向井太一「CANVAS」インタビュー|塗り重ねた“キャンバス”から見えた核となる音楽性 (2/2)

「音楽向いてないかも」強まるマイナス思考

──3曲目の「Shut It Down」の「周りを見てよ 愛せないような自分は捨ててよ」という歌詞も、向井さんからの他者へのメッセージのように聞こえました。この曲の歌詞は向井さんとNOISEWAVEの共作ですが、どんなふうに書いていったんですか?

この曲はNOISEWAVEの韓国チームがもともと持っていたデモに「Shut It Down」というタイトルがついていて、それに僕が歌詞を付けました。最初はほぼ悪口みたいな(笑)、もっと尖った歌詞だったんです。でも、リリースが決まりマイルドにしていきました。感情的に歌詞を書くと、あまりアートとして認識されないことがあって、それで変えたんですよね。

──このトラックもおもちゃ箱をひっくり返したかのようなポップさがあり、大サビでピアノが入ってきて歌モノとしての色が強くなるのが面白いです。

この曲がさっき言った、韓国のヒップホップシーンで流行し始めている、かわいいサウンドのイメージが強く出た曲ですね。それとはギャップがある攻撃的な歌詞とタイトルを付けています。昔からトラックの雰囲気とは大きく違う歌詞を書くのが好きだったので、自分らしいなと思います。

向井太一

──最後の「吐き出してしまおう それで何かが変わるなら」という歌詞は、まさに先ほどおっしゃっていた、意識的に変化に向かっていった向井さんの心境と重なります。

この部分は最初に書いた歌詞をそのまま使ってますね。書き始めた時期は「もう音楽を辞めようかな」ぐらいのことを思っていて。「辞めるんだったら、言いたいことを全部吐き出して、それでも変わらなかったら自分の決めた別の道を行こう」と思いながら完成させました。2019年に「SAVAGE」というアルバムをリリースしたときが最初に「音楽向いてないかも」と思った時期で、当時は自分を卑下したり、何かとマイナスに考えてしまっていて。そういう気持ちが反映された作品だったのに、ファンやチームのみんなが支持してくれて、すごくありがたかった。それを経て、2020年はもっと自分の音楽を信じようと思ったんです。今回はそのときの感情とはまた違って、自分だけでなくこれまで当たり前だった環境を見つめ直してみようと強く思って、そのうえでアーティストとして何が必要で、どういう動きをしなきゃいけないのかをすごく考えました。

──そう思ったときに、ほかのアーティストの動きで参考にしたことはあったんですか?

「今、日本にない要素ってどういうものがあるんだろう?」ということを追求しましたね。そこで韓国のヒップホップシーンが面白いなと思って、ボーカルのアプローチを変えたところもあります。韓国のヒップホップシーンは日本と近いようで全然違って、面白さを感じていました。あと、ヒップホップがどういうものなのか、その理解がとても深くて、匂いとして出すのがうまい。一方で日本はヒップホップやR&Bをポップスとミックスするのがすごくうまいと思うんです。R&Bやヒップホップの曲じゃなくても、サウンドにその要素が入っていたり。その独特のミクスチャー感はJ-POPの魅力の1つだと思います。

──実際に韓国のプロデューサーチームと曲を作ったときにはどんなことを感じましたか?

それまで僕はわりと感覚的に歌っていたところが多かったんですが、韓国のチームは「ここで歌を止める」とか「ビブラートしない」とか、1つひとつの調整がとても細かくて、すごく勉強になりました。「ANTIDOTE」はラップっぽいフロウやリズム、アクセントを重要視した作品だったので、そこの部分にはとてもストイックに向き合いました。それを経ての「CANVAS」だったので、コミュニケーションはよりとりやすくなりましたね。「ANTIDOTE」より、自分の要素が多めにミックスされているように思います。

向井太一
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ファストな時代における価値のあるもの

──4曲目の「Cosmos」もNOISEWAVEさんのチームが携わっていますね。

この曲はアニメ「遊☆戯☆王ゴーラッシュ‼」のエンディングテーマとして書き下ろしました。「ANTIDOTE」でもロックとヒップホップを混ぜた曲「Special Seat」を作ったんですけど、それよりロック色が強くて、さらにダンス色も出した曲を作りたかったんです。今だからこそできた楽曲だと思いますね。

──5曲目の「Pilot」はアニメ「TIGER & BUNNY 2」のエンディングテーマですね。

けっこう前に作った曲で、ようやくリリースできましたね。作曲とアレンジで関わってもらったCELSIOR COUPEとはデビュー前から一緒に曲を作っている関係性なんですが、ヒップホップやR&Bをベースに、オルタナティブやアンビエント、ロックとかいろいろなジャンルをミックスするのがうまい人なんです。そんなCELSIORと昔から一緒にやってきたからこその曲になっていると思います。歌詞は「TIGER & BUNNY 2」をより深く理解してもらうことを意識して書きました。

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──「CANVAS」のフィジカル盤にはペインターの幸喜周平さんの作品を使用したブックレットが付きますが、ストリーミング時代におけるフィジカル作品の価値については、どう捉えていますか?

CD本体が目当ての人はほぼいないと思うので、グッズを買う感覚に近いんじゃないかと思っています。だからこそ、手に取る価値のあるものを作らなきゃいけないと、今まで以上に考えるようになりました。例えば今回は周平のアートを取り入れたり。音楽だけじゃなく、いろいろなものの価値や捉え方がどんどん変わっていますよね。ファストな時代における価値のあるものをみんな求めていると思うので、その価値を高めていくのが自分の仕事だと思っています。だから常にアンテナは張ってます。なるべくなんの色もついていない人を探していますね。今までアートワークでご一緒させていただいた方は、まず自分から会いに行った人がほとんどだと思います。

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イチから音楽をやりたい

──デビュー当初から、ジャンルレスな音楽を軸に、アパレルプロデュースやモデル業などボーダーレスな活動をされていますけど、そのスタンスがほかのアーティストに影響を与えている実感はありますか?

ほかのアーティストに与える影響は意識せず、単に自分の音楽を広めるためにやれることをすべてやってきたという感覚なんです。だから、先日ラジオで共演したBE:FIRSTのMANATOくんから「影響を受けています」と言われたことはうれしくもあるし、不思議でもあります。自分がどういうことをやりたいかを理解して、でも僕1人ではできないとわかっているので、そのために誰が必要か。そうやってチームを作っていく作業をずっとやってきた感覚ですね。それでもって、「向井太一ってちょっとほかとは違うよね」と感じてもらえるといいなとはずっと思っていて。小さい頃から、同じことをやってトップを取りたいという気持ちより、違うことをやって特別視されたいっていう気持ちのほうが強かったんですよね。やりたいことをやってきたからこそ、自分が想像していた結果にならなかったときに超病みやすい(笑)。それもあって、自分が制作に関わっていない曲を歌うことに楽しさを感じるんだと思います(笑)。

向井太一

──ああ。自分自身の問題から解き放たれるというか。

そういうところはありますね。「まだ新しいことができるんだ」っていう感覚は自分の中ですごく重要です。だから、「全部塗り潰されたとしても自分の音楽なんだ」という「CANVAS」のコンセプトが生まれたんだと思います。「SAVAGE」のときもそうだったんですが、絶対また繰り返すんですよね。いずれ落ち込むときは来るし、だからこそ新しいものを生み出そうとする。今は「そのときはそのときでまた考えればいいかな」というマインドになれました。

──落ち込んだ時はどう解消するんですか?

けっこうヤバいですよ(笑)。わかりやすく落ち込んで、渋谷の真ん中で叫びそうになります。僕、もともとは興味ない人に対して絶対に自分の素を見せたくないタイプなんですが、今周りにいる信頼している人たちに対しては、甘えて素を出せるようになったんです。素直に悩みを打ち明けたりとか、人間らしくなったんじゃないですかね。そういうほうが音楽家としてリアルでいい。だからヒップホップやR&Bが好きなんだと思います。

──音楽活動を始めてから約10年が経ちますが、今の自分に対してどんなことを思いますか?

今のほうが自信はありますし、絶対にほかのアーティストに負けたくないっていう気持ちも強いと思います。その反面、これまで培ってきたものにとらわれずに、自由な姿勢でイチから音楽をやりたい気持ちもありますね。

向井太一

プロフィール

向井太一(ムカイタイチ)

1992年3月生まれ、福岡県出身のシンガーソングライター。幼少期よりブラックミュージックを聴きながら育ち、2010年に上京しジャズとファンクをベースとしたバンドにボーカルとして加入する。2013年にソロ活動をスタートし、2016年3月に初の音源となるミニアルバム「POOL」をインディーズでリリース。その後TOY'S FACTORYと契約し、同年11月にミニアルバム「24」を、2017年11月に1stアルバム「BLUE」を発表した。最新作は2023年6月リリースのEP「CANVAS」。