですか?

はい。だいたいはネットカフェか、友達の家か、公園。

──ちなみにどのあたりの公園で?

学校が目の前だったので市ヶ谷が多かったですね。ビル街なので、怪しい人も少なくて安全だったから。さすがに新宿で寝る勇気はなかったですね。市ヶ谷は安心(笑)。

レンタル&配信限定アルバム「蟲の声」 / 2013年7月17日発売 / 1800円 / PROJECT SHIROFUNE / SFCD-10004
レンタル&配信限定アルバム「蟲の声」
収録曲

~序章~

  1. 蟲の声

~白の少年編~

  1. 白の出会い
  2. ふたつの旅立ち
  3. オオカミの森
  4. 変わる景色

~黒の少年編~

  1. 幻水の都
  2. 黒の出会い
  3. 一緒に逃げよう
  4. 戦争

~灰の都編~

  1. 灰の都
  2. 守るべきもの
  3. 別離
蟲ふるう夜に(むしふるうよるに)

2007年、蟻(Vo)、慎乃介(G)、郁己(Dr)の3人で前身となるバンドを結成。2008年には1stシングル「赤褐色の海」を発売し、同年のYAMAHAオーディションで準グランプリを受賞する。2008年10月9日にはバンド名を「蟲ふるう夜に」に変え、新たなスタートを切る。2009年に1stミニアルバム「蟲の黙示」を発売。その後、精力的にライブを重ね、2010年12月には1stフルアルバム「僕たちは今、命の上を歩いている」を発売。2012年よりベーシストとして春輝(ex. THE冠、SECOND EFFORT)が加入し、8月にアルバム「蟲の音」をリリースした。「蟲の音」がiTunes Storeロックアルバムチャートにてトップ30にランクインするなど期待の高まる中、2013年7月にニューアルバム「蟲の声」をレンタル&配信で発表した。